第102話 聖教国の勇者と聖女

 壮絶に不審な者を見る目で見られる。


 そりゃそうだ。魔物が闊歩するダンジョンに、およそ戦闘する格好でない少女が手ぶらで一人で居る。ハッキリ言って異常である。


 どうしよう?

 とりあえず、やり過ごせないか試してみよう。


「下に行くのですか? どうぞどうぞ。お通り下さい。私は地上に戻りますので~」

「待ってくれ。話を聞きたい」


 金髪男性に道を塞がれ、問いかけられる。

 デスヨネー。


「な、なんでしょう?」

「君は何者だ? ここで何をしてたんだ?」

「……えっと。あなた方は冒険者ですよね? お互い詮索は無しでお願いします」


 ダンジョン内では、冒険者同士は基本的に不干渉という不文律がある。

 ダンジョン内は無法地帯。知らないパーティー同士で不用意に近寄ったり、断りなく戦闘に参加するのはマナー違反だと聞いてる。


「我々は冒険者では無い。元はSランク冒険者だったがな。私は聖教国ルジアーナ認定勇者のシルヴィナスという」

「ゆ、勇者……様ですか!?」


 勇者ですと!?

 しかも元Sランク冒険者?

 勇者と言えばイケメン青年というイメージだったけど、目の前の勇者は歴戦の傭兵といった雰囲気だ。三十は越えてるだろうし。

 でもそうか……国に認められる程に実績を積んだ人が、勇者に認定されるのだろうから若い訳が無いか。


 しかし、何故勇者が来てるんだ?

 ま、まさか……私が聖剣を手に入れた事を知って?

 神託ってそういう事か!?

 来るのはえーよ!

 

「同じく聖教国ルジアーナ認定聖女のミーシアよ」

「ええ!?」


 聖女まで……。

 たしかに服装は聖女っぽいな。

 ただ、こちらも癒し系美少女という私の思い描いていた聖女のイメージと違い、堀の深い凛々しい顔立ちの女性だ。聖女と言うより女騎士的な印象だ。


 私が聖杖レイチェルを手に入れた事を知って来たのか?

 来るのはえーよ!


 そして他のメンバーもそれぞれ鬼人の戦士はルド、ロンゲエルフはユリウス、ウサ耳弓士はキャロードと名乗った。


「……ええと……私はルーノと言います」


 あんまり名乗りたくは無かったけど……相手が名乗った以上こちらも名乗らないと失礼だよね。


「ルーノ。我々は聖教国ルジアーナの教皇アドルフ様からの依頼で調査に来た。勇者の名の元に君に協力を要請する」


 勇者シルヴィナスが威風堂々と言った。

 これ、実質拒否権無いヤツですかね?


「君は何者だ?」

「えっと……一応冒険者です」

「ランクは?」

「……Gです」

「「「「「…………」」」」」


 視線が痛い。

 そうですよね~。Gランクってアルバイトみたいなもので、ぶっちゃけ冒険者を名乗れる程じゃないし。


「武器も持っていない様だが、君はどのようにして戦っているのだ? いや、戦わずにここまで来れる何かがあるのか?」

「…………えーと、すみません。それって調査に関係するのでしょうか?」

「ちょっと、シル。ただの尋問になってるわよ。私が話すわ」


 勇者に代わり、聖女が前に出てくる。


「私達はね、このダンジョンでスタンピード――魔物達の氾濫の予兆が無いかを調べに来たの」

「スタンピード!?」

「おい、ミーシア」

「良いの。まず何に関する情報が欲しいのか伝えてあげないと。ルーノ、あなたは私達より前にこのダンジョンに来ていた。何か不審な事は無かった?」


 スタンピードに関する不審な事……思いっきり心当たりが有る……。

 やはりあのボス部屋の魔法陣が、スタンピードを起こす為の物だったとしか思えない。魔法陣が消えるまでダンジョン内、魔物うじゃうじゃ居たし。

 聖剣と聖杖を嗅ぎつけた訳では無かったのか。

 

「どうやら何か知ってるようだな」

「あ~……その……」

「何でもいいわ。気になった事を教えて」


 顔に出てしまったか……。


 うーん、別に隠す事では無いか。

 むしろ、意図的にスタンピードを起こすなんて事案、勇者に知って貰って対応して貰った方が良いだろう。というか、是非押し付けたい。

 でもそれを説明するには、私が魔物の溢れるこのダンジョンを一人で最下層に行った事も説明する事になるしなぁ。

 どうもこの勇者は私をかなり不審に思ってるぽい。無理も無いとは思うけど。

 勇者権限で連行されて調べられて、悪魔だと判明したら終わりだ。

 街に連れていかれて悪魔とバレる位なら……まだここでバトルした方がマシだな。

 といっても、出来る事なら戦いたくはない。

 

 苦手だけど、頑張って交渉してみますか。


「……分かりました。心当たりは有ります。調査に有力な情報を提供出来ると思います」

「本当!?」

「そうか! 是非教えてくれ!」

「ただし、スタンピードに関係しない、私に関する事は詮索無しでお願いします」

「……何故、そこまで詮索されたくないのだ?」

「私の戦い方だとかそういう事を言わないだけで、スタンピードに関して心当たりある事は全部話しますよ」


 端から見て、私が怪しい存在なのはもう仕方がない。

 だから情報と引き換えに、勇者から私に関して詮索しないという言質が取れれば御の字である。

 とはいえ、やっぱこんな事を言い出せば更に怪しいよね。


「シル。まずは話を聞きましょう?」

「……ふむ。分かった。ただしスタンピードに関係すると判断したら答えて貰うぞ」


 とりあえずは、正直にスタンピードに関する事を話すか。

 後はこの人達の反応次第だな。

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