第4話(4)コードネームはサイレンス

「さあ、一緒に戦おう!」


「えっと……」


「さあ!」


「う、う~ん……」


「ともに!」


「い、いや……」


「行こう!」


「嫌です!」


「ええっ⁉」


 わたしの大声による拒否に、ノリタカさんは困惑する。わたしは頭を下げる。


「い、いや、すみません、いきなり大声なんか出しちゃって……」


「そ、それは別に構わないけれど、嫌なの?」


「いや、嫌でしょ、それは……」


「何故かな?」


 ノリタカさんは不思議そうに首を傾げる。


「何故って……」


「いいかい? 君は適性の高いスペースポリスマンなんだよ?」


「いや、そう言われてもですね……」


 わたしは困り顔で鼻の頭をポリポリと搔く。


「なかなかなれるものじゃないよ、スペースポリスマンというものには……」


「なんと言いますか……」


「ん?」


「いや、なんでもないです……」


 わたしは右手を左右に振る。


「なんでもないということはないだろう」


「ええっと……」


「言いたいことは遠慮しないではっきりと言うべきだよ」


「いや……」


「……分かった」


「え?」


「テンションがイマイチ上がらないんだね?」


「は?」


 わたしは首を傾げる。


「あれが欲しいんだね?」


「あ、あれ?」


「ああ」


「あれとは?」


「コードネームさ!」


「はあ?」


「俺としたことがまったくもって迂闊だったよ……そうだよな、コードネームが無ければ、気合も入らないってものだよな……」


「え、ええっと……」


「ちょっと待ってくれないか……」


 ノリタカさんが右手をわたしの目の前に突き出す。


「は、はい……?」


「……」


「………」


 時間にして十数秒。


「よし、決めた!」


「え、ええ?」


「とっておきのコードネームだ!」


「今、ちょっと考えただけですよね⁉」


「それでは発表するぞ! ダン! ドゥルルルルルルルルルル……」


「ド、ドラムロールを口で表現⁉」


「ルルルルルルルルルル……ダン! 君のコードネームは……」


「…………」


 わたしは一応だが息を呑む。


「……『サイレンス=シズカ』だ!」


「お断りします」


 わたしは即座に頭を下げる。


「そ、即答⁉」


「そりゃあそうですよ……却下です」


「な、何故だい……?」


「何故って、どこの競走馬ですか……大体、わたしの名前の静香から取ったんでしょうけど、サイレンスって……意味が重複しちゃっているし……」


「ダ、ダメ出し⁉」


「それはダメ出しもしますよ……」


「そ、そんな……」


「……愕然とされていますね」


「そ、それは愕然ともするだろう……」


「……………」


 エイリアンがゆっくりと――ニュルニュルと――こちらに近づいてくる。


「エ、エイリアンが接近してきていますよ!」


「……せっかく共に戦えると思ったのに」


 ノリタカさんはがっくりとうなだれている。


「………………」


「ノリタカさん!」


「……!」


「……デストロイ=ノリタカだ!」


「!」


 エイリアンが襲いかかってきたが、ノリタカさんは視線を逸らしたまま、強烈な裏拳をエイリアンに叩き込む。エイリアンは後方に思いっきり吹っ飛ばされる。


「つ、強い……! な、なんというパワー……!」


「それはそうだよ、なんといっても時代を先取るニューパワーだからね……」


「は、はあ……」


「君も手伝ってくれれば良いのだけれど……」


 ノリタカさんが残念そうな表情でわたしを見つめてくる。雨に打たれた子犬の様だ。


「い、いや! 別に手伝わなくても十分だと思いますけど⁉」


 わたしは困惑する。あなた一人だけでも全然大丈夫なんじゃないかな……。


「…………………」


「あ、エイリアンが体勢を立て直した!」


「……!」


「ま、また近づいてきていますよ! さっきまでより速い!」


「……‼」


「と、飛びかかってきました!」


「しつこい!」


「‼」


 ノリタカさんが腰のホルダーから銃を抜き放って素早く発砲する。銃撃を受けたエイリアンの体が四散する。わたしはあっけに取られてしまう。


「じゅ、銃……?」


「スペースポリスマンに支給される光線銃さ。俺用にチューンアップしている……こいつをまともに食らったら、どんなエイリアンもひとたまりもない……」


「………!」


「おわっ⁉」


 四散したエイリアンが四体に再生して、ノリタカさんを襲う。伸びた足がノリタカさんの手足を締め付ける。


「キスアンドクライ=ノリタカさん!」


「デストロイ=ノリタカだよ。どういう間違いだい? ちぃっ、油断した……」


「さ、再生した?」


「再生・分裂能力持ちか……なかなかレアな存在だね……」


「ノリタカさん、大丈夫! ……ではないですよね」


「手足の自由を奪われてしまった……サイレンス、ここは君に任せるとするよ」


「ま、任せるって……?」


「スペースポリスマンとしての初任務だ」


「そ、そんなこと言われても……」


「このままだと、俺がやられる。そうなると次のターゲットは君や周囲の人々だ……」


「! ……戦うしかないということですか……」


「ああ、そうだ」


「し、しかし、一体どうすれば⁉」


「空に向かって右手をかざすんだ!」


「こ、こうですか⁉ うん⁉」


 空から赤色のレーザーがわたしに向かって降り注ぎ、わたしの体を包み込む。


「スペースステーションが君に装備と能力を授けた! やれるはずだ! やってみろ!」


「ア、アバウトな指示⁉ ……ええいっ! ああっ⁉」


 わたしが力を込めて右手を振ると、大きな岩が四つ生じ、エイリアンを叩き潰す。


「………‼」


 四体のエイリアンが霧消する。


「……倒せた?」


「自然の力を借りるタイプか……あの岩……『花崗岩』だな。岩は処理班に片付けておいてもらおう。サイレンス=シズカ、初任務ご苦労さん、この調子でこれからも頼むよ」


 手足の自由が戻ったノリタカさんが機器を活用して分析し、連絡を取ってから、戸惑っているわたしに向かって、右手の親指をビシっとサムズアップする。

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