⑬性女とは-3-







「性女というのは、一言で言えば阿婆擦れです!」


 紗雪はウィスティリア王国や近隣諸国では聖女と謳われている近藤さんことマリカが、どのような女性であるかを話し始めた。


 元の世界では社長令嬢・・・商会の会頭の一人娘という事もあるからなのか、自分が望むものは全て与えられ我慢というものを知らずに育った茉莉花は、我が儘で他人のものを奪い取るマウント女になってしまったのだ。


 それだけではなく、彼女がいる男を誘惑したり寝取ったり、イケメンやイケオジ・・・いい男であれば自ら足を開くビッチでもある。


 結果、高校時代・・・年齢的に見て十五~十八の間に茉莉花は望まぬ妊娠をしてしまっただけではなく堕胎した事や、水子が彼女の腰に取り憑いている事、そして性病に罹っている事を教える。


「現に彼女は邪神討伐の道中で、シーラ公爵令嬢の婚約者とオリビア伯爵令嬢の婚約者を寝取りましたからね」


(((・・・・・・・・・・・・)))


 げっ!


「市井の娘が好んで読んでいる話に出てくる、傲慢で嫌味な敵役の令嬢そのものだな!!?」


 紗雪から聞いた聖女マリカの実像に、ランスロット達は絶句し、両親と祖母と比べたら市井の暮らしに馴染んでいるレイモンドは思わず声を上げて驚くしかなかった。


「誤解のないように言っておきますけど、日本人女性の全てがウィスティリア王国では聖女として認定されている近藤さんのように性女ではないですよ?」


「「分かっている。分かっているのだが・・・」」


 日本人女性は貞淑で身持ちが固い大和撫子だと教わっていたランスロットとレイモンドは、伝承と実像のギャップに頭を抱えて悩まずにはいられないでいる。


「あなた。こう言ってはなんですけど、迷い人というだけで異世界人を手厚く保護する事を止めた方がよろしいのかも知れませんわ」


 紗雪の言っている事全てが真実であるとは限らないが、ウィスティリア王国が召喚した聖女のように元の世界では他人のものを奪い取る強欲女、阿婆擦れ、しかも性病に罹っているとなれば、迷い人が元の世界ではどのような生活を送っていたかを聞いた上で保護する異世界人を選ぶ必要があると、エレオノーラがランスロットに進言する。


「そうだな。だが、紗雪殿の言っている事が偽りだとすれば、ウィスティリア王国を侮辱した事を意味するだけではなく、場合によっては戦争になる可能性がある・・・・・・」


 ウィスティリア王国の聖女といえば、可憐な少女でありながら邪神・サマエルを倒した英雄の一人だ。


 そんな彼女を阿婆擦れだの、水子が取り憑いているだの、性病に罹っているだのと言いがかりをつける行為は即ち、ウィスティリア王国に宣戦布告するようなものである。


「ロードクロイツ侯爵、貴方の仰る事は尤もです。ですが、これを見れば私の言っている事が事実だと分かりますよ」


 今から式神をウィスティリア王国に飛ばして遠見の術で聖女の様子を見せますので、大きな鏡を用意・・・なければ湖か池がある場所に案内して貰えませんか?


 紗雪だけであれば鏡のようなものがなくても式神が目にしたものを見る事が出来るのだが、他の人間にはそれが出来ない。


 しかし、鏡のように何かを映す事が出来るものがあれば話は別。


 紗雪は鏡のようなものを求める。


「遠見の術って、相手の事を探る為に篁 雅臣が使っていたというあの?」


 ドラマや映画でしか見た事がない術の一つの本物が見られるという事実に、美奈子が声を上げてはしゃぐ。


「紗雪殿、水を張った桶では駄目か?」


「それでもいいわ」


「だが、その前に一つだけ聞いてもいいか・・・?」


「母上」


「エレオノーラ」


「「その、ほっかむりは一体?」」


「!!」


 息子と夫の言葉に、そういえば自分が未だにほっかむりを被ったままでいる事を思い出してしまったエレオノーラの顔が赤く染まる。


(ロードクロイツ侯爵。侯爵夫人は貴方が妾を囲っていると思い込んでいただけではなく、妾を始末してから貴方の一物と手足を切り落とす気満々でしたよ・・・)


 円満な夫婦関係を壊さない意味でも、事実は言わない方がいいだろうと考えた紗雪はエレオノーラの目的を話さないでおく事にした。


 そして──・・・


「☆♭♩☺☹♨♣♡♪♫」


 エレオノーラから言葉にならない悲鳴が上がる。











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