すぐ死ぬ三毛蔵ちゃん

春野 一輝

第1話 観恩猫:三毛蔵、貴方は旅に出るのです。出るのですよ? 出なさい。ほらほら。

 ここは超安心と書いて、超安の都。

 その超安心な都の宮廷の縁側で、一人の猫僧侶が怠惰にも昼から寝ていた。

 その僧侶の名は三毛蔵。


 彼の夢枕にふくよかな猫が出て来て、優しく微笑みながら言った。

「三毛蔵、三毛蔵、起きなさい」

「はぃい~……もう食べれまふぇん」

 よだれを垂らしながら、午後のまどろみの中で三毛蔵は寝ていた。

 猫耳をぴくぴくとさせながら、尻尾をふりふりして三毛蔵は起きない。

「起きないと、明日の晩御飯は抜きですよ?」

 ピキピキと筋を少し立てて、ふくよかな猫は強めに行った。

「起きます! 起きます!」

 バッと飛び起き、すぐ頭を垂れて観恩猫の前に膝まづく。

「あやや、観音猫様。どうされましたか、私めなどに」

「三毛蔵、三毛蔵、貴方は旅に出るのです。猫仏様の御経みきょうを取りに天竺へと向かうのですよ」

 話が長くなりそうで、すぐうたたねをはじめる三毛蔵。

「出るのですよ? 三毛蔵。分かっていますか? ああ、お腹が空いてきました。 失礼しますね? また来ますから。 ちゃんと旅に出るのですよ~?」

 すぅうっと夢枕の中の観恩猫が足元から消えていく……。

 三毛蔵、ハッとなって起きると、目の前にはもう観恩猫は居なかった。

「あらら、夢の中で夢を見るなんて、不思議ですねえ……」

 のんびりまったりと、かけていた白い絹布団を掛け直し、寝返りをうつ。

「また寝なおしますか」

 縁側で、またぐっすりと寝直しを決める三毛蔵。

 その顔には、まだまだ旅の苦労が分からない、穏やかな顔があった。

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