第2話(2)青年はスーパーヒーロー

「最寄田静香さんだね?」


「は、はい……」


 わたしは頷く。


「新年度二日目か、思ったよりは早く出会うことが出来て良かったよ……」


 栗毛色の髪をした青年は胸に手を当てて、にっこりと微笑む。かなりハンサムな顔立ちをしている。髪型も短すぎず長すぎず、整っているし、清潔感を感じさせる。まさにお手本のようなイケメンだ。だがしかし……。


「……」


 わたしは自然と距離を置こうとする。青年がそれに気が付き、首を傾げる。


「うん? どうかしたのかな?」


「いや、なんというか……」


「ひょっとして……警戒しているのかい?」


「ま、まあ、そうですね……」


 昨日の今日だし、しょうがないだろう。わたしは素直に頷く。


「ははっ、私は決して怪しい者などではないよ」


「そ、そうですかね⁉」


 わたしは思わず大声を上げてしまう。高校生が集まっている中で、アメコミ映画の登場人物のような恰好をしている男性はどう考えても怪しい寄りだと思うのだが。コスプレイヤーの集まりというわけでもないのに。


「そうだよ。だからそんなに警戒しないでもらいたいな」


「……何故、わたしの名前を知っているんですか?」


「それはもちろん、君に用があるからだよ」


 わたしの問いに対し、青年は頷いて、わたしを指し示す。


「……趣味は人それぞれだと思いますけど、いきなりコスプレというのはちょっと……なかなかハードルが高いというか……」


「! わっはっはっは……!」


 青年は高らかに笑う。わたしはちょっとムッとしながら尋ねる。


「な、なにがおかしいんですか?」


「いえ、失礼……私はコスプレイヤーではないよ。こういうものだ」


「え? め、名刺……? ええっと、浜松……こうとさん?」


「エリートだ。浜松功人はままつエリート……単なるスーパーヒーローさ」


「ス、スーパーヒーロー⁉」


 わたしは思いもかけないフレーズに驚く。


「そうだよ、ごくごく普通の」


 功人と名乗った青年は整った髪をかき上げる。


「スーパーヒーローはごくごく普通ではありませんよ!」


「そうかい?」


「そうですよ! 初めて見ました!」


「初めて?」


 功人さんは驚いて目を丸くする。


「ええ、初めてです! 激レア!」


「こんなに大都市のトキオで?」


 功人さんは両手を広げて、周囲を見回す。トキオって言い方なんだか腹立つな。


「はい」


「近くの新宿ステーションは世界一の乗降客数だと聞くよ?」


「そ、そうらしいですね……」


「それなら中にはいるだろう、スーパーヒーローの一人や二人」


「い、いや、それはもしかしたらいるかもしれませんけど、そんないちいち確認したりはしませんから……日本のヒーローは正体を隠すんじゃないですか、知らないですけど」


「ふむ……日本のスーパーヒーローというのは奥ゆかしいのかな……」


 功人さんは顎に手を当てて呟く。


「お、奥ゆかしいかはどうかは知りませんが……あの、もういいですか? ホームルームが始まってしまいますので……」


 わたしはその場から離れようとする。


「あ、ちょっと待ってくれないか……!」


「はい?」


 わたしは呼び止められ、振り返る。


「………」


 功人さんは左腕に巻いた腕時計のような機器を操作しながら、周囲を伺う。


「あ、あの……?」


「……うん、とりあえずは大丈夫のようだね」


 功人さんは頷く。


「は、はあ……」


「……そうだな……放課後、またお話出来るかな?」


「ええ……」


 わたしは露骨に困惑する。


「おや、困惑しているね。どうしてだい?」


「いや、どうしてだいって言われても……」


「コーヒーをご馳走するよ?」


「……コーヒーって、学食のでしょ?」


「学外がご希望ならそれでも別に構わないのだけれど……」


「いや、いいです。失礼します」


「待っているよ」


 わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室へと向かう。夕方になり、ホームルームも終わる。この怪しげなイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば……。


「げっ……」


 裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。功人さんが何故かそこにいたからだ。


「やあ♪」


「……なんでここに?」


「いや、学外でお茶するならこちらの方が良いお店が近いのでね」


「……そういえば、もしかしてなんですけど……」


「ああ、私は転入生だよ」


「せ、制服を着てなくても良いんですか?」


「特例で認めてもらったよ」


「そんなことが……」


「出来るのさ。スーパーヒーローだからね」


 功人さんがウインクしてくる。わたしは思ったことを口にしてしまう。


「……そんなスーツを着ていて恥ずかしくないんですか?」


「恥ずかしい? どこかだい?」


 功人さんが両手を広げる。


「いや、結構ピチピチだし、周りから浮いているし……」


「周囲と違うのは恥ずかしいことじゃないさ。ステイツで個性の大切さを学んだからね」


「ス、ステイツ?」


「ああ、合衆国のことさ。あちらで過ごすことが多かったからね」


「……アメリカ帰りのスーパーヒーローさんが何の御用ですか?」


 わたしの若干イラついた視線に功人さんは苦笑交じりで応じる。


「何かトゲを感じるが……あ、出てきたな、ヴィランだ。さあ、共に戦おうじゃないか」


「はいいっ⁉」


 功人さんの提案にわたしは驚く。

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