第19話 ノエルと孵化
「二人には少しお仕置きが必要みたいね」
臨戦態勢に入っているノエルとライを前にしても、エリーは軽口を叩いていた。そんなエリーを二人は警戒していた。
エリーの能力がわからないため、ノエルは出方を伺っていた。するとライが先制攻撃を仕掛けた。
ライは『雷神 アルゲース』で一気に加速し、エリーに肉迫した。目にも止まらぬ早さで近づいたライだったが、その動きはエリーに攻撃を仕掛ける直前で止まった。
「な、何だ!? 動けない!?」
ライは意図的に攻撃を止めたわけではなさそうだった。動けなくなったライは困惑していた。そんなライにエリーはゆっくりと近づいた。
そしてエリーは動けなくなったライの頬を愛おしそうに撫でた。ライは嫌悪感から体中に鳥肌が立った。
「俺に気安く触るんじゃねぇっ!」
ライは体から放電することでエリーを遠ざけた。ライの体から雷撃が放たれると、辺りに焦げたような匂いがした。
するとライは再び動けるようになった。ノエルがよく目を凝らすと、周りに透明な糸が張り巡らされていた。
ライはこの糸に絡まったことで身動きが取れなくなっていたのだ。
「あら、この糸に気付いたみたいね」
そう言うとエリーは指先から糸を放出し、再びエントランスに糸を張り巡らせた。そして唯一の出口である扉に糸を巻き付け、扉を強固に閉じた。
エリーの能力、それは『蜘蛛神 アラクネ』。体から蜘蛛の強靱な糸を出すことが出来るのだ。
エリーは再び糸を出し、それを束ねて鞭を作った。
「さあ、どこまで戦えるか見せて頂戴!」
そう言うとエリーは強靱な糸で出来た鞭を振るって攻撃し始めた。強靱な鞭の一撃はノエルの竜鱗に傷を付けるほど強力だった。
ノエルは竜鱗のおかげで何とか攻撃に耐えることが出来たが、防御力が高くないライにとっては重い一撃だった。
「クソっ!」
ライは持ち前の素早さを活かして鞭を躱そうとしたが、体に糸が絡まり思うように素早さを発揮できていなかった。
ノエルはライとエリーの間に入り、鞭での攻撃を代わりに受けた。そしてノエルは竜爪で糸を切断しながらエリーに近づいた。
「くらえっ!」
エリーに十分近づいたノエルは、エリーに拳を叩き込んだ。しかしその攻撃は糸の束で出来た盾に防がれてしまった。
「良い攻撃だけど、それじゃあ私には届かないわよ」
エリーはノエルに指導をするほどの余裕があった。エリーはまだまだ全力ではないのだ。
「くらえっ! 蜘蛛女が!」
エリーの視線がノエルに向いている隙に、ライはエリーに雷撃を放った。しかしエリーはそれが見えているかのように、糸の盾で雷撃を防いだ。
ノエルとライがエリーの顔を見ると、そこには複眼が出来ていた。この複眼でエリーは広範囲を見ることが出来ていたのだ。そのためライの一撃を防ぐことが出来たのだ。
「気持ちの悪い女だ!」
「あら、酷いわ。そんなことを言う子には罰が必要ね」
そう言うとエリーはライに近づき、ライの体を糸で縛り上げた。そしてエリーはライを壁に叩きつけた。
「ぐあっ!」
壁に強く打ち付けられたライは、かなりのダメージを負った。そしてエリーはそのままライを糸で壁に貼り付けた。
「そこでゆっくり見てなさい」
ライを無力化したエリーはノエルと対峙した。
「そろそろ本気で行くわよ」
そう言うとエリーの下半身が蜘蛛のものへと変わった。エリーの姿は複眼と相まって、おぞましいものとなった。
そしてエリーは糸が張り巡らされたエントランスを縦横無尽に移動し始めた。エリーはこの糸の迷宮の中を自由に動くことが出来た。
一方でノエルは翼に糸が絡まるため、上手く飛べないでいた。そのためエリーにかなりのアドバンテージがあった。
ノエルは竜爪を振るい、斬撃を飛ばして糸を斬りながらエリーに攻撃をした。何度かエリーに肉迫することが出来たノエルだったが、攻撃は全て糸の盾に防がれてしまった。
頼みの綱の竜爪も糸の盾を全て切断することは出来ず、エリーにダメージを与えることが出来なかった。
一方でエリーは遠距離から、粘性のある糸の弾を撃ち出してきた。ノエルは最初はその糸の弾を何と躱していた。
しかしノエルがそれを躱すために動き回るたびに、エントランスに張り巡らされた糸が体に絡まり、動きが鈍くなっていた。
そしてそんなノエルをエリーは糸の弾で狙い撃ちにした。一度糸の弾に当たると、一気に動きが阻害されてしまい、それ以降の糸の弾に全て当たってしまうようになった。
そしてノエルは完全に体の自由を奪われてしまった。エリーはそんなノエルに近づき、ノエルを糸で巻き取り、強靱な糸で出来た繭の中に閉じ込めた。
「クソっ! ここから出せっ!」
ノエルは必死に繭の中で暴れたが、幾層にも重なった強靱な糸を破ることは出来なかった。ノエルは繭の中で自分の不甲斐なさを恥じた。
もっと自分が強ければ、ライを助けることが出来たのにと。
もっと自分が強ければ、もっと自分が強ければ。
ノエルはもっと強い力を求めた。ノエルが心の中で強くそう思うと、能力に変化が訪れた。徐々に体が大きくなり、体の形が変わってきた。
そしてノエルの体は繭を突き破るほど大きくなった。
突然の事態にエリーはもちろん、ライもその光景に見入ってしまった。繭が破れると大きな白い翼がはためいた。
繭の中から現れたのは、大きな一匹の、美しい白い竜だった。
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