第4話 ノエルと部活動
授業の間の空き時間、ノエルの周りには人だかりが出来ていた。入学してしばらく経つが、それでもノエルの周りには常に人がいる。それもノエルと懇意になりたい女子生徒が主だった。ノエルはそんな女子生徒たちから質問責めに遭っていた。
「ねえねえ、ノエル君は部活に入ったりしないの?」
「部活かぁ。入りたいけど、まだ決められてないんだよね」
ノエルは高校に入ったのなら、部活に入りたいと思っていた。田舎にいたときは軟禁状態のため部活に入ることが出来なかったからだ。ノエルは部活動に憧れを抱いていた。仲間と切磋琢磨し、友情を育むことを夢見ているのだ。
しかしノエルは連日の決闘のせいで部活動の見学に行くことが出来ず、入りたい部活を決めかねていた。
「なら、私と同じ部活とかどうかな!」
「あ、ずるい! ノエル君、私の部活に入ってよ!」
ノエルの返答を聞いて一人の女子生徒が自分と同じ部活に入ることを提案した。しかし抜け駆けは許さないといった感じで、他の女子生徒もこぞって部活の勧誘をした。
そうしてノエルの周りで混乱が起き始めたあたりで、予鈴が鳴って次の授業が始まった。これにより女子生徒たちはノエルの周りから離れていき、混乱も収まった。
女子生徒たちが去って、やっと落ち着いたノエルは部活動のことを考え出した。
(部活かぁ。何部に入ろうかなぁ)
最近になってようやくノエルの強さが学園に知れ渡り、無闇矢鱈に決闘を申し込む人は減ったのだ。ノエルはようやく部活動の見学に行ける時間が確保できた。
授業が終わって放課後になると、ノエルは人が集まって来る前に教室を後にした。人をぞろぞろ連れて部活動を回っても迷惑になると考えたからだ。そしてこの日からノエルの部活動の訪問が始まった。
まずノエルはメジャーなところから見学をしていった。サッカーや野球といった人気な部活を回り、体験していった。
ノエルは球技、引いてはスポーツ全般が初心者だった。田舎にいた頃は体育程度でしかスポーツをしなかったからだ。しかし師匠との特訓のおかげで運動神経は良かった。そのためすぐにどの競技でも順応していった。
ノエルの上達ぶりを見た部活動の面々は、ノエルを即戦力として何としてでも部活に入れようとした。しかしノエルは少し体験するとすぐに他の部活のところへ向かってしまった。
メジャーなスポーツ系の部活を粗方巡ったノエルは、次に決闘クラブという、この学園ならではの部活を体験した。決闘クラブは個人の異能のさらなる修練と発展を目的とした部活だ。そこでは強さによって明確な順位付けがされており、異能での戦いの強さが全てなのだ。強ければ一年でもクラブの中で権力を持つことができる。とても実戦的なものなのだ。
決闘クラブはノエルの強さに目を付けており、他の部活よりも勧誘が激しかった。
「君の強さならすぐにも四天王になることができるよ!」
「もし入るか迷っているなら、決闘をしよう! それで決めようじゃないか!」
決闘クラブは、その名の通り、ノエルが入部するかどうかを決闘で決めようとした。しかしノエルは時間が惜しかったため、それを一旦断り、他の部活を回ることにした。それを聞いた決闘クラブの部員はしょんぼりとしていた。
次にノエルは文化系の部活を巡った。文芸部や放送部、そして比較的男子が多い料理部などを順番に体験していった。料理部にはルームメイトのヒロキが所属していた。
「やあ、ノエル君。よく来たねー」
「ヒロキ君! ここはどんな部活なの?」
「ここはねー、皆が好きに料理して、好き放題食べていい部活なんだー」
ヒロキはざっくりとした説明をした。ヒロキにとってここは料理をするところというより、料理を食べるとこだった。
ここの部員は、大柄で愛嬌があるヒロキが喜んで料理を食べてくれるのを楽しみにしているのだ。どんな料理でも美味しそうに食べてくれるヒロキの存在は、この部活の癒しとなっていた。
「ここは居心地がいいし、優しい人も多いからオススメの部活だよー」
「わかった! それじゃあ、またね!」
料理部での体験を終えたノエルが廊下に出ると、そこは大勢の女子生徒でごった返していた。
「ねえ、ノエル君! 次は私たちの部活に来ませんか!」
「どうかあたしたちの部活に入ってください!」
女子生徒たちはノエルが部活を体験して回っているという噂を聞きつけ、直接勧誘しに来たのだ。女子生徒たちの気迫はかなりのものだった。
それはノエルとの関係を持ちたいという執念から来るものだった。もしノエルが同じ部活に入ったら、ノエルと交流する時間が増えて仲良くなり、付き合えるかもしれないという下心が全員にあった。
そして群衆に飲まれたノエルは両方から腕を引っ張られたり、どさくさに紛れて体を触られたりした。ノエルは何とかその群衆から抜け出すと、走って逃げ出した。しかし勧誘に来た女子生徒たちも諦めが悪く、逃げるノエルを追いかけ出した。
逃げるノエルはいつまでも女子生徒を振り切れないでいた。そんなとき廊下の先で手招きしている人をノエルは見つけた。ノエルは一か八かに賭け、手招きしている人に従うことにした。
ノエルを手招きしている女子生徒は教室の中に入って行った。ノエルもそれに従いその教室に飛び込んだ。ノエルが飛び込むと扉は閉められた。そして扉の外では女子生徒たちがノエルを探して走って通り過ぎていった。
ノエルは走り回って荒くなった息を落ち着かせてから、助けてくれた人にお礼を言った。
「助けてくれて、ありがとうございます!」
「お礼には及ばないわ。困った天使ちゃんを助けるのは私の使命だからね」
「天使ちゃん?」
ノエルは目の前で背中を向けている女生徒に聞き返した。
「あら、鏡を見たことはないのかしら? それとも天使だという自覚がないのかしら?」
女生徒は長い黒髪を翻しながら振り返った。その女生徒の顔をみたノエルは助けてくれた人物が誰かを理解した。
「あ! 生徒会長!」
「知っていてくれて嬉しいわ。私はアヤカ・ハルゴマ、以後よろしくね」
ノエルを助けたのはこの夏暁学園の生徒会長であるアヤカという美少女だった。そして逃げ込んだ教室は生徒会室だったのだ。
「僕はノエル・ブランです!」
「ふふ、知っているわ」
ノエルの元気な自己紹介にアヤカは可愛らしさを感じた。そして母性本能を刺激されていた。
「ところで、どうして追われていたのかしら?」
「みんな部活の勧誘のために来ていたみたいです」
「そうなのね、大変だったでしょう。騒ぎが落ち着くまでここに居ていいわよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
そう言うとアヤカはノエルに座るように促し、お茶を淹れた。さらにはお菓子まで出してノエルをもてなした。
そしてアヤカとノエルは少しの間雑談をしながら騒動が落ち着くのを待った。
事態が落ち着いた頃合いで、ノエルは生徒会室を後にしようとした。
「また困ったことがあったら尋ねて来てね。それではご機嫌よう」
「ありがとうございました! 失礼しました!」
生徒会室を後にするノエルを、アヤカは気付かれないように舌舐めずりしながら見送った。
※
翌日になっても、各部活の女子生徒がノエルの元を訪れるのが止まなかった。毎時間女子生徒に詰め寄られたノエルは気疲れを起こしていた。
そんなときある放送が流れた。
「生徒会長のアヤカ・ハルゴマです。今日の昼休みに緊急の部活動の会議を行います。各部活の代表者は会議室Aに集まってください」
突然の放送に、ノエルの周りに集まっていた女子生徒たちは首を傾げた。そしてノエルの勧誘に来ていた部活動の主将などはアヤカに呼び出されたことで、一旦ノエルの周りから離れた。
人だかりが解消したことで、ノエルはやっと落ち着くことが出来た。
そして昼休みになり、各部活の代表者が会議室に集まった。全部活が集まったことを確認したアヤカは、堂々とした態度で話し始めた。
「今日集まってもらったのは他でもありません。ノエル・ブラン君についてです」
ノエルの名前が出たことで会議室はざわめいた。
「ノエル君にヒアリングしたところ、連日、強引な勧誘が続き参っているそうです。そのため部活動の勧誘を順番制にしようと考えています」
「その順番はどうやって決めるんですか?」
アヤカの提案に一人の女子生徒が質問をした。
「それはこの学園らしく決闘で決めましょう。それなら文句はないでしょう。トーナメント制で、一番になった部活から交渉権を得るというのはどうでしょう? 何か質問はありますか?」
アヤカは有無を言わせぬ鋭い眼光で代表者に確認をとった。代表者は特に質問などはないようだった。
「では後日、トーナメントを発表します。それまでノエル・ブラン君への勧誘は禁止とします。いいですね?」
