ネクラで陰キャだった僕が、女装して学校に通うようになったら、いじめっ子の陽キャから惚れられた件

葉っぱふみフミ

第1話 陰キャな僕はクラス内で孤立する

 開けっ放しにした窓から心地よい風が部屋に吹き込みカーテンが揺れる。

 カーテンから差し込む陽の光が眩しい。


 山中智やまなかさとるはベッドに寝転びながら時計を見つめていた。

 時計の針は午後1時を回っている。

 学校では昼休みが終わって4時間目が始まったころだなと、頭が痛いと仮病を使ってズル休みしたにもかかわらず、頭の中は常に学校のことばかりを考えてしまう。


 朝からずっとベッドの上でネット動画みたり、漫画読んだりしていただけだが、さすがにお腹すいてきた。

 ベッドから起き上がると、部屋をでて一階のリビングへと降りて行った。


 冷蔵庫をあけると、唐揚げとチャーハンが盛ってある皿が目に飛び込んできた。母さんの「温めて食べてね」というメモも添えてある。


 病人が食べるにしては重たいメニュー。ズル休みしているのがバレたのかと一瞬思ったが、会社では女性初の部長に昇進したらしいが天然なところがある母さんが、息子の一番好きなものを作ったんだろうと勝手に思い直して電子レンジに入れた。


 加熱中オレンジ色に染まるチャーハンをボーっと眺めながら、どうしてこうなってしまったんだろうと思いを巡らせた。


◇ ◇ ◇

 

 今からさかのぼること5カ月ほど前、新緑が眩しい大型連休明け昼休み、給食を食べ終わった僕はいつも通り図書館へと向かおうとしていた。

 教室を出ようとする僕の肩を渡辺裕太郎がガシッとつかんだ。


「山中君も、バレーの練習しない?」

「バレーって、バレーボール?」

「そう、今月末クラスマッチだろ。優勝するために、みんなで練習しようよ」


 優しい声と親しみやすい笑みを浮かべ練習に誘ってくるが、僕は昼休みは図書館で一人で本を読んで過ごしたい。


「ごめん、図書館に行きたいんだ」


 僕がその言葉を口にした瞬間、裕太の顔から笑みが消えムッとした表情に変わった。


「あっ、そう」


 僕に吐き捨てるように言うと、他の男子と一緒に教室を出て行った。


 整えられた眉毛と切れ長なつり目にまっすぐ伸びた鼻筋、絵にかいたような美男子であり、明るい性格と2年生ながらバスケ部のレギュラーを獲得するような運動神経を兼ね備える裕太は、クラスのリーダー的存在だ。

 そんな彼からすると、せっかく陰キャの僕にも誘いの手を伸ばしてやっているのに、その手を払われるとは思ってもみなかったのだろう。


 その日を境に、イジメが始まった。

 最初のうちは話しかけても無視される程度の軽いものだったが、夏休みが開け2が気に入ると徐々にエスカレートしていった。

 上靴や教科書を隠され右往左往しながら探し回る僕を見て嘲笑されたり、ノートに落書きされたりもした。

 

 先週行われた運動会の後クラスのみんなでカラオケに行ったらしいが、当然僕は誘われることはなかった。


 ついに耐えきれなくなった僕は、昨日の放課後担任の村山先生に相談した。

 職員室から生徒相談室へと場所を変えて、先生は僕の目を見て真剣に話を聞いてくれていたが、話が進むにつれて目尻が下がり困った表情が浮かんでいった。

 僕の話が終わり、数秒間の沈黙の後、先生は静かに話し始めた。


「話してくれてありがとう。でも、殴られたりお金を脅しとられたわけじゃないんでしょ」

「まあ、そうですけど」

「だったらイジメじゃないでしょ。ちょっと度の過ぎた悪ふさげってところね。渡辺君には私の方から言っておくから安心して。それに、クラスの友達と馴染もうとしない山中君にも悪いところがあるんじゃないの?」

「それは……」

「はい、そういうことだから、みんなと仲良くしてね」


 先生は僕の肩をポンと叩いて、職員室へと戻っていた。


◇ ◇ ◇


 昼ごはん食べ終わった後も何もする気になれずリビングのソファに寝転びながら、再びネット動画と漫画を見続ける。

 

 グダグダと無駄で空虚な時間を過ごしネット動画と漫画にも飽きて、テレビをつけると左上の時刻表示は3時40分を示していた。

 学校では6時間目の授業が終わったころだなと、またしても学校のことを考えてしまう。


 ワイドショーの芸能人の不倫ネタをボーっと眺めながら、明日はどうしようと考えてしまう。

 二日連続で頭が痛いと言えば心配性なお母さんは病院に連れて行くだろうし、学校に行けばまたイジメられる。


 八方ふさがりでどうしようもない閉塞感に押しつぶされテレビを消してソファにうつ伏せた。


「智、大丈夫?」


 いつの間にかウトウトと昼寝していたみたいだ。花恋の声で目を覚ました。


「あ~、お姉ちゃん、部活は?」


 高校生の花恋は吹奏楽部に入っており毎日帰ってくるのは7時過ぎのはずだが、テスト前でもないのに5時ごろに家にいるのは珍しい。


「父さんも母さんも仕事で遅くなるって言うし、今日は個人練習の日だし、智のことが心配で部活休んじゃった」


 自室に着替えに行こうと振り返ると、加恋の黒く艶めく髪も揺らめいた。整った顔立ちに、均整の取れたスタイル、県内有数の進学校に通う花恋はまさに才色兼備。自慢の姉であると同時に、僕の劣等感の原因でもある。


「夕ご飯食べられる?父さんたち遅いから、私作るけど何か食べたいのある?」


 僕がズル休みしているとは微塵も疑うこともなく、満面の笑みで語り掛けてくる花恋の優しさが辛い。

 気づけば涙があふれていた。


「どうしたの、智。具合悪いの?病院に行く?保険証どこかな?」

「ち、違うんだ。僕、イジメられてるの」


 一日誰とも話すことなく過ごしていた僕は堰を切ったように話始めた。

 一通り話終えた僕を花恋は優しく抱きしめてくれた。


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