第5話 アヤカ・ハルゴマという生徒会長
アヤカ・ハルゴマ、彼女は稀代の美少女だ。長い濡羽色の黒髪に、意思の強さを表したような切れ長の大きな瞳、影を落とすほどの睫、艶やかな唇、全てが最高の状態で調和しており、神がオーダーメイドで作ったかのような美しさだった。まさに美の到達点であり、比類なき美しさを誇っていた。
そんなアヤカは貿易会社として財を成すハルゴマ家の令嬢として生まれた。そして幼少期から上に立つものとして、帝王学などの英才教育を受けてきた。
その中でアヤカが、特に重要視され徹底的に教えられたのは、常に一番良いものを目指すべしというものだった。この教えはアヤカの父が特に大切に思っていることだった。
常に一番良いものを求めるということは、激しい競争の中に身を置き、切磋琢磨する必要があり、結果として実力や審美眼が磨かれるという考えに基づいての教えだった。
この教えを幼い頃から叩き込まれたアヤカは、全てにおいて一番を目指す貪欲な努力家になった。
学校での成績が一番は当然のことで、異能での強さも一番を目指し、インストラクターを付けていた。しかしそのインストラクターもすぐに必要なくなるほど、アヤカは急激に強くなっていった。
また美しさでも一番を目指すべく、自分の容姿に傲ることなく、美容や体型維持を欠かさずに取り組んだ。それもあってアヤカの美しさはさらに磨かれていき、誰もが憧れる美少女となった。
しかしそんな完璧超人なアヤカだったが、彼氏だけは出来たことがなかった。これには理由があった。アヤカは常に一番良いものを求めるため、彼氏も一番魅力的な人物にしたいと考えていた。
しかしアヤカのお眼鏡に適う人物はこれまで現れなかった。容姿が良くても性格に難があったり、異能での強さが微妙だったりと百点満点な人物ではなかったのだ。
一番を求めるアヤカにとって、常に自分の隣にいる彼氏も妥協できるものではなかった。そのため今まで彼氏を作ってこなかったのだ。
「付き合ってください! お願いします!」
今日もアヤカの容姿に惹かれた男子生徒が告白していた。
「ごめんなさいね、付き合えないわ」
率直に答えを伝えられた男子生徒は、涙ぐみながらその場を後にした。この男子生徒も容姿はまあまあ良かったのだが、それだけではアヤカは満足出来なかった。
アヤカはこの学園で彼氏を作ることを半ば諦めていた。しかしそんなとき、アヤカに衝撃が走った。ノエルがこの学園に現れたのだ。
アヤカはノエルを一目見たときに驚愕した。自分と同じ、むしろそれ以上の美しさの人物が現れるとは思ってもいなかったからだ。
ノエルは容姿だけなら百点満点で、アヤカの理想通りの人物だった。しかしアヤカはまだノエルに完全に惹かれてはいなかった。
容姿が良くてもそれ以外の部分、勉強や異能の強さ、性格で難がある場合があるからだ。アヤカはノエルをよく観察することにした。
ノエルの素性を調査させ、学業のレベル、異能の強さや性格などを徹底的に調べ上げた。
(……完璧だわ)
ノエルの調査を終えたアヤカは、ノエルの完璧さに驚いた。まさに自分の理想を体現したかのような人物だったのだ。品性方向で成績優秀、非の打ち所がなかった。
(ノエル君に決めてもいいかもしれないわね……)
アヤカは彼氏にするならノエルが良いと思うようになっていた。そんなときある噂が流れてきた。それはノエルに勝てば付き合えるというものだった。
それを聞いたアヤカは残念に感じていた。
(もしこれで負けて誰かと付き合うなら、その程度の男子だったというわけね……)
アヤカは性格など以外にも、異能の強さも重要視していた。出来ればアヤカに近い実力がある人物が良かったのだ。
アヤカは今回も彼氏が出来ないのかと落胆した。しかしその気持ちはすぐになくなった。それはノエルが自分の想像以上に強かったためだ。
アヤカはノエルの戦いを興味本位で一度見に行った。そこでノエルの学生ならざる強さを目にした。ノエルは師匠との修行で、学生を超えた強さを手にしていた。
それを見たアヤカは自分の心配は杞憂だったと理解した。そしてアヤカは必ずノエルを手にしてみせると決心した。
しかしアヤカはノエルに決闘を挑んで付き合う気はなかった。これはアヤカがノエルに勝てないからではない。実力だけならアヤカはノエルを上回っている。それをしないのは決闘で勝利して無理矢理付き合うのは美しくないという判断からだった。
アヤカは付き合うのなら、心を自分に向けさせて夢中にさせたいと思っているのだ。
しかしここでアヤカは一つの問題にぶつかった。それはアヤカとノエルに接点がないということだ。アヤカとノエルは学年が違うため、一緒に過ごして仲良くなるといったことが不可能だった。
この問題をどうしようかと考えていたとき、アヤカに一つの幸運が降りかかった。目の前にノエルが現れたのだ。それもノエルは女子生徒たちに追われて困っているようだった。これをチャンスだと捉えたアヤカは、ノエルを助けることにした。
アヤカは手招きし、ノエルを生徒会室に誘導して匿うことに成功した。そこで事態が落ち着くまで一緒に過ごすことができた。アヤカはノエルに対して迫るようなことはせず、あくまで落ち着いて優しく対応した。胸中では今すぐ付き合いたいという下心があったが、それを表に出さず、ノエルに好印象を与えた。
そしてノエルが帰った後、さらにノエルと一緒にいるにはどうすれば良いかを考えた。それの答えは単純なものだった。
(ノエル君を生徒会に入れればいいんだわ)
ノエルを生徒会に入れ、そしてノエルの勧誘のいざこざを解決する方法として、アヤカは部活動対抗のトーナメントを開くことにした。
作戦を決めたアヤカは早速昼休みに緊急の会議を開き、各部活の代表者に決闘大会のことを連絡した。
そして開かれた決闘大会でアヤカはその強さをノエルに示して魅了した。大会で一番を取ったことで、ノエルとの最初の交渉権も獲得した。
ノエルが生徒会に体験に来たときは、最大限のもてなしをして、生徒会の良い印象を与えようとした。その甲斐もあり、ノエルは生徒会に入ることが決定した。
ノエルが生徒会に入ると言ったとき、実は誰よりもアヤカが喜んでいたのだ。
こうしてアヤカはノエルとともに過ごす時間を確保することが出来た。そしてここからノエルの心を手に入れ、惚れさせる作戦が始まるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます