第4話(3)部室棟前にて
「放課後になったが……」
俺は校舎から出る。
「あ、村松っち~」
雷電が手を振りながらこちらにやってきた。
「……お疲れ様です」
その後ろから疾風が歩いてくる。
「あ、ああ、二人だけか?」
「龍虎っちは部室棟の方に行っているとか……」
雷電がそう伝えてくる。
「そうか。じゃあ、そちらに向かおう」
俺たち三人は歩き出す。
「~~!」
「ん?」
俺は首を捻る。
「なんだか騒がしいですね……」
疾風が呟く。
「あれは……」
女子たちに囲まれている紅蓮が見えた。
「頼む! 紅蓮龍虎!」
「え~い、頼むな!」
「共に甲子園を目指そう!」
「目指さねえって!」
「共に国立を目指そう!」
「だから目指さねえって!」
「共に東京体育館を目指そう!」
「嫌だよ!」
「共に東京体育館を目指そう‼」
「同じことを言うな!」
「さっきはバスケ! 今のはバレーだ!」
「ああ、そうかい!」
「共に日本武道館を目指そう!」
「バンドマンか!」
「いや、柔道だが……」
「マジレスすんな!」
「霊長類最強になれ!」
「お願いじゃなくて命令になってんぞ!」
「こ、これは……」
「……大方、部室棟に忘れ物でも取りに行ったところ、運動部の皆さんに捕まってしまった……そんなところでしょうね」
困惑する俺の横で疾風が冷静に解説してくれる。
「あははっ、龍虎っち、モテモテだね~♪」
雷電が楽しそうに呟く。
「ひ、昼間より人数が増えていないか?」
「さきほど申し上げたように、運動能力の高さは有名です。そんな彼女が運動部のホームとも言えるこの部室棟に出入りしているとなれば、絶好の勧誘チャンス……!などと考える人が多いのでしょうね」
「そ、そうか……どうする?」
「面白そうだから放っておこうよ~♪」
「雷電、そんなことを……」
「ここは龍虎さんのお手並み拝見と行きましょうか……」
「いや、疾風、そういうことを言っている場合じゃ……」
「なにか問題でも?」
疾風が首を傾げる。
「もうとっくに下校の時間だ……!」
「……それならば解散するように声をかければよろしいのでは?」
「あ、そ、そうか、それもそうだな……」
俺はゆっくりと集団に近づく。
「~~~!」
俺は声を上げる。
「はいはい、お前ら、もう下校の時間だぞ! さっさと帰れ!」
「先生は黙っていていただきたい!」
「は、はい!」
俺はピシッと気をつけの体勢になってしまう。
「ぷぷっ、村松っちの方が生徒みたい……」
「どちらが教師か分かりませんね……」
雷電の笑い声と疾風の呆れ気味の呟きが聞こえる。くっ……大人になっても、体育会系というのはどうも苦手な連中だ。とりあえず気を取り直して……。
「だ、黙っているわけにはいかない! 下校時間だ! 大体、紅蓮本人が嫌がっていることを無理強いするな!」
「しかし、先生! 彼女の類まれなるアスリート能力をこのままにしておくのは、日本スポーツ界全体にとって極めて大きな損失です!」
生徒の一人が応えてくる。
「そ、そう言われると……」
「おおい、村松っちゃん、そこでたじろぐなよ!」
紅蓮が声を上げる。
「……確かにスポーツテストで好成績を収めているというような話は俺も小耳に挟んだことがある。紅蓮、運動部で青春を送るというのもアリなんじゃないか?」
「アリじゃねえよ! なんだよ、急にそんなことを言って!」
「こんなにもお前さんのことを求めている連中を目にするとな……それも一つの選択肢なんじゃないかって……教師として、生徒の将来の可能性の芽を摘み取りたくはない……」
「真面目だな! オレの意思は無視かよ⁉」
「そこはよく話し合ってだな……」
「先生からのお墨付きも頂いた! 紅蓮! 女子野球部へ!」
「いいや、女子サッカー部へ!」
「女子柔道部へ!」
「囲碁将棋部へ!」
「eスポーツ部へ!」
「ちょ、ちょっと待て! そんなに入れるか!」
「君なら兼部も十分可能だ!」
「可能じゃねえよ! 何刀流させる気だ!」
「是非とも頼む!」
「……たくっ、分かった……!」
「え?」
紅蓮が部室棟に入っていき、机を一つ持ってきて、ドンと置く。
「……肉体言語で話そうぜ。オレに腕相撲で勝ったら、その部活に入ってやるよ……」
「そ、その言葉に二言は無いな⁉」
「ああ……」
「ならば!」
数分後……。運動部の連中の半分が倒れ込む。
「ふん、こんなもんか……」
紅蓮は両手をパンパンと払う。
「ば、馬鹿な、なんというパワーだ……」
「パ、パワーが全てではないぞ! スピードやスタミナも……」
「それなら、鬼ごっこだ。オレを捕まえてみな……!」
数分後……。運動部の連中の残り半分が倒れ込む。
「は、速い上に、なんという運動量だ……」
「こんなもんか……うん⁉」
四足歩行の巨大なハリネズミのような怪獣が校庭に現れる。
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