第164話【閑話】妖魔バイアル2
俺は妖魔バイアル。新たなる妖魔王となる者。
俺は現在、妖魔王の座を争うライバルである、呪霊王ドスバレルに契約させられた仕事をこなす為に、ラディエンス王国という魔石無し共の国に来ている。
元妖魔王のディスロヴァスの自滅によって、歴史の長いこの国の王族は壊滅状態。それにより民の心は不安定。ドスバレルの奴の呪いの発動条件に都合が良いらしい……はずだったのだが、最近この国の情勢は落ち着いてきているらしい。原因は共和派と呼ばれる貴族達が、臨時の共和政治を行い、安定させているからだ。
東候と呼ばれるラックス侯爵家。共和派貴族の筆頭であり、国の東の守護者として歴史が長く、王家の血も流れている言う。
このラックス侯爵家をかき乱しながら、その侯爵家の令嬢を攫う計画だ。歴史が長く王家の血も流れている貴族令嬢は、ドスバレルの奴の呪いの触媒に有効らしい。
ラックス侯爵家ばかり狙うと敵戦力が集中してしまう為、他の共和派と呼ばれる派閥の貴族にも魔物を使役してかき乱している。
全く……ここまで配慮するなんて面倒だ。単純に暴れ回った方が簡単だぜ。
だが、ドスバレルの固有能力『呪契約』で協力を契約させられちまってるからな。
ああいう固有能力は、持ち主の認識による影響が大きい。俺流に暴れた結果、ドスバレルの価値観で契約違反と判定されてしまったら、呪いが発動してアンデットにされちまう。
癪だが、ドスバレルの望む形になる様に動かざるを得ない。
聖教国のディスロヴァスの拠点に有った、大量の祝福持ちの体。それ等から俺の固有能力で取り込んだ祝福の中には『状態異常耐性』の権能を持つ者も居た。
しかし、俺の固有能力で奪った能力の同時使用には制限が有るのだ。状態異常耐性を発動させたままだと、他の奪った能力が使えねぇ。
契約違反の称号の効果による状態異常は防げても、称号が付く事を防いだり、解除したりは出来ないからな。
契約違反の称号が付いたまま状態異常耐性を解除したら、途端にアンデッド化しちまう。
俺が妖魔王になれば、おそらくそういう問題も解決するのだろうがな。
妖魔王の称号を得た場合、称号の効果により大幅なステータス補正と固有能力等が強化されるらしい。
他人の能力や祝福を取り込む俺の固有能力。
妖魔王となった暁には、固有能力の強化により、同時使用の制限が無くなるという予感がするぜ。
そうなれば世界は俺のモノ。勇者アレンであろうとも、新たなる妖魔王の俺の相手にはなるまい。
暗い地下室の中で考えに耽っていると、足音が聞こえ、やがて静かに魔石無しの男が部屋に入って来る。
「ルアイバ殿。お待たせした。栄光あるラディエンス王家の為――」
「ケチチチチ。俺は忙しいんだ。挨拶は良い。とっとと始めようか」
「う、うむ。そうだな」
この国のディスロヴァスの拠点を調べた結果、王家の特殊暗部の証やら各貴族家に潜ませている王室派の間者のリスト等が見つかったので利用している。
俺は今、ラディエンス王国の王直属の暗部の者として、ラックス侯爵家に王(ディスロヴァスの憑依体)が忍ばせていた王室派の男と接触している。
ルアイバは俺の偽名。逆さ読み。安直とか言うなよ。
「ルアイバ殿に件の使節団を壊滅し続けて頂いた事により、遂にラックス侯爵家はマリアンローズ令嬢を直接ラトリース伯爵領に派遣する事を決めた」
「ケチチチチ。ようやくか」
武門の貴族家らしく、使節団が続けて壊滅させられていると知って逆に大事な娘を使者に送るとは、魔石無しにしては良い根性だぜ。
だが、それこそが俺の狙い。その娘は俺が攫うのだがな。
そう考えていると、相手の魔石無しが俺をじっと見ていた。
「なんだ?」
「そ、その……ルアイバ殿は本当に王家の暗部の者なのか? 協力して貰っている暗部の者達に、ルアイバ殿の事を知っている者が一人も居ないのだが……」
