明日、冷蔵庫を買いに行きます

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明日、冷蔵庫を買いに行きます

 物語を作る者は皆、憑かれているか憑いているかのどちらかだと思う。

 実在の人や物かもしれないが、多くの場合、自分の精神世界で創造した人や物に憑かれ、そして憑き、物語を紡ぐのだと思う。

 要するに、物書きは皆、変人だ。


 隙あらば妄想にふけ、他愛もない文章の言葉選びが気になり、憑き憑かれる対象が転がっていないかと血眼になる、そんな変人ぶりをひた隠しにして、日常生活を生きるのだ。

 中には「小説を書いている」と周囲にオープンにしている者もいるが、そうなるともう、変態の域だと思う。

 これらの変人は、物語を紡ぐのを止めると、途端に生き物として弱り、小さくなり、物語を紡がない生き方に適応できない場合は何かしらの異常を来す場合もある、らしい。

 私の場合、転職することとなる。

 職務経歴書上は、ライフイベントとちょっとした病気とブラック企業事情が転職の理由となっているのだが、実際は「仕事が忙しすぎて執筆の時間が確保できず、精神の危険を察知したため」の方が勝る。

 要するに、書いていないと病む。


 一年半ほど前に転職した先で、ようやく年相応な年収を得られるようになった。そして先日、冷蔵庫が壊れた。

 Twitterでつながっている物書き仲間が対処法を教えてくれて実践したものの、十五年以上働いた冷蔵庫の寿命だったようで、冷凍室で私のアイスクリームは液体化した。

 たぷたぷと揺れる液体が入っているカップを手に冷蔵庫を買わなくてはと思った私に、出費に関する痛みの感覚がほとんどないことに、自分で驚いた。

 ――冷蔵庫を今すぐ買えるのか自分、へえ。

 大変なことも腹が立つことも多いけれど、転職はしばらく先にしたいとも思った。


 転職をしばらくしないために、「書く」という行為を維持しなくてはならない。次の長編はまだプロット段階なので、ひとまず私という物語でも書くしかない。

 ここは、そんなエッセイのような物の、置き場にしようと思う。

 練った話ではないので、読んでも読まなくても良いことも悪いことも起きない、そんな場所である。




 さて、物語を作る者を変人呼ばわりしたついでだ、読み手は果たしてどうだろう。

 諸君等は中島敦の「狐憑き」という小説をご存じだろうか。いや、角川文庫の回し者ではないので、知らなくても全く構わない。

 私はこう思う。主人公のシャクという男は私たち物書きだ、そして最後にむしゃむしゃとやっているのは読み手諸君等だ。変人が紡いだ物語が、わずかでも、諸君等の「何か」になるのならば幸いだ。

「何か」になったというPVだとかの痕跡はまた、私たち変人の糧となる。


2024年2月11日

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