死神の時計

@kurosaki_novel

失われた時間

タイトル:失われた時間


彼女は毎日同じ場所に座っている。古びたベンチの上で、汚れた靴を見下ろしながら、人々の行き交う姿を眺めていた。彼女に起きた過去の出来事は心に深い傷を残し、孤独の中に閉じ込めた。


陽の当たらない公園の片隅で、1秒でも早く1日が過ぎるのを待っている。

そんな彼女の座るベンチの周りに集まるのは、鋭く冷たい視線だけ。

公園の片隅は、時計の針が止まった薄暗いモノクロの世界のように見えた。


ゆっくりとベンチに近づき、彼女の隣に座る。

ちらっとこちらを一瞥し、少し驚いた表情を見せたあと、また同じように地面を見下ろした。


重苦しく俯く彼女に、静かでいて確かな声で話しかける。

「寿命を売らないか」

彼女はゆっくりと振り返り、先ほどよりも少し驚いたような表情で見つめ返してきた。

不安と困惑が入り混じった瞳を見つめながら、話を続ける。

「残りの寿命を私に売らないか。もし返してほしくなっても、売った金額と同じ値段で買い戻すことが出来る。」


彼女は少し考えたような表情をし、小さな声で呟いた。

「他人の寿命を買いたい。私を傷つけた人の寿命を。」

彼女の強い意志を感じ、条件の説明を加える。

「他人の寿命を買うには、倍の金額が必要になる。」

それだけ伝えると彼女は納得し、再び会うことだけ約束した。


そして、彼女は働き始めた。

プライベートの時間を省みず、仕事に没頭する毎日。お金を稼ぎ、少しずつ人々との交流も増えていった。彼女が歩くたびに、街の雑踏が彼女を包み込み、新しい世界が彼女の前に広がった。


彼女の人生は徐々に変わり始める。

暗かった表情は明るくなり、彼女に笑顔が増えていった。働くことに喜びを感じ充実した日々を過ごすようになった彼女は、とても輝いて見えた。


そして、約束の時が訪れる。

幸福な日々を過ごしていた彼女は、私の前に立ちハッキリとした声で告げた。

私は彼女の要求を受け入れる。

終わったことを伝えると、彼女は私に着いてくると言った。私にはこの後確認することがある。

彼女も結末を見たいのだろう。


目的の場所に着くと、男性が一人で佇んでいた。

目の前には女性と子供が倒れている。

おそらく妻と娘だろう。

状況を確認すると、彼女はその場を後にした。

街を歩く彼女の横顔に笑顔はなかった。


彼女は新しい人生を歩み始める。

そして、古びたベンチには男性が重苦しく俯いていた。


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