第161話 護衛隊長と面談
ラックス侯爵家令嬢マリアンローズ嬢の忠実なる執事を名乗るブラスト氏に、領主の城へと連れていかれる。
もし鑑定されそうになったら、強行突破で逃げるしか無いな。
別に誰か殺したり何か盗んだりとかする訳ではないし、隣の隣の国くらいまで逃げれば流石に追っては来ないだろう。多分。
赤い煉瓦の街並みに合わせて、城も全体的に赤い。派手な赤さではなく煉瓦の暖色系の赤さだ。
この赤い煉瓦の統一感は、前世でも良い観光地になりそうだな。
そんな事を考えながらブラスト氏に付いていく。城内には入らずに敷地内の錬兵所の様な訓練施設に到着した。
「ブラスト殿、何用か?」
「ビショット殿、この冒険者をお嬢様のラトリース行きに同行させたいと思う」
「ほう……後ろの娘か」
「私の威圧を涼風の様に受け流して見せた」
「ほう」
ブラスト氏が一人の男と会話する。そしてビショットと呼ばれた男が私をじっと見る。
会話内容からすると、ビショット氏はここの責任者らしいが……。
……えっと……ビショットさん……見た目が……。
赤魔導士の格好をした北斗のケン〇ロウ?
赤い羽根帽子に赤を基調とした耽美なコート。
それでいて溢れんばかりの筋肉が凄い。
精悍な顔つき、そして鋭い眼光。
更に体全体から闘気の様なオーラが漂っている。
滅茶苦茶強そうだ。
「……見えるか」
「え?」
「ほう、魔力視持ちか」
「うむ」
……あ。
なるほど、闘気の様に見えたのは魔力か。
そして私の視線で私が魔力を見ている事に気が付いたわけね。
私は『魔力視』というスキルを持っている訳では無いのだが……。高いPERで見えてるだけだ。
闘気に見えるのはなんのスキルだろう?
「冒険者なら能力の秘匿の重要さは知っていると思う。他言は無用だ」
「あ、はい。絶対他言しません」
「貴女も能力を隠したいのなら、視線に気を付ける事だ」
「は、はいっ」
侯爵家の人間の情報を漏らすとか怖くて出来ない。
むしろ、知ってしまった私が消されるとかないよね?
「ビショット殿、後は任せる。私は色々準備が有るのでな」
「承知した」
そう言うと、ブラスト氏は颯爽と立ち去って行った。
……いや、仕事内容をまだ詳しく聞いてないんですが……。
「俺はビショット。元Aランク冒険者だ。今回の任務の護衛隊長を任されている」
「あ、ルーノと申します。Cランク冒険者です」
「詳しい事は聞いておらぬと見える。任務の事を説明しよう」
「お願いします」
私のオロオロした様子を見て察してくれたようだ。出来るなこの男。
ビショット隊長から任務の事を聞く。
三日後にこのラックス侯爵家の御令嬢であるマリアンローズ嬢が、同派閥のラトリース伯爵の領都ラトリースへ領主代行として向かうので、その護衛任務である。
このラディエンス王国は、冬に入る前の頃に国王と跡継ぎの王太子が同時に変死して混乱状態だったけど、現在は有力貴族中心の共和体制になっている。
それで一時は落ち着いたものの、王族の中から新しい国王を即位させるべきだと主張する派閥と、このまま共和制で継続したい派閥で分かれてるらしい。
表立って武力衝突には至っていないが、使者や王都駐留員の暗殺や盗賊に見せかけた襲撃等の、水面下での戦いはかなり激しくなっているそうだ。
「ここ最近の消耗によって護衛戦力が不足してきてるが故、冒険者の手を借りる状況なのだ」
「分かりました。ただ、私はソロ冒険者でして、護衛任務を行った経験が無いのですが、よろしいのでしょうか?」
「冒険者だけで護衛する訳ではない。護衛は騎士や従士に任せ、冒険者達は魔物や襲撃者の駆逐に専念するという役割分担でも良い」
「分かりました。目の前の敵を駆逐するだけなら出来そうです」
「戦力は把握しておきたい。ルーノ、貴女は魔法使いか?」
「いえ、魔法は生活魔法しか使えません。技量も有りませんが身体能力を活かして物理で殴るタイプです」
「……ふむ」
ビショット隊長は私をじっと見た後、思案している。
見た目に反してるのは自覚してますよ。
というか、戦闘技能系のスキルを何も持っていない私の立ち振る舞いはド素人なので、ビショット隊長も私が本当に強いのか、にわかに信じられないと言う所かな。
「隠したい事も有るだろうが、ある程度どの様に戦うのかも把握しておかねばならん。付いてこい」
「はい」
ビショット隊長に付いていく事しばらく、何人かが模擬戦をしている場所に着いた。
「エリック、この娘と立ち合ってくれ」
「はっ! 分かりました」
「ルーノ、ブラスト殿の威圧を受け流せるのであれば、その力はBランク以上は有るであろう? エリックはレベル三十八。冒険者であればBランクの上位と言った所だが、対人戦に限ればAランク冒険者相手も可能だ」
わお。レベルという数値で言われたの初めてだ。部外者に教えて良いの?
エリックさんは三十過ぎの実直そうな細目角顔の男で、ベテランの雰囲気だ。
侯爵家の城の中の兵士とあれば、鑑定の魔道具でレベルとか把握してるんだろうな。
うわー、心配だ。
鑑定の魔道具が出て来るのが怖い。
そうなったら逃げるとして、取り敢えず立ち合いはやるしかないね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます