CASE03 博田とんたく祭り爆破テロ事件
PARTA 推理編
第1話 お祭り騒ぎ(プロローグ)
「──ねえ、
「何だよ、服ならこの前買ったばかりだろ。浪費家は将来苦労するぞ」
「それもそうだけど……じゃなくて!」
白いカットソーに肌色のチノパンというラフな着こなし術である俺の名は
あの
季節はゴールデンウィークに差し掛かるが、もう初夏のように暑い真昼の陽気。
黒いサマーニットと白いフレアスカート姿の
「明日の土日にいつものお祭りがあるんだよ」
「何を言ってるんだよ。愛理の脳内はいつもお祭り騒ぎじゃないか……いででっ!?」
「ほんと、このデリカシーゼロな男は……」
幼馴染みで腐れ縁の愛理が俺の両頬に洗濯バサミを付ける。
指をつまんだだけで泣きそうに痛いのに、それを顔に使ってくるんだぞ。
これで痛くないとなると病院の紹介状を書かれて総合病院行きとか洒落にならない。
個室は通常のベッドより割高な金額だし、おまけに備え付きのTVを観るには別料金のカードが必要で……色々と面倒くさい。
「龍之助、世の中には言ってはいけない言葉もあってね……」
「あででっ!? わっ、分かったから、それ以上はつけないでくれ!?」
愛理が鋭い殺気を宿し、スカートのポケットから新たな洗濯バサミを取り出す。
何のジョークのつもりだ。
この俺を差し置いて、なに異世界みたいなアイテムボックスとか持ってんだよ。
まあ追求するとキリがないので、愛理が検索したスマホの画面を真っ向から覗き見る。
画面に映る色とりどりの派手な山笠の集団、
元は夏に開催していた大規模のお祭りだったが、近年の温暖化による熱中症を防ぐため、春の涼しい季節へと変更になったらしい。
祭は夏にワイワイやるイメージじゃなく、体調を考慮した春先でやること。
いくら金儲けが出来ても肝心の人材がいないと話にならないからな。
人を楽しませるには労働力も必要不可欠だからな。
「愛理は本当にお祭りごとが好きだなあ」
「龍之助が関心なさなすぎるんだよ」
「祭りごととか苦手だからな」
最後に行った祭りは近所の盆踊りであり、大波のような客足に飲まれる中、お気に入りのロックバンドTシャツにケチャップを付けられたという苦々しい思い出がある。
あのなあ、フランクフルトは絵を書く物じゃなく、食べる物だぞ。
フランクな性格か知らないが、芸術を楽しみたいなら堂々とやれ。
後、悪いことをしたらすんなり謝れよ。
同じ人として非常識過ぎるよな。
「そんな恋人いない歴イコール年齢の龍之助にビックなお知らせがありまーす」
「何だよ、これ?」
「カップル限定で屋台の食べ物のメニューが半額になるクーポン券だよ」
愛理がスマホの画面に映るクーポンコードを見せつけるが、俺から見たらただのバーコードにしか見えない。
何かと都合の良い、老眼なので見えないワードは20歳過ぎの若者(俺)には使えそうにないし……。
「……愛理、ちょっと話があるから下の裏庭までいいか?」
「何、食べ物の恨みは恐ろしいとか?」
「いいからさっさと来い」
俺は人気のない裏庭に愛理を引き連れる。
どこで誰が聞いてるか分からない世の中、迂闊に口を滑らすと人生を棒に振りかねない。
探偵業を
****
「──あのなあ愛理。いくら幼馴染みと言っても接し方に限度があるだろ。こんなことをしたら周りから勘違いされるよ」
「私は別に恋人同士でもいいんだけどね。屋台には誘惑も多いし」
「愛理が良くても俺が困るんだよ……」
俺は頭を掻きながら深く息を吐く。
口ではどうあれ、愛理が俺を異性だと思ってないのは相変わらずか。
このまま何も進展のないまま、季節だけは移ろい変わっていくのだ。
「だからさ、祭りでは別行動ということで決定ということでさ」
「えー、つまんないよ」
「誤解されるよりはマシだろ」
一人より、二人で楽しんだ方が楽しいことは目に見えてる。
だけどそれは同性に至っての話。
