④王都へ(前編)-1-







「コントラ商会に行って欲しい?会頭からそのような依頼があったの?」


 コントラ商会というのは、王都でも一・二位を争う大富豪であり、国内に幾つも店舗がある大店だ。


 商品を卸した後、商人ギルドの受付に言われた紗雪は戸惑いの表情を浮かべる。


 受付の話によると、日焼け対策に悩む奥方と娘の為に会頭が日焼けから護る帽子を購入したらしい。


「帽子なら王都にも売っていますよね?」


「実はですね・・・会頭の奥方様が、スノーさんが卸している帽子を王都でも平民用として売りたいと思っているらしいのです」


 後、奥方様がスノーさんの卸した帽子は他の帽子と比べたら日焼け止め効果が群を抜いて高いから気に入っているというのも理由の一つですし、帽子をレース等で飾れば富豪用としても売れるかも知れないと考えているみたいですよ


「でも、平民向けとして売っている帽子が富豪向けとして売れるかしら?」


 貴族が要らなくなった、或いは型が古くなったという理由で古着屋に服を売る事はあっても、元から平民向けとして売っていた商品を買うだろうか?


「スノーさん!お願いします!どうか、この話を受けて下さい!!」


「この話を受けるか受けないかは一先ず置いといて、どうして会頭の奥方は私の事を知ったの?」


 受付の答えはこうだった。


 帽子専門店・サルトの店主であるアーサーは紗雪から卸している事は伝えていないが、アーサーが商人ギルドにコントラ商会の奥方が帽子を自分の商会にも卸して欲しい事を伝えたのだ。


(つまり、奥方自身は私の事を知らないのね・・・)


 紗雪自身が会頭の奥方がどのような人物であるかを知らないように、奥方も紗雪がどのような人物であるかを知らないのだ。


 プライドが高く傲慢なのかも知れないし、商会の奥方だからこそ質素倹約を旨にしているのかも知れない。


(こればかりは、直接会って霊視するしかないわね。コネも欲しいし・・・)


 大商会の奥方というだけで彼女がこういう人物だと決めつけてはいけないと分かっている紗雪は、この話を引き受ける事にしたのだった。










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