鏡(前編)

@ku-ro-usagi

前編

昔から

と言っても15歳くらいからかな

鏡を見ると

たまに

鏡の中の自分が自分と違う動きをする様になった

ごくたまにね

でも怖いものじゃなくて

大体は

疲れてる時とか

初めては受験のストレスだったんだと思う

寝不足で顔を洗って顔を上げたら

私はタオルを持っているのに

顔の向こうの私は髪を頭を搔き毟っていて

「あぁ、少し勉強休もう」

って思えたんだ

禿げるの嫌だし

見えるのは

ほぼ洗面所

何だろう、水と関係ある?

でもお風呂では見えない

大きさ?

わからない

初めての時からだけど、怖さはないんだ

「あぁ自分疲れてるんだな」

って目安になる位

動きも

髪をかきむしっていたのがマックスで

失恋した時は

私は鏡で自分の顔を眺めながら涙を流していたのに

鏡の中ではすごい肩を落として溜め息吐いて旋毛を見せてたし

全くの後ろ姿だった時は

まだ慣れない仕事が繁盛期に差し掛かった時

手の抜き方もわからずいっぱいいっぱいで

その時は

鏡の中の自分の後頭部に白髪1本見つけて

慌てて手鏡持ってきて引っこ抜いた

あれはショックだった

鏡の中の自分が違う動きをするのは

どうやら

わりと皆にもある現象でもなく

なんならオカルトやホラー扱いだし

物語でもバッドエンド系多いし

何より

不思議ちゃんと言われるのだけは嫌で

誰にも言わなかった


社会人数年目で

仕事場で半年前に異動してきた

2年先輩のMさんと仲良くなって

閑散期に有給取ってMさんと旅行へ行くことにしたんだ

私は初めての海外でちょっと迷ったんだけど

Mさんが結構行き慣れてる人で

個人でもツアーでもいいけど

私が初めてだしツアーにしようかって

Mさんは一度行ったことある国で

尚且つツアーなら物足りないんじゃって思ったけど

回るコースは前回と違うから大丈夫とのこと

初めてだらけだったけど

慣れてるMさんと更に全日程おまかせツアーだから

思ったよりスムーズで

行きたかったお城を見られたり名物を食べられたり

その国の空気を感じられて嬉しかったな


それでさ

その海外旅行でだったんだ

鏡に

初めて自分じゃない姿が映ったのは

スケジュール的に2泊目と3泊目は同じホテルだった

昼間は目一杯観光してさ

Mさんに

お風呂先にどうぞと勧められて

疲れてたしお言葉に甘えてユニットバスに入った

そのホテルのユニットバスの鏡は

幅は両肩は余裕、上下は胸下が映る程度の大きさの鏡だったんだけど

ふと一瞬

鏡が歪んだ気がしたんだ

私はもう慣れっこで

(あぁ、確かに疲れてるもんね、でも、身体は疲れてるけど気持ちは元気いっぱいのはずなんだけどな)

って思ってさ

そう

今まで

身体の疲れで鏡の中の自分が違う動きをすることがなかったから

少し不思議に思いつつ鏡を見たら

見えたのは

Mさんの俯きがちな背中だった

え?え?

あれ?

もしかしてMさん、滅茶苦茶疲れてる?

元気に楽しそうにしてたけど

そう見せないだけ?

私はMさんが見えたことよりも

自分は想像以上にMさんに凄い気を遣わせているのかもしれないと

滅茶苦茶慌てた

けど

どうやら違う

鏡の中のMさんが俯いて見えるのは

スーツケースの中身を確認してる感じで

じっと集中して鏡を見ると

近くのベッドの角やくたびれてきてるカーペット壁紙が見える

「あれ?もしかしてこれガラス張り?」

一瞬疑ったけど

部屋の構造的に、例え鏡じゃなくてガラスにしても

こちらはもう隣室の壁のはず

ならカメラ?

更にじっと見ていると

頭の端にちらりと

何かがおかしいと違和感が訴えてきた

室内が鏡に映ることじゃなくてね

何だろう、何がおかしいんだろう

間違い探しでもするように

私は神経を更に鏡に集中させた

それで気づいた

Mさんが

そう

あまりにも手慣れた様子でスーツケースの中身を確かめてるから

自然すぎて気づかなかった

スーツケースの中身

見覚えるあるものがチラチラ見え隠れしてる

気づいた時に変な声が出かけた

Mさんがごそごそしているのは

私のスーツケースだった







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