冒険者ギルドには問題が山積み 5

 揉めていることに対して、のらりくらりと言葉巧みに言い逃れをする聖弓シビリアン様。彼の言い分は法律的には問題がありません。


 奴隷は、王国では所有物の一種として考えられています。


 人権問題に関しては、国際法で論じられています。

 ですが、各国のそれぞれにもルールがあり、王族、貴族、平民、奴隷、四つの階級制度がある以上は、どうしても階級に応じた優遇制度が生まれてしまいます。


 此度は、国選パーティーとして、貴族の爵位と同じ位を持つシビリアン様が、他者の所有物として認められる奴隷を殺しました。


 しかし、国際法ではなく王国の法律では、此度は所有物の破損に対する損害賠償金ソンガイバイショウキンを奴隷商人にシビリアン様が支払っている以上は罪ではありません。


 示談ジダンが認められている状態です。


 つまりは、聖騎士フォーリング様の訴えは、倫理観の問題であり。

 聖弓シビリアン様は法律に則って述べれば、問題ない人物になります。


「少しよろしいでしょう?」

「あん? なんだあんた?」


 我が身が現れたことで、強く反応したのは、シビリアン様です。


「揉め事をされているように見えましたので助言させていただければと思ってやってまいりました。我が身は法務省特別裁判官シャーク・リベラ子爵と申します。彼女は助手のマリアンヌです」

「どうも」


 マリアンヌが私の横で、お辞儀をして、青ざめた一同の空気を入れ替えます。


「さて、少しだけ側でお話を聞かせていただきました。どうやら互いの主張が平行線のようですね。宜しければ、法律家として調停役を務めさせいただければと思います」

「あっ、あなたは?」

「ギルドマスター。あなたも戸惑っておられるようです。少しこちらで」


 我が身は手に持っていた手紙をギルドマスターに読んでいただきました。

 状況をご理解いただいたところで、ギルドマスターが国選パーティーに声をかけてくださいます。


「この方はスキルで調停役をして下さるそうだ。聖弓シビリアンが法律上は違反していないことを皆に伝えたいとも言っている」


 ギルドマスターの言葉に、 聖弓シビリアン様は微笑みます。

 他のメンバーは苦虫を噛み潰したような顔をされました。


「ですが、法律だけでは納得できないこともあるでしょう? そこで双方の話を聞いた上で、判断をさせて頂ければどうかと思います」

「リベラ子爵殿、私はシビリアンを追放して、このパーティーから出ていってもらえればいい。それ以上は彼の責任を問うつもりはない」

「おいおい、それが嫌だって言ってんだろ。俺は追放されるようなことはしていない」

「他のメンバーも追放に賛成している。追放は決定だ」

「そんな勝手が許されるはずがないだろ? なぁ、法律家さん」


 平行線を続ける二人の会話で、状況は掴めてまいりました。


「そうですね。契約次第ということでしょうか?」

「契約? 俺たちは冒険者ギルドで組んだパーティーだぜ。契約なんてあるかよ」

「いいえ、あなた方は二つの契約を結んでいます。一つは、冒険者ギルドと冒険者として個人の契約。二つは、国選パーティーとして王国とパーティーとしての契約です」

「あぁ? まぁそうだな。それは結んだと思うな」


 どうやらこちらの契約に関しては問題なく納得してもらえたようです。


「それぞれの契約に基づいて、私が話をさせていただければと思っておりますが、如何でしょうか? 皆さん双方が納得できる結果はやはり第三者が介入することで、得られると考えています」

「俺はいいぜ。問題ない。法律家さんに間に入ってもらって納得してくれればいいだ」


 聖弓シビリアン様が即答したことで、奥歯を噛み締める聖騎士フォーリング様。


 こちらを睨みつけるような視線を向けてくれますが、ギルドマスターが間に入ってくれます。


「聖騎士フォーリングよ。我々も解散は困る。だが、お前がどうしても追放したいというのであれば、一度思いっきり話し合いを行ってみるのはどうだ?」

「……分かりました。みんなもいいな?」


 聖騎士フィーリング様が同意したことで、他の方々は戸惑うばかりでしたが納得はしてくれたようです。


 やっと調査を開始させていただくことができます。

 此度は依頼者がいるわけですので、仕方ありませんね。


「それではいくつか質問をさせていただきます。此度は聖騎士フォーリング様、賢者アーロン様、聖拳ガルディウス様の三人の同意で追放を決定されました。これに対して聖女ミレディーナ様は反対の立場。そして、聖弓シビリアン様は追放を是としておりません。それでよろしいですか?」


 ステッキに眼帯をつけた我が身の怪しさはわかっているつもりです。

 そんな男の問いかけに、訝しげな顔を見せる皆様でしたが、それでも頷いてくださいました。


 しかし、一人だけ頷くのではなく、挙手される方がおられました。


「聖女ミレディーナ様、どうされました?」

「私は投票を不問とします」

「不問?」

「はい。賛成にも反対にも入れません。正直に言えば、奴隷を殺した話も知りませんでした、それに追放の話も聞いたばかりで戸惑うばかりです」


 なるほど紅一点である聖女ミレディーナ様は状況について行けていないようですね。


「分かりました。それで、互いの主張がまとまったところで、法廷を開廷します」


 我は自身の権能に従ってスキルを発動する。


 

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