「はい」
「ノエル・ブラン君への説明は私が請負ます。よろしいですね? よろしければ拍手を」
アヤカの提案に各部活の代表者は拍手で答えた。
「それでは会議を終わります」
そう言うとアヤカは長い黒髪を翻して、会議室を後にした。
※
部活動の会議が終わった数日後、ノエルはヒロキと一緒に闘技場に来ていた。今日は休日だが、闘技場は満員だった。皆今回の戦いに興味があるのだ。
ノエルとの交渉権を獲得するために、各部活から強者が集まっていた。そして部活動対抗の決闘大会が始まった。
大会は一戦目から混迷を極めていた。なんと優勝候補として注目されていた決闘クラブが初戦で負けてしまったのだ。
そんな決闘クラブに勝ったのは生徒会の代表者、アヤカ・ハルゴマだった。ノエルはアヤカの強さに驚いていた。自分より強い人は同年代にはいないと思っていたからだ。ノエルは、アヤカの強さを師匠であるユウトにも負けないと感じていた。
生徒会はそのまま勝ち上がっていき、ついに決勝戦になった。決勝戦は生徒会対剣道部となった。
両者が闘技場の中央に立ち、挨拶を交わすと、所定の位置に着いた。そしてお互いが能力を発動した。剣道部の代表の能力は侍のような甲冑を身に纏い、刀を顕現させるというものだった。
対してアヤカの能力は『女王騎士 クイーンナイト』という、西洋の鎧を纏い、大きなランスを顕現させるものだった。
決闘は一方的な展開だった。序盤は剣道部が勇猛果敢にアヤカを攻めていたが、それを全ていなされ、剣道部はスタミナ切れになってしまった。アヤカはそれを見逃さず、休む暇を与えずにランスで突き続けた。
強烈な突きの連続に剣道部側は鎧を剥がされていき、ついには首筋にランスを突き立てられた。そして剣道部は降参した。
会場内はアヤカの強さに熱狂していた。特等席で決闘を見ていたノエルもアヤカの強さに惹かれていた。
アヤカは闘技場から去る際にノエルを見つけ、ウィンクをした。
こうして部活動対抗の決闘大会は終わり、見事生徒会が最初の交渉権を獲得した。
※
決闘大会の翌日、アヤカに呼ばれたノエルは生徒会室に来ていた。ノエルが扉をノックして中に入ると、そこには前回いなかった他の生徒会のメンバーも来ていた。
「ノエル・ブランです! 本日はよろしくお願いします!」
「よく来てくれたわね、ノエル君! さあ、こちらに掛けてちょうだい」
アヤカはノエルを歓迎し、椅子に座るように促した。椅子はふかふかで、目の前にはお茶とお菓子が用意され、至れり尽くせりだった。
そしてノエルが椅子に座ったところで、前回いなかった二人が自己紹介をし始めた。
「私はセイコ・イヅミ! 生徒会の副会長なの! よろしくね!」
セイコと名乗った女子生徒は黒髪のボブで、活発な印象がある人物だった。
「あたしはマコモ・シンリョウ。会計やってる。よろしく」
マコモは亜麻色の髪をウルフカットにしていた。そしてなによりその身長の高さと胸の大きさに目が行く。
「今はこの三人で生徒会をしているの。二人とも優秀で頼りになるのよ」
自己紹介が終わったところで、アヤカは生徒会の活動をノエルに説明し出した。行事ごとの役割や、普段の活動内容などを丁寧にノエルに説明した。
説明を受けたノエルは興味津々といった感じで質問をした。ノエルの質問にアヤカたちは丁寧に答えた。そうこうしている内に帰る時間になった。
「今日はありがとうございました!」
「こちらこそありがとうね。是非良い返事を期待しているわ」
生徒会の勧誘が終わったノエルは、挨拶をして生徒会室を後にした。
そして次の日からノエルは、剣道部や他の部活の勧誘を受けて、全ての部活の勧誘が終了した。勧誘を受けてノエルは一つの答えを出した。
勧誘期間が終わったノエルは扉をノックし、生徒会室に入った。そこにはアヤカたちが待っていた。
「僕、生徒会に入りたいです!」
「歓迎するわ! ようこそ生徒会へ!」
ノエルの意思を聞いたアヤカ以外の生徒会のメンバーは非常に喜んだ。少しぶっきらぼうな対応だったマコモも跳ねて喜ぶほどだった。
ノエルが生徒会に入りたいと思った理由は、学校行事に積極的に参加したく、またみんなのために力になりたいという奉仕の精神があったからだ。
こうしてノエルは生徒会の一員となった。
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