第163話 マリアンローズ令嬢
「そうか。最近ヴェダダンジョン踏破者が新たに現れたと聞いたばかりだったが、ルーノの事であったか」
「はい」
「それなら魔物殲滅能力に関しては問題は無いな」
「単純な強さならそれなりかと。ただ、斥候とか特殊な事は出来ません」
「ふむ」
高いPERによる感知能力は有るけど、斥候偵察なんかの知識は無いんだよね。
「私は先行部隊に入って、進行方向に居る魔物を殲滅して露払いをする――という形になるのでしょうか?」
「うむ。上の意向もあるのでな。おそらくは……」
そう言ったビショット隊長が私の後方へ視線を向けたので、私もその視線の先を見ると、ブラスト氏がこちらに歩いて来ていた。
「ビショット殿。ルーノを借りるぞ」
「承知した」
「ルーノ。付いてきなさい」
「え? あ、はい」
颯爽と歩きだすブラスト氏に慌てて付いて行く。
平民の都合なんて関係ない感が、ここがやはり貴族世界であるのを感じる。
うん、私は平民と思われてるはず。
何処に連れていかれるんだろう?
ブラスト氏に付いて、城の中へ入る。
中は正に中世のお城といった感じ。
その事にテンションが上がる――よりも緊張感が半端なく上がる。
いや、これから何をするのですかね? 鑑定ですか?
ビクビクしながらブラスト氏に付いて行く事しばらく、豪華な扉の前に到着する。
「お嬢様。ブラストにございます。例の娘をお連れしました」
「入りなさい」
お嬢様!?
貴族じゃん!
貴族に会うとか先に言えよ!
ブラスト氏も貴族かもしれないけど。
メイドが豪華な扉を開け、ブラスト氏は一礼して颯爽と中へ。
私も取り敢えずお辞儀的な礼をして、ブラスト氏に続く。カーテシーとかこういう時に使うのかも、やり方も分からん。
部屋の中は流石に豪華な女性貴族の部屋なのだろう。緊張しててあんま頭に入らないけど。部屋の中央やや奥に豪華なソファが有って、そのソファに十五歳くらいの明らかに貴族のお嬢様が座って私を見ている。
この人が今回の護衛対象のマリアンローズ嬢かな。
金髪碧眼で丁寧に編み込んだ長い髪。上品な服。流石にこの世界基準では中々の美少女だ。
「へぇ。確かに……想像以上ね」
そのお嬢様が私を見て一言。
何がですかね?
「お嬢様。こちらがCランク冒険者のルーノです。ルーノ、お嬢様に挨拶を」
「は、初にお目にかかります。Cランク冒険者のルーノと申します。こ、この度はマリアンローズ様にお目にかかれて光栄に存じます。平民にて礼儀作法に不備がございます事、あらかじめお詫び申し上げます」
「……平民ね。まあ、そういう事にしておいてあげるわ。冒険者相手に礼儀は求めないわ。そう畏まらなくて良いわよ」
歴史の長い国の上位貴族令嬢の割に、案外、砕けた事を言ってくれるお嬢様。
迷宮都市ヴェダの冒険者ギルドマスタのゴーガッツから聞いていた事だけど、魔物と言う脅威から領民を守る責務を負うこの世界の貴族は、私がイメージしていた貴族よりも腐ってはいないらしい。
前世のイメージだと歴史が長いとその分、貴族が腐敗してそうな印象だけどね。魔物と言う脅威が有るこの世界で歴史の長い国と言う事は、逆に貴族がしっかりしていると言えるのかもしれない。
関係が有るのか分からないけど、こういう貴族との面会って、貴族が地位の低い者を呼びつけ、待たせるのが普通だと思ってたけど、即面会だもんね。
それだけに緊張する。
しっかりした貴族故に、しっかり鑑定されて悪魔とバレたらヤバい。
急死した国王の方針でこの国の鑑定の魔道具は王家が徴収したらしいけど、しっかりした貴族なら予備とか隠してそうだ。
実際にマリアンローズ嬢は、じっと私を観察し何か思案している様に見える。
そして思案顔だったマリアンローズ嬢は、しばらくして私からブラスト氏に視線を移して言う。
「この見目なら良いわ」
「畏まりました」
ん?
更にマリアンローズ嬢は、側に控えている同じ年代の侍女に言う。
「ティアナ。出発までに作法を教えておいてね」
「畏まりました。手配致します」
んん?
そしてマリアンローズ嬢は、私に向けて言う。
「ラトリースまでの側仕えを許すわ。期待してるわよ。ルーノ」
「こ、光栄です」
んんん?
貴族の命令に対してノーは無いので即答したけど……側仕え? マリアンローズ嬢の?
私、何処の馬の骨とも知れない冒険者だよ?
もっとしっかり調べなくて良いの?
いや、しっかり調べられたら困るんだけどさ。
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