第2話(3)囲いについて

「頼む」


「ああ、じゃあまずは囲いを……」


「かこい?」


「王――こういう場合は玉と言った方が良いかな――玉を守る為の陣形のことさ」


「玉を囲うのか」


「うん」


「玉を取られたらおしまいなわけじゃからな……守りを固めることが大事か……」


「そういうこと」


 パパが頷く。


「ふむ……」


 竜子が盤面を見つめながら頷く。


「続けてもいいかな?」


「ああ」


 竜子が頷く。


「まずは相居飛車。お互いが居飛車の場合にもっともポピュラーだとされるのが、『矢倉戦法』。お互いが『矢倉囲い』を用いるときだね」


「やぐらがこい……」


「あくまでも一例だけど、こんな感じ……」


 パパが駒を並べる。


「ふむ、玉を8筋の桂馬の前に移動させて、9筋の歩を前に出し、同じく、7筋の歩も前に出し、そこに銀を置き、その後ろ、玉の右、7八に金を置き、さらに、6筋と5筋の歩も前に出し、6七にも金を配置すると……」


「そうだね。上と斜めからの攻撃に強い囲いだよ」


「ほう……あくまでも一例とは?」


「金銀の配置の仕方などで呼び方が変化するんだ」


「これは?」


 竜子が盤面を指差す。


「これは『金矢倉』だね。他にも、『銀矢倉』というのがある……」


 パパが駒を並べ直す。


「これは……金の代わりに銀を二枚用いた囲いか……」


「よく気が付いたね。将棋の格言に『玉の守りは金銀三枚』というのがあるんだ」


「それでは、金と銀のいずれか一枚を攻撃に用いるということか」


「そうだね、銀を攻撃に使うと良いかな。『攻めは飛車角銀桂』という格言もあるよ」


「うむ……」


「他にも『菱矢倉』、『土居矢倉』などがあるね」


「ほう……」


「『へこみ矢倉』というのもあるみたいね」


 ママがスマホを眺めながら呟く。


「囲みがへこんでいてはしょうがないと思うのじゃが……まあ、それはそれで効果的なんじゃろうな……」


 竜子が腕を組んで頷く。


「『カニ囲い』や『かまぼこ囲い』というのもあるよ」


「おいしそうだね」


 太郎が呑気な感想を述べる。


「かまぼこ囲いは別名、『ミレニアム囲い』というんだ。こっちの方が一般的かな?」


「色々あるんじゃな……」


「原則としては、左銀――初期位置7九銀――が2マス前方に位置し、その下のマスに左金――初期位置6九金――がいて、玉が初期位置より左方に移動していれば、『矢倉』というものは成立していると考えていいようだね」


「なるほど……他には?」


「『雁木』というのがあるね」


「がんぎ?」


「こういう囲いだね……」


 パパが駒を並べ直す。竜子が盤面をじっくりと見つめる。


「玉を左に一マス動かし、左右の斜め前のマスに金を配置、その一列前の5筋と6筋n銀を並べると……」


「これも相居飛車で主に用いられる。上部からの攻撃に強く、矢倉よりも手数が少なく囲いを組めるというメリットがある」


「後は『舟囲い』……」


「ふながこい……」


「相手が振り飛車の場合、居飛車で用いられる囲いだね……こんな感じ」


「……左方の金銀は動かさず、玉を角の横に置いて、歩を1マス前に進め、右金を5八に置くか……」


「ここから少し変化して、『ボナンザ囲い』、『箱入り娘』という囲いにする場合もある」


「ボ、ボナンザ囲い……?」


「どういうネーミングよ……」


 太郎とママが困惑する。


「他には、『天守閣美濃』、『左美濃』、『銀冠』、『穴熊』、『中住まい』、『中原囲い』、『右玉』、などがあるけど……」


「全部教えてくれ」


「え?」


「全部」


 竜子が真剣な顔つきでパパを見つめる。


「わ、分かったよ……」


「……」


 パパが駒をその都度並べ直し、竜子はそれをじっと見つめる。


「……居飛車の場合の囲いはこんな感じかな?」


「ふむ……では、振り飛車の場合は?」


「『美濃囲い』が一番用いられるかな」


「みのがこい……」


「これも一例だけど、こんな感じ……」


「玉を2筋の桂の前に移動させ、1筋の歩を1マス前に進め、銀を玉の左に配置……」


「対抗形でも、相振り飛車でも登場する、組みやすく、バランスの良い囲いかな」


「他には?」


「『銀冠』……こんな囲い……」


「ぎんかんむり……玉を2二の位置に移動、1筋から4筋の歩をすべて1マス前に進め、2七銀、3七桂、4七金と並べ、玉の左、3二に金を配置……」


「上部と端と横からの攻撃に強いね。主に対抗形で用いられる……」


「ふむ……居飛車の銀冠とは違うんじゃな?」


「そうだね、居飛車の場合は角も用いることがあるから……他に居飛車と同じ名前だけど、囲い方が違うのは……『穴熊』」


「あなぐま……玉を端っこに置く囲いじゃな。香を1マス進め、1九に玉を移動、銀を2八、3七と4七に金を縦に並べると……」


「駒を密集させた、とても堅い囲いだよ。金銀の配置などによって、『銀冠穴熊』や『ビッグフォー』などの派生形がある。他には『金無双・二枚金』、『右矢倉』など……囲いについては大体こんな感じかな……」


「それでは続いては定跡について頼む……!」


「う、うん、分かったよ……」


 パパは竜子の圧に押される。

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