第6話(1)情報の共有

                  陸

「やあ、みんなおはよう」

 屋敷の一番広い部屋に、晴明がゆるりと入ってきて、泉、栞、基、金、焔の並ぶ前に座る。

「……」

「ん? どうしたのかな?」

 黙っている五人を見て、晴明が首を傾げる。

「……どうしたもこうしたもねえよ」

 栞が口を開く。

「気のせいだろうか? 口調に少しばかり怒気を感じるねえ……」

「気のせいじゃねえよ、怒ってんだよ!」

 栞が声を上げる。晴明が目を丸くする。

「何故?」

「なんなんだよ、ここ数日の連中は⁉」

「どうかしたのかい?」

 晴明が首を傾げる。

「オレらが今まで遭遇した妖とは明らかに違えぞ⁉」

「ほう……」

 晴明が顎に手を添える。

「なにがほう……だ!」

 晴明の反応に栞がさらに苛立つ。

「いやいや、そこに気が付くとはなかなかだよ……」

 晴明がわざとらしく両手を広げてみせる。

「ああん⁉」

 栞が立ち上がって、晴明のことを睨みつける。

「まあ、ちょっと落ち着き給えよ……」

「これが落ち着けるかよ!」

「そこをなんとか落ち着いてくれ」

「し、栞さま……」

 泉が不安気な視線を向ける。

「とりあえず冷静になってください……」

「ちっ……」

 金に声をかけられ、栞は舌打ちしながら、腰を下ろす。晴明が笑みを浮かべる。

「ふむ、まずは情報の共有をしたい。報告を頼む」

「報告?」

「……晴明くん、式神を通じて、現場を視ていたのでは?」

 焔が首を傾げる横で基が不思議そうに問う。

「いやいや、やはり実際の目で見た感覚というものを大事にしたいんだよ」

「ふむ……」

 晴明の答えに基が頷く。泉が口を開く。

「では順を追って……まず、私と栞さまが遭遇したのは、土の中から出てくる腐った死体の群れたちです……」

「不気味な連中だったぜ……」

 栞が顔をしかめる。

「土の属性……ということだったね?」

「ああ、木々の生命力を注ぎ込むことによって、打ち克った」

 基の言葉に晴明が頷く。

「話を聞く限りだと、火で燃やすのも有効そうだけどね~」

「うん、それも悪くはない選択肢だと思うよ」

 焔の言葉に晴明が首を縦に振る。泉が話を続ける。

「……次は栞さまと焔さまが七条通りで遭遇した、金で出来ている大柄な人形ですが……」

「あいつもなかなかに不気味だったぜ……」

 栞が顔を再度しかめる。基が焔に視線を向ける。

「金の属性だったね?」

「うん、アタシの火炎で溶かしたけどさ……」

「口からバアッと炎を出してな」

「細かいことは良いって……」

 栞の言葉に焔は苦笑を浮かべる。

「……」

「泉さん? なにか気になることでも?」

 金が泉に声をかける。

「え、ええ……私の水の術も効果的なのではと思いまして……」

「金を錆びさせるということだね?」

「ええ」

 基に対し、泉が首を縦に振る。

「なるほど……晴明殿?」

 金が晴明に視線を向ける。

「うん、それも選択肢の一つだね」

 晴明が笑みを浮かべる。

「次は……なんでしたかしら?」

 金が泉に問う。

「……焔さまと基さまが堀川小路で遭遇した、大きなタコさんです」

「ああ、あれは大きかったね……流石に度肝を抜かれたよ……」

 基が思い出して微笑む。

「細かいことを言うならば……海獣の類という認識でよろしいでしょうか?」

「ああ、それで良いと思うよ」

 泉の問いに晴明が頷く。

「………」

「焔さん? なにか気になることでも?」

 金が焔に声をかける。

「……いや、食べたら美味しいのかなって……」

「……聞いたわたくしが愚かでした……泉さん、続けてください」

「は、はい……次は、基さまと金さまが船岡山で遭遇した人面の大きな木さんです……」

「ああ、あれもなかなか不気味だったね……」

 基が苦笑を浮かべる。

「金ちゃんの金槌で倒したんだっけ?」

「ええ、そうですわ」

 焔からの問いに金が首を縦に振る。焔が顎をさすりながら呟く。

「アタシの火も結構有効そうだけどね~」

「それはそうだな、どうよ?」

 栞が晴明に視線を向ける。晴明が苦笑する。

「……下手をすれば山火事だからね、あまり推奨は出来ないかな……」

「……最後に金さまと私が遭遇した大きな黒い犬です……」

「……見たことのない類の犬でしたわ」

 金が腕を組む。基が視線を晴明に向ける。

「晴明くん?」

「遠く西方の島に犬の姿形をした大きな妖がいるという。人に害をなすことが多いそうだ」

「……問題はそこだよ」

「うん?」

「何故にこれまで見たことのないような妖や物の怪が姿を現しているんだい?」

「……それについては大体だが見当はついているよ……」

「見当がついている? 本当ですか?」

「ああ、我を困らせようという輩の仕業だろうね……」

 金の言葉に晴明が頷く。泉が不安そうな表情を浮かべる。

「お、お師匠さま、私たちはどうすれば……?」

「……心配は要らない、君らは大分力を付けてきているよ。そうそう後れはとらないはずだ。景気づけにそれぞれの決め口上でも考えておこうか?」

「要らねえよ‼」

 晴明の提案に対し、栞が声を荒げる。

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