第14話 ~巨影~

 叫び声を聞いて急いで上の階へと登った3人は、三馬鹿の1人道隆と出会う。


「おぉお、おい!たっ助けてくれ!モンスターが白いのが!たけるが!」


「おい!一旦落ち着け!俺達もさっき襲われたんだ、もしかしたら同じモンスターかもしれねぇ、冷静に話してみろよ」


「冷静にって!こっちは仲間1人死んでんだぞ!それにまだ近藤こんどうさんが!」


「おいおい、近藤が?あいつなら全然倒せる相手だぞ」


「違うんだ!不意打ちで利き腕持ってかれちまってよ、きっとそのせいで本来のパワー出せてねぇんだ!とにかく助けてくれ……頼む、頼むよぉ」


「竜之介さん、どうします?貴方の事散々責めてきた人なんでしょ?」


「いや、助ける…責められたのだって元は俺の責任だ、俺だってこいつらの立場だったら責めてたさ、それにあんな事起こる前は楽しくやらせてもらってたからな、恩返し的な奴だ」


「竜之介さんが行くなら私も行くよ!」


「よし!一度は討伐した相手だが気を引き締めていくぞ!」


「「おう!」」



 道隆が言うには近藤達はこのフロアの奥に罠に嵌まってしまって部屋の中に囚われたらしい、本人は別の場所で探索を続けてた所、近藤の声を聞き、助けを呼びに来たらしい。



「この部屋か…おい!扉ブチ破るからどいてろ!」



 竜之介が一声掛けると、中から早く助けてくれと言う声がしたので、持っていた斧を振りかぶり木製の扉に打ち付ける、バリッと音が鳴り扉に青いひび割れた膜があらわになる。



「なんだ?ガラスの扉…でもないよな」


「あっこれは罠の付いた扉ですね」


「なんだそれ」


「デソラに出てくる、入ったら扉が勝手に閉まる様設計された罠だよ」


「まじか!壊せんのか?」


「意外にも脆いからその斧で壊せると思う」



 罠付きの扉、いわゆるトラップドアは、一見厄介そうに見えるが、外からの攻撃には脆弱なので、気を付けていればほとんど無害のトラップである、内側からの攻撃にはとても強く、機械技師の手製手榴弾でも壊れない強度を誇る、たまに亜人側が仕掛けたトラップドアには転移や別の部屋直通などの転移系の罠等が仕掛けられている場合があるから注意である。



 ちなみに機械技師の手製手榴弾は、秘密兵器の様な扱いであり、高ランクの素材を要求される為、本当に最終手段である、世一達が瀕死まで追い詰められて、苦戦した谺でさえ、たった4つで沈む程の威力を持っている。



 これをポンポン使うプレイヤーは少なく、唯一気軽に使える状況になるのは、ギルドに雇われの傭兵としてイベントに参加する時ぐらいである、なぜその時だけなのかと言うと、素材は雇われた側のギルドの素材を自由に使えるからである(一部許可制)、だが使い過ぎるとギルドのメンバーに怒られ、最悪ギルドマスター専用の掲示板で晒され、ブラックリスト入りしてしまうので節度はちゃんと守ろう。



「よし、壊せるなら話は早い」



 竜之介は自慢の斧をトラップドアに何度も打ち付ける、すると扉にひびが入ってきて、遂には粉々に砕け散った、そして4人は恐る恐る部屋の中に足を踏み入れた。



 中は近藤以外には誰もいなかったが、すぐ目の前の空間が歪んでいたので、その中に敵がいるのは間違いない、だが敵はその場から動かない様で、おかげで助けを呼べたと言う。



「とりあえずここから出ようぜ近藤」


「無理だ…武があの中にまだいるんだよ!このまま逃げたら裏切ったみたいになんじゃねぇか……」


「馬鹿野郎!利き腕失ってる奴が助けに行けると思うか?」


「でも、よう……あいつは俺の大切な仲間なんだよ、ここで助けに行かなきゃ仲間じゃねぇだろ?だから逃げる訳にはいかねぇんだ」


「お前は少し休んでろ、よし、立木!世一!行くぞ」



 竜之介の掛け声と共に一斉に、空間の中にダイブした3人の前に、な白装束のモンスターが出現した。



「なっ!さっきの奴の何倍もデカい!」


「SK!」


「え!?ボスじゃん!」



 と、各々感想を口に出すが、能力発動中なのでその声は届く事は無かった。



 サイレントキングキラー(以下SKK)とは、家庭用や社内用の普通のSKとは違い、工業用のSKであり、工事現場の騒音をかき消す為に用いられていた、そしてその5mの巨体からSKのボス的存在なのでキングと名付けられた。



