第1話(2)水と木

「……まあ、というわけでオレらからなわけだが……」


 栞が頭の後ろで手を組みながら歩く。


「は、はい……」


 栞の呟きに対し、栞の斜め後ろを歩く泉が不安気に頷く。栞が振り返って尋ねる。


「なんだよ、泉……もしかしてビビっているのか?」


「え、ええ……」


「いやいや、物の怪退治なんて、もう何年もやってきていることじゃねえか」


「そ、それは、五人皆で一緒にだったり……もしくはお師匠さまが必ずついていてくださっていましたから……二人だけというのは……」


「もうちょっと自信を持てよ」


「じ、自信ですか?」


「ああ、晴明の野郎がいなくたってオレらは十分やれるさ」


「そ、そうでしょうか?」


 泉が首を傾げる。


「そうだよ。繰り返しみてえになるが、オレらだって、それなりの場数は踏んできているんだ。そういう経験は無駄にならねえよ……」


「……」


 泉が考え込む。


「な?」


「自信……」


「そうだ、てめえのことを信じるんだよ」


 栞が自らの左胸のあたりを右手の親指でとんとんと叩く。


「過信にならなければ良いのですが……」


「か~お前さんってやつは昔からどうも心配性だね~」


 栞が頭を軽く抑える。


「す、すみません……」


 泉が頭を下げる。


「別に謝らなくても良いけどよ……」


「そういう性分なもので……」


「性分っていうのはなかなか変えられないか?」


「ええ……」


「それじゃあ、ひとつずつ不安要素を取り除いていけばいいさ」


「え?」


「そうすりゃ心配することも無くなるだろう?」


「ま、まあ、そうですね……」


 泉が頷く。


「まずはだ、あの晴明の野郎ってのはだいぶいい加減で胡散臭い野郎だが、そこまでいい加減な野郎ってわけじゃねえ」


「え、ええ……?」


 栞の言葉に泉が戸惑う。


「なにも単なる思い付きでオレらに任せているってわけじゃねえってことだよ」


「う、う~ん……」


 泉が腕を組む。


「オレらのこれまでを見てきて、これならば十分に任せられると思ったから、休みを取ったってことだろう?」


「そ、それは……」


「違うか?」


「そうかもしれませんね……」


「そうだろう?」


「ふむ……」


「泉、お前さんはどうも自分に自信が持てないようだが、晴明はお前さんを含めて、オレら五人のことを信頼しているんだよ」


「お師匠さまが信頼してくださっている……」


「ああ、そうだ」


 栞が頷く。


「ほう……」


「へへっ、どうだ、これで心配の種が無くなったな?」


「ま、まあ……」


「よし、それで良い……」


「でも……」


 泉が首を傾げる。栞が呆れる。


「まだ心配してんのかよ? ……分かった、むしろ心強くなることを教えてやろう」


「ええ?」


「知りたいか?」


「し、知りたいです!」


「なんだと思うよ?」


 泉がやや間を置いてから答える。


「……皆目見当もつきません……」


「それはな、このオレがついているってことだよ」


「むしろそれがもっとも心配なのです」


「はあっ⁉」


 泉の即答に栞が驚く。


「……着きました」


「おい、泉、今のはどういう意味だ?」


「栞さま、集中をしましょう」


「むう……」


「この辺りが物の怪が現れたという報せがあった場所ですね……」


「ここら辺にも墓地があったとは知らなかったぜ……」


「なんでもあまり人が利用しない墓地だとか……」


「そんなことあるのかよ?」


「どうやらあるようですね」


「知られちゃマズい墓でもあんのか?」


「さあ、そこまでは……」


「妙なこともあるもんだぜ……」


 泉と栞が周囲を見回しながら会話する。


「むっ!」


 泉が視線を向けると、ゆらゆらと空中を飛ぶ、火の玉がいくつか見える。


「あれか!」


「ここはお任せを!」


「おう、任せたぜ!」


「はあっ! 『水流』!」


「!」


 泉が素早く印を結ぶと、彼女の周囲から水が勢いよく噴き出し、それらを被った火の玉はたちどころに消える。


「ふう……」


 泉が安堵のため息をつく。


「水の量が前よりも増えてねえか?」


「ええ、修行を重ねましたから……」


 栞の問いに泉が答える。


「……これは提案なんだけどよ……」


「はい、なんでしょうか?」


「扇子とかから、水を出せるようにするのはどうだ?」


「……それは一体何の意味があるのですか?」


 泉が目を細める。


「意味はねえけど、宴会とかでウケるぞ」


「ウケなくても良いんですよ……むっ⁉」


「……!」


 土の中から、人間が腐ったようなものが現れ、泉たちが驚く。

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