re.リスカの朝

伊藤魔鬼

re.リスカの朝

かつて触れられる度に、べたべたとした不快感が体を這い回る。一時的な満足を求め、情欲に身を任せる。嫌いなタバコの香りが、夜毎、私を包み込む。共に過ごした後、彼はベッドで満足そうに眠る。その獣のような姿を尻目に、イヤホンで耳を塞ぎ、必死にその場をやり過ごすのだった。


取っ替え引っ替えの男たちとの日々。抱きしめて欲しい彼のいない寂しさを、そうやって紛らわしていた。


夜、ベッドの端に座り、窓の外を見つめる。月明かりが静かに部屋を照らし、静寂が広がる。タバコの香りが部屋の隅々に残る中、私は深くため息をついた。


「またか…」と自分自身に問いかける。なぜこんな生活を送っているのか。本当に好きな人に拒絶された理由は何か。拒絶されてもなお追い続け、噛みつき続けるのはなぜか。もっと別の方法はなかったのか。嫌われて居場所がないと感じても、生きている意味はあるのだろうか。


私はいつも間違え、答えを見つけられないまま自問自答を繰り返す。


遠くから街の喧騒が聞こえてくる。イヤホンを外し、長い間見つめていた夜の空に別れを告げ、静かにベッドを離れた。この部屋、この生活から抜け出したいという思いが、今まで以上に心を揺さぶる。


自殺願望ではない。オーバードーズや自傷行為が続く。


「自分を大切にしろ」とある日誰かに言われた。誰にも大切にされたことのない私に、それができるはずがない。


「ごめんなさい」という私の口癖は、実は「誰か助けて」という意味だった。


誰にも理解されず、誰にも救われない。自分に罰を与え、何かに贖罪しようとする。


自分で買ったマルボロメンソールを吸い、涙と胃液がドロドロと流れ出す。傷だらけの手首を掻き毟る。


「誰も助けてくれない」と思う。


目が覚めると、ベトベトの髪を撫で下ろす。きっと私は自分自身に嫌われている。みんなにも嫌われている。


そう思っていたが、実は違った。


助けの手を、私はいつも「ごめんなさい」と言って振り払っていたんだ。

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re.リスカの朝 伊藤魔鬼 @moyashin12

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