第5話(1)注目の的

                  5


「決勝トーナメント進出じゃ!」


「すごいね、竜子!」


 昼食の席で太郎は竜子を褒める。


「ふふっ、まあ、それほどでも……」


「それほどでも?」


「あるのう!」


「あっはっは!」


「わっはっは!」


 太郎と竜子は高らかに笑い合う。


「まだ小学生なのに、飲み屋のおじさんみたいに盛り上がっているわね。まったくどこで覚えてきたのやら……」


 ママが呆れた視線を向けながら呟く。


「ははは……」


 パパが苦笑する。


「こんなに調子に乗っちゃって大丈夫なのかしら?」


「初参加の大会でこんな快進撃だ。ちょっとくらい調子に乗るのも無理はないよ」


「それはそうかもしれないけれど……」


「それに……」


「それに?」


「このままでいいのかもしれない……」


「このままって?」


「調子に乗ったままでいいってことさ」


「そうかしら?」


 ママが首を傾げる。


「ああ、こういう短期決戦には勢いというものがある」


「勢いでそのまま押し切ってしまえってこと?」


「うん、そういうことさ」


 パパが頷く。


「そんなに上手くいくものかしらね……」


「ひょっとするかもって言ったのはママだろう?」


「……それはそうね」


 ママが笑みを浮かべる。


「なんの話をしているんじゃ、ママさん、パパさん⁉」


「なんでもないわ……」


「ママもパパも遠慮しないでどんどん食べて食べて!」


「太郎、そういうのはこっちのセリフだから……」


 ママが呆れる。


「ははっ、まあまあ、竜子、食べて、午後の決勝トーナメントに向けて英気を養おう」


 パパが笑顔を浮かべる。


「うむ! それではこのドカ盛りパスタをおかわりなのじゃ!」


「え?」


「あとはこのビッグオムライスも注文したい!」


「ええ?」


「デザートにはこのメガトンパフェも……」


「ちょ、ちょっと待って……あんまり食べすぎるのも良くないんじゃないかな……」


 パパが苦笑を浮かべる。


「む? そうかの?」


「そ、そうだよ……」


「でも、甘い物を食べると頭の働きが良くなるって聞くよ?」


「た、太郎……!」


「ふむ……では、メガトンパフェだけにしておくか……」


「ま、まあ、それだけなら……」


 パパが懐具合を確認しながら注文する。しばらくして……。


「お待たせしました。メガトンパフェでございます」


「デ、デカっ⁉」


「こ、これは……」


 テーブルの三分の一くらいを占拠する大きなグラスが置かれる。パパとママが驚く。


「なんてたってメガトンですから。ごゆっくりどうぞ……」


 店員はどこか誇らしげに告げて去っていく。太郎もあっけにとられながら呟く。


「す、すごいね……」


「メガトンじゃからな」


「周りの注目も集まっているよ……」


「ふふっ、それはそうじゃろうな……」


「あ、そうでもないね……」


「なにっ⁉」


「周りの注目は隣のテーブルに集まっているね……」


「隣のテーブル? はあっ⁉」


 竜子が隣のテーブルを見ると、金髪縦ロールの髪型に豪華なドレスを着たお嬢様然とした女の子が傍らに執事を立たせて、優雅に食事を取っていた。女の子が告げる。


「セバスティアン……」


「……私は山田です」


「アフタヌーンティーをお願いするわ」


「お嬢様、アフタヌーンティ―とは午後の4時から午後の5時あたりにお飲みになるものです。いささか早すぎます」


「……食後の紅茶をお願い……」


「かしこまりました」


「……し、執事を連れている……絵に描いたようなお嬢様だ……」


「レストランで独自に食事しているけど……良いのかしら?」


 パパとママが驚きながら呟く。


「ちゅ、注目をすっかり奪われちゃったね……」


「ぐっ……」


「まあ、お嬢様相手ならばしょうがないよ……」


「なんの!」


「りゅ、竜子⁉」


 太郎が驚く。竜子がメガトンパフェを一気に食べてしまったからである。


「ふふっ、どうじゃ……?」


「ま、周りの注目が集まっているよ!」


「ふふふっ、そうであろう……」


「大したパフォーマンスでございますわね……」


「!」


 女の子が竜子のテーブルに近寄ってくる。


「前哨戦は貴女に譲って差し上げますわ」


「前哨戦じゃと?」


「午後はどうぞよろしく……」


「! 決勝トーナメント初戦はお主が相手か⁉」


「そういうことです。それでは後ほど……さあ、行きますわよ、セバスティアン」


「山田です。失礼……」


 お嬢様と執事はその場から優雅に去って行く。

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