⑪豚の角煮-7-







「今では私よりも美味しい和食だけではなく洋食に中華、ケーキやクッキーも作れるようになったレイモンドさんって本当に凄いわね・・・」


 冒険者を辞めたら料理人としてやっていけそうだと思っている紗雪が、豚の角煮を皿に盛り付けているレイモンドに話しかける。


「紗雪殿が異世界の料理だけではなく、料理を作る前は手を洗う、三角巾を着けるといった基本を教えてくれた事もあるが、何と言っても異世界のものを取り寄せられるというのが大きいだろうな」


 もし、紗雪の依頼を引き受けなかったら、今の自分は不味いと分かっている料理を口にしていたのだと、レパートリーが増えなかっただろうと話しながら、ご飯と味噌汁、メインである豚の角煮とキャベツの浅漬けを載せたトレイをテーブルの上に置いた。


「食べようか?」


「ええ。いただき・・・ねぇ、レイモンドさん・・・。あの二人、もう少ししたら来るわよね?」


 手を合わせようとした紗雪が、ある不安を口にする。


「ああ。だからこそ、こうしてあの二人分も用意している・・・」


 今は昼食と夕食の時間帯だが、あの二人の事だ。このままだと何れ朝食もレイモンドの家で済ませようとするだろう。


 毎日、我が家に食事を集り・・・ではなく食べにくる二人を思い浮かべてしまったレイモンドが溜め息を漏らしたその時──・・・。


「「レイモンド。紗雪殿(さん)」」


「父上とお祖母様の事ですから、今日も食べに来ると思っていました・・・」


 最初の頃は【突撃!隣の〇ご飯】的な展開に悲鳴を上げていた紗雪とレイモンドであったが、これも日常の光景と化してしまったからなのか、ランスロットと美奈子の分も用意していると落ち着いた声で伝えると、侯爵と先代侯爵夫人は席に着くなり目の前にある豚の角煮を食べ始めるのだった。






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