7. スイカは野菜ですよ?
「コラッ!」
気持ちのいい朝だというのに!
憎たらしい顔したカラスがスイカをつつこうと近づいてきたので追い払いまして。
この野菜泥棒め!
「まったく……」
と無事かどうか確かめればちょうど食べ頃。しかもたくさん。スイカはほったらかしててもよく育つからすっかり忘れていたわ。
これはうちだけじゃ消費できないわね。使用人に配ろうにも、うちの領地は農業が中心。どこの家もみんな作っているわけで……。考えていてもしょうがないわ。
とりあえず今日中に収穫した方がいいものはしてしまって、井戸で冷やして。
……これが恵美子だったらもう腰をやっていたわね。前世でも今世でも、スイカは重いわぁ。
「これで最後かしら。……よっこい」
「何をやっているんだ?」
「しょぉ……ってあらケネス様。ごきげんよう」
ごきげんようじゃないんだが、という風に私を凝視して。頬に土でもついてますかね?
それより重いんですから、早く運ばせてくださいな。ご用件は何です? なぜここに?
などと考えていると不機嫌そうなケネス様がずいとこちらに寄ってきて。
「……自分が女性ということもわからないのか?」
「はい?」
と言って私からスイカを奪いました。
女性ということもわからないのか? ですって?? なんて失礼なの??
「……これはどこに運べばいいんだ」
「っそこの井戸ですけど??」
「……わかった」
少し怒り気味に答えたというのに全く気にせず、ケネス様はすっかり手慣れた様子で井戸の中に入れる。
ちょっとお待ちなさいな。何事もなかったようにするんじゃありません。
「これでいいか?」
「ええ全然よくありませんよ」
どこが? という顔してないでちょうだい。
「私に女性の自覚がないですって?? まあよく言えたこと。女性にそんなことを言うなんてケネス様の方がよっぽど男失格ですよ」
「……っ! 女性のくせに重いものを一人で持ち上げていたのはどこのどいつだ。それで転んで怪我でもしていたらどうするつもりだったんだ」
「くせにとはなんですか! くせにとは! 私はそんなヤワじゃありませんよ!」
「どうだか。自分の力を過信するのが一番危険だ」
息子の反抗期を思い出すわ。もうそっくり。懐かしい……ではなく! 憎たらしいったら!
と睨み合っているたのですが、どこからかため息が聞こえて。二人して聞こえてきた方に向くと、そこには呆れた顔のお父様が。
「やめなさいエミリー。ケネス様はお前を心配してくださっているんだよ」
「カーレス男爵。騒がしくしてしまい申し訳ありません。お邪魔しております」
「いえいえ、こちらこそうちの娘が申し訳ありません」
お父様だと気づいた途端シャキッとにこやかに……外面との違いが酷すぎますよ。なんですその変わり様は。
「あなたそんな……。お見合いの時と全然違うじゃないですか」
「今日はそもそもカーレス家との商談で来たんだ」
「多重人格かなにか?」
「初対面なお見合いと仕事は違うに決まっているだろう」
「まあ内弁慶ですのね」
「なんだと?」
とまた口喧嘩が始まったのですがお父様の無言の圧で黙らされました。
「「…………」」
「エミリー」
笑顔が怖いです、お父様。ケネス様まで震えてますよ。もうしません、しませんから。
うう……。
「……ケネス様、スイカ食べます?」
「カーレス男爵、いいだろうか?」
「商談の時間まではまだ時間がありますし、お好きにどうぞ」
位的に上下関係が反対だと思うのだけど……商談の内容のせいかしら?
お父様はひしひしと圧の感じる笑顔で屋敷に戻っていかれました。
「一番下のやつがもう冷えてますから、取り出してください」
「……ああ」
出してもらっている間に私はお勝手からまな板と包丁、塩を取ってきまして。
「これを切ればいいのか?」
「ええ、コツがいるので私がやりますよ」
不安そうにこちらを見てくるケネス様。そんなに心配しなくても。大丈夫ですよ。
横にして半分に切る。そうしたらタネの位置がわかりやすくなりますからね。それを目印に均等に切って、スプーンでチョチョイと種を取りまして。塩をかけて。
「はい、どうぞ」
「……スイカはフルーツじゃないのか?」
「野菜ですよ、野菜。畑で採れるものは全部そう」
「だからか……」
詳しくは、樹木から採れるのが果物で、植物から採れるのが野菜。常識ですよ。
いざ食べようと持って、そのまま固まっているケネス様。もしかしてスイカもダメなのかしら?
「苺、スイカ、メロンも苦手だったんだ」
「全部野菜じゃないの! 前世で野菜に親でも殺されたの?」
「いや、そんな記憶はない」
あったら困りますよ。
なんて諦めているとやっと覚悟を決めたのかシャクリと一口。
「……冷たくて甘い」
「でしょう! それで?」
「メロンも食べてみたい」
「食べさせてあげますけども!!」
もうここまできたら頑固どころか、いじっぱりじゃないかしら。
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