 本体は少し円錐体っぽい無機質な見た目に、長い腕が垂直に伸びている、腕は上下左右、中心の本体を経由して、体の下以外どこへでも動かせる、体の下にはキャタピラが付いており、これを利用して動いている。



 こちらも同様、白いラッピングが開けた姿をしている、目はチカチカと赤い点滅を繰り返しており、能力解除中やスピーカを破壊した場合のみ、体躯全体からはギシギシと、錆び付いた金属と金属が擦れ合う様な不快な音が聞ける。



 その空間は不自然な程大きく、まるで部屋がSKKの為に無理やり空間を捻じ曲げ、広げている様に感じた。



 そして後から飛び込んで来た道隆が、物凄い顔をして固まっている。



「とにかくお互い喋れる様になる為には、スピーカーを壊すしかありません!って聞こえてないか」


「どうしたらいいんだ……」


「確かスピーカー、だったよね」


「久々にこんなでけぇの見た……確か胸だったよな、それにしても勝てんのか?これ」



 世一は相手の弱点を狙うと伝える為、この状況でジェスチャーをする事にした。



 実際ゲーム内でSKと戦う際は、その空間にいる人に向けて限定だが、ジェスチャーを送れる使用がある、もっとも現在のデソラではSKの弱点は、初心者でも知っている常識として共有されている。



 そして、世一はゲーム内で実際に使っていた『俺を見ろ!』と『あれを見ろ!』のジェスチャーを模倣して繰り出した。



 ちなみに、俺を見ろ!のジェスチャーはSKが追加される以前は、マウント厨のお決まりジェスチャーで、胸に手を当てて誇らしげな顔をするというもので、その仕草がSK系の弱点である胸部のスピーカーを指し示し、あれを見ろ!のジェスチャーは、文字通り人にあれを見せたい一心で指を指す仕草である、こちらは胸に攻撃するという意図で放つジェスチャーであり、こちらもマウント厨御用達のジェスチャーであった。



 この様にマウント厨御用達ジェスチャー達は、対SK戦で大いに役立ったので、これが流行り出した時期に、何も知らないマウント厨がこのジェスチャーを繰り出すと、『SKK乙』とチャットに打たれるという謎の様式美が成り立った。



 この少し後に懲りずにマウント厨が、新たなジェスチャーを編み出してくるのはまた別の話である。



 ちなみに竜之介はまだSKが追加されていない時にデソラを少しプレイ(RPGで言う所の始まりの街から出てきて2番目の街に入った所)しており、結局仕事が繁忙期に入り辞めてしまったので、完全初見であった。



「胸?あいつ?世一は何やってんだ?」


「伝われ!伝われ!伝われ!」


「オッケー!胸の弱点狙い撃ちよね!」


「行くのか?行くんだな!」


「なんだかよく分らんが、戦うってことだな!」


「伝わった!よっしゃ!」



 世一は自分の精一杯の模倣ジェスチャーが伝わった、と勝手に思っているが、竜之介との完全な意思疎通は取れていない、が何となく大本の目標を察したのか、斧を構え、皆が走り出すのを待っている。



 しばらくの静止の後、SKKが叫び声のモーションを放った瞬間、竜之介は少し遅れたが皆一律にSKKに向かって走り出した。



 SKKは4人が近づくと同時に、先んじて攻撃をし始める、その巨大な双腕で挟み込む様に薙ぎ払いを繰り出すが、いくら巨大とは言えど、動きが遅ければ当たるはずも無く、各々の避け方で躱していく、双腕が完全に巨体の前に挟み込まれると、奴は少し動きを止めるのを利用し、その攻撃パターンを完全に把握していた世一と立木が、素早く腕の横に付いてる突起を足場に、双腕に乗りSKKの胸の弱点部分に向かって走り出す。



 腕の長さは胴体部分よりも腕の方が6mと1m程長く、主にビルの清掃やメンテナンス、工事現場での運用の為、SKKの腕の横には梯子が付いており、腕を垂直に伸ばすと、拳の部分が籠の様になっており、それに登り高所作業をするのを想定して作られている。



 だが、SKシリーズが発売され運用される事無く、世界が荒廃の時代に入ってしまった為、その機能が日の目を浴びる事は無かったという。



「「食らえ!」」



 と同時に声を上げ、世一は短剣を、立木は棍棒を胸のスピーカーに突き刺す。



 その瞬間またしてもパンッという音が鳴った、次の瞬間SKKの錆び付いた金属音と共に、周りの音が帰って来る。



 いきなり姿を現した巨体と4人にビックリする近藤だったが、倒したと勘違いしたのかすぐさま雄叫びを上げる。



「おい!近藤避け――」



 竜之介の声が届く前に、近藤の身体は横に吹き飛び、グチャリと壁に叩き付けられた。

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