第19話 レンタルオッさん

「現実問題、髪の毛が無いとどうしようもないと思うんだよ」


 平原からリールカームの塀の中に帰ってくるなり、ハゲ頭を抱えながらハツカはそう言った。


「主殿はハゲじゃからのう」


 自称精霊のメデュラが、ハツカの頭を笑いながらペチペチと叩く。


「う……、分かってることだけど、改めて面と向かって言われるとグサっとくる」


「気にするでない。主殿はハゲじゃが、最強じゃ」


「最強って言っても、髪の毛がないと魔物相手にスキルが使えないじゃないか」


 先ほど、ビッグボア相手に[髪の毛操作]のスキルが使えず、ハツカとしては身が縮む思いをしたのだ。

 グールと戦った時にスキルが使えたのは、グールが髪の毛がある人型の魔物だったからだ。


 あの時、森で遭遇した魔物が人型のグールじゃなく、ビッグボアのような獣型の魔物だったなら、どうなっていただろうかと想像して恐ろしくなる。

 クラスアップした身体能力で殴れば勝てるかもしれないが、そんな勇敢な戦い方などFランク冒険者のハツカにいきなり出来るわけが無い。


「それに、このままだとギルドから受けた薬草採取の依頼が失敗になるんだ」


 ギルドからの依頼という形で日々の仕事を受けることが主な冒険者にとって、依頼失敗でギルドからの信用度が下がることは避けたい。

 薬草採取という最底辺の依頼しか受けられないハツカの信用度がこれ以上下がれば、冒険者として廃業しか道は無いのだ。


「なんとかして期限の今日中に薬草を手に入れないと」


「ふむ。そういうことなら、手が無いわけでは無いぞ」


「え、もしかして髪の毛が生える方法があるとか!?」


「そんな方法ないわ。いい加減諦めるのじゃ」


「そんなー……。けど、それならどういうこと?」


 ハツカの問いに、メデュラはニヤリと笑って答える。


「自分が持たないのなら、持っている者に借りればよい」


 メデュラは懐から、紙を1枚取り出してハツカ手渡す。


「こ、これは……!」




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「いらっしゃいませー! レンタルオッさんリールカーム店へようこそ!」


『いらっしゃいませ!!!』


 ハツカとメデュラが店の扉をくぐると、愛想のいい女性店員と多数の野太い声が迎えた。

 二人は、先日チンピラに絡まれているところを助けた小さなオッさんにチラシを渡されたレンタルオッさんの店に来ていた。


「お悩み相談から冒険者の荷物持ちまで! 何でもこなすオッさんが揃っております。レンタルされるオッさんはお決まりですかー?」


『お決まりでしょうか!?』


「え、あ、え……!」


「ほー、こりゃまた壮観じゃのう」


 入店早々畳み掛けてくる店員にも圧を感じるが、何より圧倒されたのは店内に客を迎えるように整列するオッさん達。

 二十人は下らない様々なオッさん達が揃いも揃ってこちらを見ているのだ。


 圧迫感が凄いというか、正直絵的にキツい。

 ハツカが少々げんなりしていると、唯一の女性である店員がこちらに近づいて来た。

 服装は店員らしいシンプルなブラウスとスカートなのだが、髪は金色をベースに赤、青、緑など様々な色のメッシュが入っており、異常に派手だ。


(この店、なんか色々濃すぎないか!?)


「冒険者の方ですかー? 荷物持ちをお探し? あまりに危険度の高いところだとオッさんによってはお断りさせて頂く場合もありますが、ご了承下さいねー!」


「え、いや、荷物持ちじゃなく……」


「あれ? 違いましたか。あちゃー、私の商人としての勘も鈍りましたかねー。冒険者の方だから、依頼に同行してくれる荷物持ちお求めなのかとばかり」


「依頼に同行はしてもらうんですけど、荷物持ちをしてもらうわけじゃ……」


「主殿」


 メデュラがハツカをジロリと睨んでくる。

 そこまで正直に言う必要はないと暗に訴えているのだろう。


 もちろん、ハツカとメデュラはレンタルオッさんの店にオッさんをレンタルしに来ていた。

 魔物相手では【髪の毛を統べるモノ】のスキルがほぼ使えないハツカのために、髪の毛を貸してくれる同行者が必要だからだ。

 ハツカとしても、正直【髪の毛を統べるモノ】の能力は隠しておきたいが、冒険者として少なからず危険がある依頼に同行してもらう以上嘘はつきたくなかった。


(かと言って信じて貰えるかは、微妙な気がするなぁ……)


 ハツカも、自身のことで無ければクラスアップや【髪の毛を統べるモノ】のことなど信じなかったかもしれない。

 魔物を戦うために髪の毛を貸して下さい、なんて言って貸して貰えるものなのだろうか。


「ありゃ? お客様、何か訳ありで?」


 そんな二人の微妙な空気を読みとったのか、派手な髪の女性店員が話しかけてくる。

 なんと説明したものかとハツカが困っていると、店の少し奥からトテトテと何か小さなものが走ってくる音がした。


 それは「ぴーっ! ぴーっ!」と喜びを表すように声をあげながら、ハツカに飛び込んできた。

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