「証は見せただろう? 俺の存在を知っていたのは亡き陛下と殿下のみ。俺は特別な存在なんだ。他の暗部の者が知らないのは当然の事」
「そ、そうか。う、うむ……それと……」
「俺の言動が王直属らしく無いって言いたいのか? 逆だろ? それっぽく無いからだよ。いかにも暗部の人間らしく無いだろ? 暗部の人間ではないかと疑われる時点で二流だぜ」
「な、なるほど」
知らんけどな。
「そ、そうだな。ルアイバ殿がこれまでどれだけ王室派の為に働いてくれたか……。疑ってすまない」
「そんな事より話を進めるぜ。令嬢の護衛団の戦力は?」
「当然これまでとは違い、かなり強力なものだ。まず執事のブラストに最近護衛隊長に抜擢された元Aランク冒険者のビショット。二人共凄まじい強者だ。更にメイドや御者までが、メイド経験が有る女騎士に御者が出来る騎士が担当する。それに上位騎士や従士が相当数。これ等が下級騎士や一般兵士の格好で護衛にあたる。ただ、今回は私と私の手勢も参加する」
「ケチチチチ。一見弱そうな格好をするあたり、誘ってやがるな」
「ああ。だが、憎き共和派の狙いを挫く為、この程度で引く訳にはいかない。間者の存在には気付いているが、私には辿り着いていない様だしな」
「待ち伏せする暗部はどれ程集められる?」
「十八名だ」
「十分だ。俺がまず一番強いビショットとやらを相手する。お前等はそれ以外の奴等を相手してな」
流石に俺一人で襲うとなると厳しい戦力だが、こいつ等が時間を稼いでいる間に各個撃破すれば問題は無いな。
「なんだと!? ビショットは、あのブラストよりも強いと言うのか!?」
「ケチチチチ。アイツはあれで実力隠してやがるぜ。まあ、俺の相手じゃねえよ」
鑑定で調べた結果、アイツは……まあ、それはここでは言うまい。
それを言えば、この魔石無しはビビって襲撃を中止しかねないからな。
マップ及びマップの権能のマーキングにより分かったのだが、勇者アレンがこの国に来てやがるからな。例のエルフも一緒だ。あのエルフの祝福によって導かれてきやがったか?
まだ国の西側に居る上に、俺が共和派攪乱の為に使役した魔物達に突っかかってやがるな。すぐにはここには来る事は無いが、無駄に時間はかけていられない。
今回の襲撃で決めるぜ。
「我等でブラストを相手か……」
「倒せとは言わねぇよ。俺がビショットとやらを倒すまで時間を稼げばいい。長くは待たせねぇよ。頑張んな」
お前等も、それなりに数を減らしてくれねぇとな。
今回の令嬢襲撃によって令嬢を攫えば、お前等は用済みだ。一緒に始末してやるぜ。
「そうだ。間者の炙り出しの一環なのだろうが、ラックス冒険者ギルドに戦力募集を出したみたいでな。急だが、もう一人、冒険者の護衛を雇ったんだ」
「何? それを先に言え。調べる必要が有るな。そいつはどんな奴なんだ?」
飄々とした言動と直接戦闘を好む性格から誤解されがちだが、俺はこう見えて慎重で冷静なんだ。
鑑定やマップと言った能力まで獲得したしな。そういった有用な能力を獲得しながら、事前の調査を怠る様な真似はしない。
「冒険者とは思えないような凄い美少女だ。私は冒険者に詳しくは無いのだが、最近名を上げつつある冒険者らしくてな」
ん?
ラックス領の冒険者で美少女で最近それなりに有名……。
「令嬢の側仕えとして護衛に当たる事になった。その娘の名前は――」
「――みなまで言わなくても良い。その女の事なら調査済みだ。俺の相手では無い」
「おお! あの娘が相手にならぬとは頼もしい! 既に冒険者に関しても調査済みとはな」
「ケチチチチ。俺に抜かりは無いぜ」
最近話題のラックス冒険者ギルドの美少女冒険者クリスティーナ(本名はイネだった)の事なら、しっかりと鑑定済みだ。
魔石無しの美醜感覚はよく分からんが、あの程度のステータスなら俺の脅威になり得ないぜ。
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