無能な【髪の毛使い】はハゲてから最強です~自分の髪が無いのでレンタルおっさんを小脇に抱えて無双する~
路地浦ロジ
第1話 草むしりの冒険者
子供のころから、絵本に出てくる「黄金鎧の勇者」に憧れていた。
「黄金鎧の勇者」は、冒険者として世界中を旅しながら竜に囚われたお姫様を助けたり、魔物に襲われる街を救ったり、最後は魔王を倒して世界を救ってしまうのだ。
おとぎ話の絵本だとは分かっている。
勇者になれるなんて思っていない。
それでも「黄金鎧の勇者」みたいに冒険者として、誰かを守れるようになりたい。
そう、思っていた。
------------------
中規模街リールカームと隣村との間にある森の中。
「よし、今日も薬草採取頑張るか」
黒髪超長髪の青年--ハツカは冒険者として薬草採取依頼に勤しんでいた。
「スキル[髪の毛探査]!」
スキルを使用すると、足元まで伸びたハツカの黒髪がワサワサと動き始める。
[髪の毛探査]は髪の毛を昆虫の触覚のように使い、周囲にあるものをレーダーのように探査するスキルだ。
頭の中に浮かんだレーダーに、半径数メートルの範囲にある薬草の位置がピコンと表示される。
薬草が、右前方に一本、左に一本、後方に一本、魔物は前方にスライムが一体。
「近くに三本もあるとか、幸先いいな。スライムは迂回して回避っと」
薬草は回復ポーションを作るのに必須の材料だが、他の植物に隠れて自生するので探査系のスキルを使わないと見つけるのは難しい。
しかも、まとまって生えることがないので、需要の割に採取が手間なのだ。
「けど、このスキル[髪の毛操作]があれば」
探査に使っていなかった残りの髪の毛がワサワサと動き、周囲の薬草へと自動でシュルシュルと伸びていく。
髪の毛はそのまま隠れていた薬草を三本とも引っこ抜くと、ハツカの手元まで戻ってくる。
「薬草三本ゲット! ほんと【髪の毛使い】のクラスって薬草集めに便利だな……。薬草集めにだけ……」
自分で言ってて悲しくなったのか、ハツカがうなだれる。
クラス--。
それは、魔物以外の生物が精霊から授かる能力のこと。
生まれた時に一つは必ずクラスを与えられ、人間であれば遅くとも十歳頃までには自分のクラスを自覚する。
例えば【剣使い】のクラスは、剣を上手く扱い、剣に関するスキルを得ることができる。
【槍使い】【炎魔法使い】などの戦闘に特化したものから、【農具使い】【鍋使い】など生活に寄り添ったものまで。
そのため、人々はクラスによって自分の仕事を選び、生きて行くことになる。
【槍使い】なら騎士、傭兵、冒険者。【鍋使い】なら料理人。【馬使い】なら騎兵や御者、行商なんかもできるかもしれない。
逆にいえばクラスに自分の将来を縛られているとも言える。
何故ならクラスは後天的に変更したり、得たりする事ができないから。
生まれた時に良いクラスを得た者は良い生活ができ、残念なクラスを得た者は残念な生活をおくることになる。
正にハツカの【髪の毛使い】は、残念なクラスなのだろう。
使えるスキルは、自分の髪の毛を自在に操る[髪の毛操作]と髪の毛を触覚のように使って付近の状況を把握する[髪の毛探査]のみ。
[髪の毛操作]は、人力程度のことしか出来ないため、遠方の物を拾うくらいにしか役に立たない。
[髪の毛探査]も、探査系が得意な魔法使いには、範囲も精度も大きく劣るので、高難度のダンジョンなどでは使い物にならない。
できる事といえば、[髪の毛探査]を使って弱い魔物から逃げ周りながら薬草を探し、[髪の毛操作]で効率よく薬草を採取していく事くらいのものだ。
いつかは、戦闘用のスキルが目覚めるかもと頑張って冒険者を続けているものの、絵本の「黄金鎧の勇者」に憧れて冒険者になってからもう六年。
二十一歳になった今では、そんな夢叶うわけないともう分かっているが、心のどこかで諦めきれない自分がいる。
(クラスを自覚した十歳のあの時も……)
------------------
十一年前のある日、ハツカは朝起きると自分の髪の毛がワサワサと動いている事に気付き、突然自分のクラスが【髪の毛使い】であることを自覚した。
自分のクラスが分かったことが嬉しくて、急いで両親に話すと、
「髪の毛使い? そんな聞いたこともないクラス、何の役にも立たん」
「そんな変なクラスなんて恥ずかしくて、誰にも話せないじゃない。いいからもうお勉強だけしてなさい」
両親は視線さえもハツカに向けることなく、返ってきたのはそんな冷たい言葉だけだった。
街の学校でクラスが【髪の毛使い】だったことを話した時も、
「髪の毛使い? なにそれ、だっせー」
「ハツカのクラス、髪の毛動かすしかできないなんて、雑魚じゃん」
「髪の毛動かしてみろよ、ハツカ。俺様の【剣使い】のスキルで試し斬りがてら散髪してやろうか? ガハハハ!」
同級生達には散々馬鹿にされ、ガキ大将のゴルデオからは髪まで斬られそうになった。
成人してから、反対する両親から逃げるように家を出て、冒険者になったものの、結局【髪の毛使い】では魔物一匹倒せない。
だからずっと冒険者ランクは最低のFで、薬草採取しかできないから「草むしり」と他の冒険者にバカにされる。
けど、そんな生活にももう慣れた。
髪の手入れに力を入れてスキルを研鑽しても、魔物の本を読んで対処法を勉強しても、実際に戦えなくては冒険者として無能なのだ。
------------------
「はぁ……」
昔の事を思い出し、少し憂鬱になりながら、ハツカはいつものように冒険者ギルドの扉をくぐった。
(たぶん……っていうか間違いなく、今日も馬鹿にされるんだろうなぁ)
⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘
● 絶エズ研鑽ヲ重ネシモノ
◯ 研鑽ノ全テヲ失イシモノ
◯ ソレデモ誰ガタメニ抗イシモノ
⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘
----------
あとがき
読んで頂き、ありがとうございます!
少しでも「面白い」や「続きが読みたい」と思って頂けましたら、応援や評価を頂けると嬉しいです。コメントやレビューなんて頂けたら飛び跳ねて喜びます。
皆さんの応援が何よりのモチベーションになりますので、何卒よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます