㉓シュルツベルク伯爵-2-







 ロードクロイツを発って三日目の昼頃



 紺碧の海


 古の趣を感じさせる建築物


 市場で売っているのは、魚介類に他国から輸入している商品


 港に停泊しているのはキャラック船



「綺麗・・・」


 行き交う人々の活気、日本とは異なる浪漫と歴史を感じさせる港町に紗雪が感動の声を上げる。


「シュルツベルクの玄関とでもいうべきリベラの観光は後でするとして、伯爵の元に行こうか?」


「はい。でも、その前に買っておきたいものがあるので少しの間、待って下さい」


 そう言った紗雪は、あるものが売っている場所へと向かう。


「お待たせしました」


 ランスロットとレイモンドがいる場所に戻って来た紗雪の手には、鰻が入っている桶があった。


「さ、紗雪殿・・・」


(紗雪殿が持っているのは鰻・・・だよな?)


 冒険者として新人だった頃のレイモンドは腹を満たす為に鰻のゼリー寄せを食べていたのだが、それの不味さを知っているからなのか、端正な美貌が思いっきり引き攣っている。


(いや、紗雪殿の事だ。きっと、異世界の料理を作る為に鰻を買ったに決まっている!・・・・・・そうだと思いたい)



 鰻のゼリー寄せを思い出してしまったレイモンドが今にも吐きそうだったのは言うまでもない。







 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







(この人がシュルツベルク伯爵・・・。兄貴と言えばいいのか、豪快と言えばいいのか・・・ロードクロイツ侯爵が言っていた通りの方だったのね。と言うより、中二病?)


 カーテシーを披露した紗雪は自分の目の前に立っている、顔の右半分をヴェネチアンマスクのように凝ったデザインの眼帯で覆っている男をチラッと盗み見る。


(・・・右の瞳が金色だから隠しているのね。オッドアイって中二病要素の一つだけど、考えてみれば私の家系もそうだからシュルツベルク伯爵の事を中二病って言えないわ)


 霊視で男の事を探った紗雪は、眼帯をしている理由を心の中で納得していた。


 よっ!


「あんたが異世界人のサユキちゃんか。異世界人と言えばランスロットのおふくろさんやローゼンタール公爵の夫人となったマスミちゃんのように童顔で小柄というのがお約束なのに、あんたは大柄というか背が高いんだな」


 しかも、生まれながらにして良家のお嬢さんって感じだ


 そう言った男ことアルバート=シュルツベルクが、上へ下へとマスミより首一つ分高い紗雪に興味深そうに視線を向ける。


「異世界人の全てが小柄だとは限りませんよ」


 トップモデルであれば百八十センチ超えが当たり前だし、バスケ選手となれば二メートルを超えている人もいるのだと、紗雪がアルバートに教える。


「トップモデルやバスケ選手が何なのか俺には分からないが、異世界でも体格には個人差があるという事でいいのか?」


「はい」


「・・・考えてみればそうだよな」


 紗雪の言葉に納得したかのようにアルバートが頷く。


「ランスロットの話によると、サユキちゃんは異世界の料理を再現していっているらしいな」


「材料がないので再現出来ないものもありますけど・・・」


「元の世界に戻れないというのに、あんたは随分と前向きなんだな」


「そうでしょうか?」


 過去の己が取った行動が現在に繋がっているのだから、元の世界に戻れない事を嘆いても仕方ない。


 邪神・サマエルという小物を倒す為だけに、性女・・・ではなく聖女召喚とやらに自分を巻き込んだウィスティリア王国に対して恨み骨髄である事も、それが原因で篁の使命を果たせなくなった事実を嘆いている事も確かだ。


「恨みを抱き続けるのは精神的に疲れるのですよ。ウィスティリア王国に復讐するより、この世界で生きて行くという楽な道を選んだだけです」


 そのように考える事が出来るようになったのはレイモンドが居てくれたからだと、アルバートに語る紗雪の顔は赤く染まっていたが、瞳には決意の色が浮かんでいた。


「・・・あんたには色々と聞きたい事はあるが、それは置いておくとしてだ。俺がサユキちゃんを養女に迎えるには条件があるという事を知っているな?」


「はい。シュルツベルクで獲れる魚で料理を作るというものですよね?存じております」


「だったら話は早い。屋敷の厨房にある食材と調味料はあんたの好きに使っていいから、俺達の舌を満足させる異世界の料理を作ってくれ」








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