才女の君と平凡な僕との程よい距離感を誰か教えてください
熊の蹄
第1話 出会い
今このコンサートホールにいる人の中で一番パッとしない地味な男、
「ちゃんとシャキッとしなさいよ文人、可憐の晴れ舞台なんだから」
「分かってるよ、母さん」
(早く帰りたい)
自分の母はピンッとして堂々と歩いているのに対して、文人はコンサートホールの廊下をノロノロとだらしなく歩いている。
そして廊下の奥の方で手を振っている可憐に文人達は気がついた。
「お母さん!お兄ちゃん!こっちこっち!」
(周りにいっぱい人がいるんだからあんまり目立つ事するなー!可憐!)
と心の中で慌ててる俺とは違い、母さんは可憐を抱きしめた。
「可憐!悔いのないよう頑張りなさいよ!」
「うんっ!お母さん」
(俺も何か言わないといけないのか!)
だが文人は母と妹が楽しく会話をしているのを横目で見ながら結局、何を喋ればいいのか分からなかった、それを見かねた母が耳元で喋る。
「ちょっと、アンタも可憐に何か言いなさいよ」
(どうしよう、普段は可憐と普通に喋れるのに)
「えっと……可憐…頑張ってこいよ」
「うんっ、お兄ちゃん頑張る」
と言って可憐は笑顔で控え室に戻る。
(こんな気の利いた事を言えなかった俺に対して、こんな冴えない俺でも優しく接してくれるウチの妹は本当に可愛い、だけどやっぱり帰りたい)
そんな事を思っていると便意を催してきた。
「母さん、ちょっとトイレに行ってくるから」
「ちゃんと戻って来なさいよ!」
「分かってるって!」
そう言いトイレに駆け込んだ。
(ふぅー間に合った、可憐の演奏を聞いてからだったら間に合わなかったかもな)
そしてトイレを済ませてすぐに文人はトイレを出て、会場内に向かう。
(可憐は俺と違って出来がいいからな、今年も入賞間違い無しだ)
そう思いながら歩いていると、目の前から女の子がこっちを見ずに下を見ながら走って来ているのに文人は気がついたがすでに遅かった。
「イテテテテ」
「すいません!大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
よくその子を見てみると銀髪でコンクールに出る衣装を着ていた。
「そうですか、じゃあ私はこれで!」
そう言って走り出そうとしていたその子の手を文人は掴んだ。
「えっ?ちょっ」
「あの、控え室は反対ですよ」
「あっ、ありがとうございます」
そしてその子は控え室へと歩いて行ったがその子の顔はあまりにも曇っていた。
「ちょっと文人!何そこで止まってるの!もう始まるわよ!」
「うん分かった!」
そして少しの疑問を抱きつつその日終わった。
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翌日、文人のクラスが慌ただしくなっていた、その理由は転校生がこのクラスにやってくるからだ、夏休みの一ヶ月前に転校してくるのは珍しい。
「どんな子なんだろう?」
「噂じゃ、もの凄く美人なんだって!」
(そう女子はキャッキャしてるのに対し男子は)
「もし可愛かったら、俺のこの顔でメロメロにしてやるぜ!」
「お前みたいなナルシストより、俺みたいな体育会系の俺だろ!」
「美人でありますように!美人でありますように!」
(邪な考えしか抱いていない、まあ僕みたいな教室の一番角にいる陰キャには関係の無い事だが)
すると先生とあの時コンサートホールでぶつかった女の子が入って来た、そしてびっくりした文人は声を上げてしまった。
「あーー!!」
(やべっ!)
「あの時の!」
そしてこの瞬間から文人の高校生活は波瀾万丈の毎日となる。
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