第5話(2)第三者

「……そんなに大きな声を上げないで下さい」

「上げたくもなるよ……」

 疾風から注意された俺は唇をわずかに尖らせる。

「村松っちゃんはなんだって、そんなことを知りてえんだ?」

 紅蓮が呆れ気味に尋ねてくる。

「そ、そんなことって……」

「大したことじゃあねえだろう」

「い、いや、大したことはあるだろう……」

「そうかい」

「そうだよ」

「ふ~ん……」

 紅蓮は頬杖をついて、視線を他に向けた。

「……」

 雷電が俺をじっと見つめてくる。

「な、なんだ、雷電?」

「村松っちさあ……」

「な、なんだよ」

「分かってないな~」

 雷電が両手をわざとらしく広げて、ため息交じりに呟く。

「え?」

「女の子には秘密の一つや二つあるものなんだよ~?」

「は?」

「そういう心のニキビを分かってもらわないとさ~」

「……心の機微と言いたいのか?」

 ちょっと間を置いてから俺が応える。

「そうそう、それそれ」

 雷電が俺を指差してくる。

「……そんなデリケートな話じゃないだろう」

「デリケートだよ~」

「……それなら俺の前で変貌・変化・変身するべきじゃあなかっただろう」

 俺は三人を見回しながら話す。紅蓮が視線を戻す。

「それはなんとなく……その場のノリってやつだよ」

「心の機微とやらはどこ行った」

 紅蓮の言葉に俺は反応する。

「うるせえなあ……」

「うるせえとか言うな」

「細けえことは気にすんなって」

「全然細かくない事象・事態を目の当たりにしているんだよ」

「ちっ……」

 紅蓮が舌打ちする。

「……それはつまりあれということですか?」

 疾風が口を開く。

「うん?」

「私たちに対して……興味を抱いたということですか?」

「!」

 俺は面食らう。

「どうなのですか?」

 疾風が重ねて尋ねてくる。

「えっと……」

「お答えください」

「……まあ、それはそうだな」

 俺は首を縦に振る。

「!」

「‼」

「⁉」

 疾風たち三人がそれぞれ、自らの体を抱きしめるような仕草を見せる。

「……ん?」

「女子高生に興味がおありとは……」

「それはやべえって、村松っち……」

「彼女いないからって、それは……」

 三人の若干軽蔑の混ざった視線を一身に受けて、俺は慌てる。

「い、いや、ちょっと待て! ……か、関心だ! 俺はお前ら三人に対して、学術的関心を抱いている!」

「関心ね……いや、それもどうなんだ?」

「こ、細かいことは気にするな、紅蓮!」

 俺の声は上ずってしまう。

「まあ、それならばよろしい……」

「よ、よろしいの? 晴嵐っち……?」

 雷電が戸惑い気味に疾風に尋ねる。

「それは想定内のことですから……問題は……」

「問題は?」

「第三者の存在です……」

「第三者?」

「失礼しま~す!」

「うおっ⁉」

 俺は驚く。眼鏡でショートカットの女性がスマホのカメラをこちらに向けながら、部室に入ってきたからだ。左腕に巻いている腕章には『新聞部』と書いてある。

「……ノックくらいなさっては?」

 疾風が呆れ気味に告げる。

「これまた失礼! スマホで両手が塞がっていたもので……」

「……撮影を許可した覚えはありませんが」

「とりあえず撮っておこうという精神です! どうしてもNGなら、後でデータは消去っしますので、ご安心ください!」

「全然安心出来ませんが……」

「とはいえ、疾風さん、取材の許可は出してくださったじゃないですか!」

「まあ、それはそうですが……」

「ちょ、ちょっと待った!」

「はい?」

 俺の言葉に新聞部の生徒は首を傾げる。俺は手を軽く振る。

「い、いや、こちらの話だ……おい、疾風!」

 俺は疾風に小声で話しかける。

「なにか?」

「なにか?じゃない! どういうことだ?」

「彼女は新聞部です」

「それは分かった。俺が聞きたいのは取材の許可うんぬんだ」

「ええ、出しました」

「な、なんで?」

「同じのクラスのよしみということで、断りきれずに……」

「知られたら色々とマズくないか?」

「その辺は……アレです。適当にお茶を濁すということで……」

「そ、そんな……」

「今回の取材を受けることによって、ある程度の活動実績は残せるようなものです。余計な詮索をされる心配が無くなるでしょう」

「そ、そうか……?」

「それでは、半日間、『同好怪』の密着取材をさせていただきます!」

「どうぞ」

「ええっ⁉」

 新聞部の申し出を了承した疾風に俺は驚く。っていうかこれこそ余計な詮索なのでは?

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