第6話(4)カルチャーギャップ

「はあ……」

 天馬さんと話をした翌々日、そして、功人さんと話をした翌日の昼休み、わたしは学食でため息をつく。

「静香、隣に座っても良いかな?」

「どうぞ……」

「失礼する……」

 わたしの隣の席にジャッキー=バラバンさんが腰をかける。制服ではなく、ロールプレイングゲームやアニメから飛び出してきたかのような衣服を身に纏っている。目立ってしょうがない。案の定、わたしたちの周りの席には誰も座らず、多くの女子生徒たちが遠巻きにこちらを眺めている。一昨日、昨日と同じような状況だ。恥ずかしい。

「ふう……」

 わたしは再度ため息をつく。

「……何故にこの辺りの席は空いているのだ?」

 ジャッキーさんは首を傾げる。

「さあ、何故でしょうね……?」

 わたしも首を傾げる。

「もしや……」

「え?」

「階級によって、座る席が決まっているのか?」

「いやいや、そんなわけがないですよ……」

 そんなエグい制度を採用していたらドン引きするよ。ここは至って普通の学園だって。校名を除けばの話だけどね。

「そうか」

「そうです」

「では何故だ?」

「何故でしょう?」

 わたしは再度首を傾げる。

「ふむ、分かったぞ……!」

「外れです」

「い、いや、まだ何も申してないぞ!」

「ああ、すみません……」

「つまり……あれだな?」

「あれってどれですか?」

「あ、あれというのは言葉の綾だ。いちいち聞くな……」

「それはすみません……」

「……討伐数だろう?」

「はい?」

 わたしは首を捻る。

「モンスターの討伐数で序列が決まるのだろう?」

「殺伐としているな!」

 わたしは声を上げる。

「違うのか?」

「違いますよ……人の通っている学校をハンター養成機関にしないでください……」

「ふむ……」

「とりあえず食べたらどうですか?」

 わたしは料理を指し示す。

「これは……モンスターの肉か?」

「獰猛としているな!」

 わたしはまた声を上げる。

「なんだ、違うのか?」

「違いますよ……食券買ったんじゃないんですか? あ、文字が分からないか……」

「馬鹿にするな」

 ジャッキーさんがムッとする。

「いや、馬鹿にしたわけではないんですが……」

「この世界の文字は不思議と読める……」

「へえ……」

 異世界転生――いや、この場合は転移か――って便利なものだな……。

「ただ……」

「ただ?」

「文字の意味が分からん」

「意味がないじゃないですか!」

「そうだな」

 ジャッキーさんは両腕を組んで頷く。

「じゃ、じゃあ、何が出てくるかも分からずに買ったんですか⁉」

「ああ」

「冒険心に富み過ぎている!」

「当然だ、勇者だからな」

 ジャッキーさんは誇らしげに胸を張り、長い髪をかき上げる。

「褒めてないですけど……」

「しかし、周りに人がいない意味が分からんな。よし、聞いて回るとするか」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 席を立とうとするジャッキーさんをわたしは引き留める。

「なんだ?」

「き、聞いて回るとは?」

「そのままの意味だ。この場にいる全員に理由を聞く」

「とことんロールプレイング!」

「ん? どういうことだ?」

 ジャッキーさんが首を捻る。

「い、いえ、こちらの話です……このままだと昼休みが終わってしまいますから、どうぞ食事をなさってください……」

「気になるのだが……」

「あれですよ、勇者であるジャッキーさんに畏敬の念を抱いているのです」

「畏敬の念?」

「そうです、近づくのも畏れ多いというか……」

「我は気にしないが……」

「この国の人間はシャイなのですよ」

 そんなに間違ったことは言っていない。イケメンに気後れしているのは確かだから。

「シャイ?」

「恥ずかしがり屋だということです。とにかく食事にしましょう……」

「そうだな……それにしても、さっきのモンスター討伐、見事だったぞ」

「お褒めに預かり光栄です……」

 わたしは大仰に頭を下げる。そう、今日も昼休みの最初の数分間を費やしてしまったのだ。今日はモンスター討伐だった。相手はコボルトだった。犬のような頭部をした人型の生物だった。キングコボルトは出てこなかったのが幸いだった。そこまで時間はかからなかった。早く教室に戻って少しでもいいから体を休めたい。

「……そういえば、コボルトの肉というのも意外と美味なのだぞ? そなたの食べているものと感じが似ている」

「食欲が減退することを囁かないでくださいよ!」

 わたしの食欲の値が大分下がった!

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