第87話 悪魔対妖魔
「こんばんは~」
仮定、吸血鬼の女性にゆっくりと歩いて近づき、話しかける。
彼女は私の方を一瞥すると、すぐに興味を無くしたように本に視線を戻す。
うーん、無視ですか……。
洞窟の方からは特に何者かが居るような気配を感じない。
やっぱダンジョンの入り口で合ってるのかな。
「そこ、ダンジョンの入り口ですかね? 通って良いですか?」
入り口を塞いでる彼女に再び問いかける。
すると、ようやく彼女は顔をこちらに向けて言葉を口にした。
「このダンジョンの中には餌となる人間は居ないわよ。見逃してあげるから消えなさい」
「え?」
彼女は再び、興味を無くしたように本に視線を戻す。
……?
え? どういう意味?
うーん、私には上手く情報を引き出す話術も無いし、相手が勝手に説明セリフを語り出すようなご都合主義補正も持っていない。
ただ『餌となる人間』とか言ってる時点で、やはり碌な存在じゃ無さそうだ。せっかくここまで来たけど危険そうだし撤退するか?
「目の色の薄さから下級……しかも若い個体のようね。まだ私が何者か分からないの? 私はサキュバスよ。魔石無しのコウモリ女如きに時間を割いてられないの。さっさと消えなさい」
――と、思ったら説明セリフキター!
しかもサキュバスだって?
私の知る限りでは、サキュバスは淫魔と呼ばれる悪魔の一種だったはず。
そう、悪魔だ。
私と同じ悪魔だ。
いや、私はサキュバスでは無いけどね……無いよね? 髪の色はピンクだけど無いよね?
この人は私以外の、この世界オリジナルの悪魔なのか!?
「ということはあなたは悪魔ですか!?」
「……………………何?」
「サキュバスって確か悪魔の一種でしたよね?」
「……………………あ?」
彼女はゆらりと椅子から立ち上がり私を睨む。
その表情は……怒りに満ちているように見えた。
あ、あれ?
な……なんか、どちゃくそ怒ってない?
え? ええ? なに? なんで?
彼女は無言で椅子に立て掛けてあった、先端に赤い宝石が嵌め込んである杖を手に取る。
そして杖の先端に――魔力が集まってる?
その魔力が私に向けて収束されていく――そう思った次の瞬間、目の前が真っ赤になる。
――熱っ!
どうやら炎に包まれてるようだ。熱くて飛び下がる。
「熱っ! あっつぅぅうう!」
炎の中から脱出すると、目の前には直径数メートル、高さ数十メートルはありそうな巨大な火柱が見える。
久しぶりの痛み。凄まじい熱で、着ていた魔装服は消失してしまった。なんて火力だ。
「……何? 直撃したはずなのに、この炎で燃え尽きていないだと? 何のカラクリだ?」
私を包んでいた炎の火柱が消えると、その消えた先に女性――サキュバスが驚いた顔をしていた。
「いきなり何をするんですかっ!?」
「……ふん。魔石無しとはいえ、夜の吸血鬼は殺すのが面倒故に見逃してやると言ったつもりだったが、私が弱気だと勘違いしたか?」
「いや、私は吸血鬼じゃないですよ! あなたと同じ悪魔ですよ!」
「――っ! まだ侮辱するかぁあああ!」
――!
魔力の流れを察知し横っ飛び。
先程自分が居た場所に立ち上がる火柱。余熱がここまで届く。
「――あぐっ!」
避けた先で地面に叩きつけられ、頭を上から押さえ付けられる。
回避行動を予測され、サキュバスに頭を地面に叩きつけられた様だ。
「死ねぇえ!」
その言葉と共に、背中に尖った物が突き付けられた。
――カンっ。
痛くは無い。刺さって無いから。
「……は?」
何やら抜けた声を出すサキュバス。その隙に、私の頭を押さえ付けてる腕を掴み――握力でグシャッと。
「ぐあっ! ああああああ!」
さっと起き上がり、潰された腕を押さえてるサキュバスを蹴飛ばそうと蹴りを放つが、避けられる。
むむ、手強いな。
私から距離を取ったサキュバスは潰れた腕を上にかざす。
すると潰れた腕が魔力の粒子状となり、粒子状のまま元の腕の形を形成し、そして再び粒子状から元の肉体としての腕に戻った。
へー。
サキュバスってそうやって再生するんだ。
ちらりと彼女の頭に目を向ける。
先程の接近戦でサキュバスの帽子が取れていた。
彼女の頭には角――ヤギの様な捻じれた角が二本生えていた。
尻尾や羽根も有るのかな? 私よりよっぽど悪魔ぽくね?
「……貴様。吸血鬼では無いと言っていたな。では何者だ?」
「はい? 悪魔だって言ってるじゃないですか? サキュバスは悪魔じゃないんですか?」
「おのれぇ……まだそうやって侮辱するか?」
「いきなり『侮辱するな』とか言いながら攻撃してくる、そちらの方が訳分かんないんですけどっ!」
「……悪魔と呼ばれた、魔石無しの魔人族はもう絶滅した人種だ」
……………………え?
……絶滅してるの?
悪魔が?
魔人族とは?
この世に悪魔は私一人?
「それなのに頭の悪い魔石無し共は、時に負け犬の悪魔なんぞと我等を混同する! 悪魔呼ばわりすると言う事は……我等、妖魔にとって――最大級の侮辱と知れ!」
――っとぉ!
突き出されたサキュバスの拳を避ける。
――先が尖ってる?
指先の爪が短剣の様になっていた。先程の背中への攻撃もこれか。
相手の動きは見える。今までの戦ってきた相手の中では断トツで早いが、それでもスピードは私には遠く及ばない。ステータス的には私が圧倒的に勝っているらしい。
だけど……。
「わ、わ、わ――うぇっ!」
技量では圧倒的に負けている。
動きに無駄が無い。無さ過ぎる!
相手の動きは私に比べて遅くとも、その動き一つ一つが次の動作に繋がってるし、避け難い角度で攻撃してくる。
私の攻撃は最小限の動きで避けられる。避ける動きさえ次の行動に繋げてる。スピード頼みで単に距離を取るだけの私の回避とは別物レベルだ。
いや、避けられるだけならまだマシで、私の攻撃が受け流される。私は攻撃を受け流される事によって体が泳がされ隙だらけになる。
私には常に相手が斜めに居るように感じるというか……正面に捕らえれない。相手は常に私を正面に捕らえてる。距離感を含めた空間の使い方が上手い。
これが技量差か。
スケルトンナイト&ソーサラー先生のお陰で多少対人に慣れたと思ってたけど、このサキュバスはそいつらとは別次元の技量だ。
私の知る限りサキュバスって戦闘タイプじゃ無かったよね?
この世界じゃ強者なの!?
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