冒険者ギルドには問題が山積み 3

 スキンヘッドに厳つい男性が驚いたところで、今回の依頼について伝えました。

 やはり気づいておられなかったのですね。


「はい。パワハラです。ビリーさんは、あなたの言動や行動によって、新人をいじめていると連絡されました。職場において行われる抵抗や拒絶ができない関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、労働者の就業環境が害されるような言動のことをいいます」


 これは上司や先輩といった場合が多いですが、冒険者ギルドは個人事業主扱いなので、上司はおりません。

 そのためパワハラと定義するならば、取引先か、先輩冒険者か、冒険者ギルド職員だけです。


「さて、ビリーさん」

「はい!」

「この方は、冒険者ギルドのハンターではありません」

「えっ!」

「あ〜それは」

「わかっています。2階の個室を借りても?」

「ああ」


 我が身は国選パーティーたちが顔を合わせているテーブルを通り過ぎて、奥の部屋へと入っていく。


「こちらで」

「はい」


 男性に案内されて、部屋の椅子に腰を下ろしました。


「さて、改めてですが、ビリーさん。この方は冒険者ギルドの隠れ職員さんです。王都では、柄の悪い冒険者さんがいなくなっていて、新人冒険者さんを育ててくれるちょうど良い冒険者がいないのです。そこで、冒険者職員の中で見た目が厳ついこの方が新人教育も兼ねて、新人イビリと言う名の教育をしております」


 我が身から発せられた説明に、ビリーさんは唖然としています。

 職員さんはスキンヘッドの頭をパシパシと二度叩かれました。


「そんなお仕事があるんですね」

「昨今は、働き方改革や叱ってはいけない教育などがあって、冒険者ギルドでも色々な方策が取られております。その一環として、冒険者が危険な職業であることを、新人のうちから教えるためです。職員が危なそうな冒険者を演じることで、新人さんに危険さと同時に安全の確保をしているんです」


 説明を終えたところで、職員さんは諦めたように深々とため息を吐かれました。


「先生、全部話されたら困りますよ。こいつら新人には何も言わないようにしているんですから、これまでもバレないようにしてきたのに」

「今回は、相手が悪かったですね。ビリーさんが法律のことを知っていて、我が身に相談されました。今後もこのようなことが増えてもらっては我が身も困ります。ですから、今後は冒険者ギルド名物、新人登録時に先輩冒険者にわからせられるテンプレは控えてください」


 種明かしをしたことで、今後の冒険者ギルドの方針を変えてもらうことで話をつけます。


「それとビリーさん。今回は職員さんでしたから、あなたに不利益になるようことは精々が精神的苦痛だけです。もちろん、それが一番の問題だと思うかもしれません。ですが、それに文句が言えるのも、結局は現在が平和だからそれが問題になります。王都を出て他国に行けば、職員さんではない本物の強面冒険者さんにわからせられることは増えるでしょう」


 その時に法律が効果を発揮してくれるのかは分かりません。

 

「そっ、そんなのって……」

「あとは、冒険者ギルドの職員さんと新人さんの会話です。ビリーさん。思い出して見てください。怖い顔をしておられますが、職員さんは新人としての心構えや、あなたに仕事の選び方を教えてくれていたと思いますよ」


 我が身は指摘をしながら、ビリーさんに思い出すように促します。


「あっ、確かに新人登録したのか坊主って、最初に声をかけられました。見た目が怖くて、てっきり悪い人だって勝手に思ってました」

「ハァー」


 職員さんもわかっていてやっていることですが、実際に言われると傷ついてしまうようですね。


「確かに仕事の依頼を受けた後に、声をかけられてその仕事はこうしろとか言われて命令されたような気になっていました」

「はい。その一つ一つはあなたを守るためであり、金銭の要求や暴力行為はなかったと思います」

「確かに」

「威圧的な言い方や、怖い顔で雰囲気は出されていますが、ビリーさんが極端なビビりなだけで、職員さんの話をちゃんと聞いていれば、世話好きなおじさんだとわかったはずです」


 ビリーさんはガックリと肩を落として、職員さんも肩を落としてしまわれています。


 この話は以上で終わりです。


 法律的な問題はないと判断させてもらいます。


「さて、マリアンヌ。帰りますよ」

「はい!」


 椅子から立ち上がり、扉を開くと……。


「追放だ! シビリアン!!!」

「フォーリング……」


 どうやら始まってしまったようですね。

 できれば、我が身が帰ってから起きてくれれば、スルーしても良かったと言うのに残念です。


 聖女ミレディーナ様、賢者アーロン様、聖拳ガルディウス様が困った顔で二人のやり取りを見つめておられるます。


 そこにギルドマスターと女性職員が駆け寄っていきます。


「待て待て、お前たちは国選パーティーなんだ。そんな簡単に追放などできなんだろうが!」

「そうです。それにその話は前に済んだことでしょ?」


 二人の仲裁をしても聖騎士フォーリングの怒りは収まらない様子で、パーティーからの追放をするための多数決をとり始めました。


 それに対して、賢者アーロン様、聖拳ガルディウス様が賛成をあげます。


「なっ! 貴様ら!」

「二人ともどうして?!」


 聖弓シビリアン様と、聖女ミレディーナ様が驚いて立ち上がります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る