第3話 校内探索開始
「じゃあ学生メンバーも揃ったし、自己紹介でもしようか」
「まずは一番前にいる女の子から」
集められた生徒が制服なのは夜とはいえ、学びの地に私服で来るのも何だし、何も知らない警備員に泥棒と勘違いされたら困るなどという理由からだ。
ちなみに俺に
「
「オッケオッケ。全く自己主張の強い女だな。そんなんじゃ男も寄り付かないよ」
亜香里ちゃんが腰まである髪を靡かせると、すぐ後ろにいた眼鏡をかけた坊っちゃん刈りの男が口を挟む。
「僕は
板垣くんが俺と愛理を奇怪な目つきで視線だけをこちらに送る。
どうやら感情表現が顔に出にくい大人しいタイプらしい。
「何よ、生意気なガキよね」
「まあまあ、愛理も堪えて。俺たちはこれで食ってるんだから」
「だからって、このままなめられっぱなしもいいわけ?」
板垣くんとは正反対で何か気に障ったらすぐに表に出す愛理。
周りに学生がいる以上、こうまでグチると逆に反感を呼びかねない。
だけど相手も女の子だし、下手な口出しは逆にマズイ。
俺は愛理が傷つかないよう、慎重に言葉を選ぶ。
一見便利なコミュニケーションツールに見えて、言葉は凶器にもなるのだから。
「あのなあ、相手がどうだろうと依頼人の要望に答えるのが探偵業だろ。気に食わないからと好き嫌いでやってく仕事じゃないんだよ」
「はあ……。もう
「だったら今回は下りるか?」
「冗談言わないでよ。私だって生活がかかってるんだから」
仕事というものは例外を除き、決して楽しいものではない。
どんな仕事である以上、お金が絡むとなれば形にしろ、気持ちにしろ、相手のニーズに答えるのが仕事というものだ。
特に大学生活を送っている愛理は社会人の生活よりも余計にお金がかかる。
正直、なりふり構っていられないのだ。
「あの、そろそろよろしいでしょうか……」
「はい、すいません。お名前の方を」
「あっ、はい。私は
「……そうですか」
おどおどと消極的な前髪ぱっつんの女の子。
その雅美ちゃんのやや薄い反応に戸惑いを感じつつも最低限の言葉をかける。
十二文字という変わった名字の由来を知りたくもなるが、それは他所様の事情だし、下手に首を突っ込んでもハラスメント行為になる。
愛理へのやり取りと同様、色々と気難しい世の中だな。
「そんでもってオレッチが高校一年の
「ああ、よろしく」
「ウォンチュー!」
いかにも校長の子供らしい明るい紹介をしてくる正太郎。
まさに暗い学園でも太陽のように輝く男子でもあった。
「で、オレは
「コイツとは何だよ」
「ああ、ごめん。龍ちゃまと親しく呼んだ方がいいかな」
「
──というわけで学園の在校生を含めた五人の男女を加え、生徒の案内がてら、消灯された夜の校舎(19時頃)にやって来たのだが……。
「──所でこの学園の奇妙な七不思議のことは知ってるか?」
昇降口の月明かりの下、懐中電灯をチェックしながら、正太郎が俺たちにちょっとした噂話をはじめる。
──この学園は夜になると様々な怪奇現象が起こる。
それらは七不思議と言い伝われており、
それにより生徒たちを恐怖に至らしめたことは確かだ。
校長自身もこの現象に悩まされており、このままでは学園内から悪い噂が広まり、来年からの入学生も大幅に減少する傾向だと俺と愛理の前で頭を抱えていた。
最悪の場面は近郊の高校と合併することもあり得ると……。
校長という自分の地位を落とされる場所に行くなら、探偵に頼んで心霊騒ぎを解決してもらえば何ごともなかったような生活に戻れるし、学園自体も無くなることもない。
しかし非科学的な幽霊の仕業と言われてもピンと来ないのも事実だ。
話によると深夜に起こる現象でもなく、毎夜のように騒ぎ立てるわけでもない。
人外が原因のわりには何かが矛盾してるのだ──。
「……まず、夜の女子トイレから花子さんが出現するんだよ。洋式便座に繋がるドアノブをゆっくり開けて覗くとな」
「突然、目の先に白装束の花子さんが座っていてさ。そこで怖じ気もせずにドアを全開にすると、どこにも花子さんはいないんだよ」
「何なんだよ、その理屈は。女子トイレなんて野郎は入れないし、七不思議以前の問題だろ?」
正太郎の物言いじゃ、変質者に早変わりだ。
ステージ上での早着替えが流行ってるライブ音源の映像でもあるまいし。
「だったら現場に行ってみましょう。その方が手っ取り早いです」
「おう、雅美ちゃんの言う通りだぜ。ちゃっちゃと行こうぜ」
「ああ、分かった。愛理、ビデオカメラの方は万全か?」
雅美ちゃんと正太郎が懐中電灯片手に前に出る中、俺は後ろにいた愛理が手に取った携帯カメラに目を向ける。
「大丈夫、操作も簡単だし、これなら問題なく撮影できるよ」
「よし、任せたぞ」
****
「きゃあああー!?」
「この声はもしや雅美ちゃんか!?」
「おいおい、早くも花子さんが出ちまったか」
女の子の悲鳴にただならぬ予感になった俺たち。
現場で警備していた正太郎以外の男子メンバーが急いで、電灯のついたトイレに駆けつけると、女子トイレから出てきた真っ青な表情の亜香里ちゃんと目が合う。
「で、出たわよ。龍之助くん。白いお化けが……」
「はい、あれは紛れもなく花子さんでした」
「おいおい、早くもお出ましかよ」
亜香里ちゃんが口をパクパクさせ、真っ青な顔で廊下にしゃがみ込む。
「愛理も見たのか?」
「ううん。それどころかビデオカメラではその幽霊そのものが一向に撮れなくて。困ったなあ、操作性に慣れるために色々と強引にボタン触りすぎたし、早くも故障かなあ……」
「まあ無事で良かったよ。俺もヒヤッとしたぜ」
俺は飛び出かけた心音を抑えながらも、深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐く。
「……お、お化け……あの子の祟りなの……」
「でもこの分じゃ、亜香里ちゃんは進めそうにないな。俺が親に連絡して家に帰らすよ」
亜香里ちゃんが妙なことを言って体育座りでひざに顔を伏せて震えている。
どうやら幽霊というものを間近で見て、腰が抜けたようだ。
「ああ。早くも第一の犠牲者が出たか。この先が思いやられるな」
尚樹が亜香里ちゃんを肩で支えて、外の方向へと歩き出す。
『ピンポロロローン♪』
「何の音だ?」
「どうやら音楽室から鳴ってるピアノみたいだよ」
正太郎がいち早く状況を汲み取って、電灯を向けて先陣を切って進む。
校長の孫だけあリ、度胸はあるみたいだな。
「夜、誰もいない音楽室からピアノの音がする。学園七不思議の一つでもある現象ですよ」
板垣くんが眼鏡のフチを指元で整えながら、例の怪奇現象の話をしてくる。
意外だな、冷徹ぽくって真っ先に信用しない性格と思ってただけに。
「論より証拠さ。さっさといこうじゃないか」
「ああ。じゃあ尚樹、亜香里ちゃんをよろしく」
「了解。すぐに合流するから」
俺たちはこの場を尚樹に任せて、正太郎の合図と共に音楽室へ向かった。
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