㉗ちくわパンとカルツォーネ-4-







「お待たせいたしました」


 食堂へと足を踏み入れた給仕達が四人の前に元種を使って作ったパンと包みピザ・・・カルツォーネを置いていく。


 四人は食べやすい大きさに千切ったパンを口に運ぶ。


(私はこのパンに似た食感のパンを最近食べた事があるような気がするのだが・・・)


 バターやジャムをつけずにパンを咀嚼しているランスロットは、何時どこで食べたのかを思い出そうとしていた。


「このパンは・・・」


「昨日食べたパンよりも柔らかくて、ふわふわしているわ!」


 初めての食感にアルベリッヒとロスワイゼが驚きの声を上げる。


「この柔らかい食感をしているパン、どこかで味わった事があると思っていたのだが・・・そうだ!味噌で味付けをしたチキンを焼いた照り焼きチキンサンドとやらを食べた時のパンに似ているんだ」


「お前さんが言っている照り焼きチキンが何なのかを聞きたいというのもあるが、それよりも何だ・・・ミソと言ったか?ミソというのは茶色のパテと言えばいいのか?ペーストになっているあれの事なのか?」


 照り焼きチキンのように何かを挟む場合は昨日食べた葡萄の匂いを感じるパンよりも、今日食べているパンが合っていると思いながら食パンに似た食感をしているパンを食べているランスロットに、アルバートが味噌は何なのかを尋ねてきた。


「味噌というのは異世界の調味料の一つで、スープや煮込み料理に炒め料理だけではなくロールケーキやクッキーといった焼き菓子の味付けにも使えるんだ」


「あのミソとやらが、スープや煮込み料理だけではなくケーキにも使える調味料とは面白いな。なぁ、ランスロット。その、ミソだが・・・キルシュブリューテ王国で作る事は出来ないのか?」


「紗雪殿の話によると、大豆がないので無理だそうだ。それよりもアルバート、お前は味噌を知っているのか?」


「ああ。食べた事はないが見た事はある」


 シュルツベルクは桜花という島国と貿易をしており、輸入品の一つに茶色のペースト・・・味噌がある。


 だが、使い方と保存方法が分からないので収納庫という魔道具に入れたままにしているのだとランスロットに話した。


「お前・・・何という勿体ない事を・・・!」


 どこか心落ち着く優しい味噌の風味を、クリームの甘味と味噌の塩気が一つになったあの甘塩っぱさを知らないなんて不幸以外の何者でもないとランスロットがアルバート達に対して嘆いて見せる。


「そういうお前さんだってサユキに出会うまではミソの素晴らしさを知らなかった癖に!!!」


「あなた、ロードクロイツ侯爵・・・。二人共、低レベルな争いをしていないで包みピザ・・・カルツォーネと言ったかしら?それを食べましょうよ」


 それに、ミソはキルシュブリューテ王国で作っていないのだから私達がそれを使った料理やスイーツを知らなくて当然よ


 だったら私達がサユキとレイモンド殿に教わればいいじゃない


 空気を変える意味もあるが、『お前の母ちゃん出~ベ~ソ』レベルの不毛な争いをしている二人を止めるべく、ロスワイゼが口を挟んで来た。


「「そ、そうだな・・・」」


 これ以上、子供の喧嘩レベルな争いを繰り広げる意味がないと思ったランスロットとアルバートはカルツォーネをナイフで適当な大きさにカットすると、それを口に運んだ。










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