一つの屋根の下で若い男女が行き着く先は一つしかない。
こうやって不本意なデキ婚とかが次々と起こるんだろうな。
分からないでもないが、将来の設計もちゃんと組んでだな……。
「しょーがないなあ。モデルの友達に男装やってもらうか」
「……最初からそうしろよな」
まあ愛理は顔が良いし、ルックスの良い相手がいて当然だよな。
愛理の交流関係の広さに感謝しながら、胸を撫で下ろす。
『ジャジャジャジャーン♪』
持ち前の黒いスマホから例の時代劇のテーマソングが大音量で流れ、愛理が迷惑そうに耳を塞ぐ。
こんなのは日常茶飯事だ。
「もしもし、何でも屋の神津探偵事務所にお電話ありがとうございます。浮気調査、迷子のペット探し、またまたお部屋の大掃除などご依頼があれば、是非ともご相談を……」
「……部屋の掃除くらい自分でできないのかしら」
「愛理はちょっと向こう行ってて」
「はーい、ヘボ探偵」
俺は目の前にいる愛理を手で追い払う。
少し雑な扱いになるが、今は大切なお客との交渉中。
こうでもしないと一言一句聞き取れないし、通話にも集中出来ないからだ。
『──お前さんが神津龍之助本人か?』
「はい、私がそうですが、どのような依頼内容でしょうか。お見積りは無料ですので是非ともお話を聞かせてもらえますか?」
『ああ。明日開催される博田とんたく祭りの会場を時限爆弾で爆破する』
「はっ、とんだご冗談を?」
相手は爆破テロなのか、とんでもないことを口に出す。
テロに大して免疫のない俺には子供のイタズラにしか聞こえない。
『冗談ではない。会場に四ヶ所の時限爆弾を設置した』
俺の反応に対し、向こうはクスリとも笑わず、ボイスチェンジャーで変えた声で淡々と喋る。
『一個でも爆発したら他の爆発に誘爆し、多くの怪我人や死傷者が出る』
「そりゃとんでもないな……」
『クククッ。名探偵さんとやら。君の手でお祭り会場を救えるかな』
「ちょっと待て、お前の目的は?」
『目的? 人間たちが目障りだから、この手で消すだけだ。この近年で人間はあまりにも増えすぎたからな』
要するに無差別犯というヤツか。
犯行を未然に防ごうとしても対象者が絞れなく、誰を巻き込んでも構わないという反応。
警察はともかく、探偵にとっては厄介な相手だな。
『だから社会からの制裁をワタシ自らが実行するまでだ』
まるで自分が全知全能の神になった素振りでまくし立てる。
人間に産まれた時点ですでに神じゃないのにな。
『フフフ、実に愉快だ。あっはっは!』
「おい、ちょっと待て!」
『プツン……』
「おい!?」
俺の言葉を無視し、通話が途切れる。
「あー、もう最悪だな」
「どうしたの?」
ちょっとはこっちの話も聞けよ。
不意にスマホを床に投げつけそうになり、一方的に通話を切った相手に苛立つ。
おまけにこちらからかけ直しても電波が入らなく、『おかけになった電話番号は電源を切っているか……』と無機質な女性のコール音が流れる。
「愛理、こうなったのも何かの縁だ。さっき話したカップル作戦で祭り会場に行くぞ」
「えっ、あんなに嫌がってたのにどういう風の吹き回し?」
時に探偵業とは風の吹くまま、思いのまま。
俺が動かないと何も知らない祭り会場は血の海でパニックになるんだ。
そう考えるといても立ってもいられない。
「まあ俺にも色々とあるんだよ」
「色々かあ。龍之助は情緒不安定なのかな?」
「そういうことだ」
俺は適当に愛理と会話を繋げながら、手提げバッグにタオルや水筒などの荷物を詰める。
明日の案件は規模が大きいだけに思ってた以上に難航しそうだな。
しかも今回の相手は依頼人ではなく、ひたすら自己中な爆弾犯の果たし状ときたもんだ。
額に嫌な汗をかきつつも、頭の中では最悪な予感しか浮かばなかった──。
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