第8話 雑貨屋にて

 村は中世の木こり達の村ってイメージかな。

 家は、ほとんどが木造一階建てか二階建てで、窓もガラスではなく木の板で蓋をするような木窓だ。森の中の村だし、林業の村なのかな?

 ただ塀も建物も木造ばかりで、火事でも起きたら大事になりそうだな。

 門から続く幅五メートル程の通りの左右に、店が何軒か並んでる。ここが村のメイン通りかな?

 通りの人はまばらで、エルフとか獣人とかは見当たらない。

 よそ者は珍しいのか、みんなチラチラとこちらを見てくるので落ち着かない……あまり旅人が来ない村なのかな。


 ギルドに行く前に、途中の雑貨屋に寄る。場所は門番から聞いていた。

 門番の話では、この村に武器屋は無いが、雑貨屋にいくらか武器が置いてあるとの事だ。

 先に買い物をするのには理由がある。

 ギルドで冒険者登録する際、もしかしたらステータス鑑定装置みたいなのがあって、私の種族が悪魔だと判明してしまうかもしれない。そうなったら森の中に逃げ込んで、サバイバル生活をする事になるだろう。

 悪魔とバレてからでは、買い物は不可能だから、先に買い物を済ませておくのだ。


 雑貨屋は辺りではそれなりに大きい店だった。木製のドアを開けて店の中に入る。

 店の中はまさに雑多な物が満載だった。

 薬草のような物、水晶のような物、何に使うのか分からない物が沢山だ。奥の方には、槍や剣が樽の中に突っ込まれてるのが見える。壁の武器棚には弓が沢山ある。

 うん、ファンタジー感あってワクワクしてくるね。


「坊主、旅人かい? 何探しに来たんだ?」


 じっくり店内を見てみたいところだが、店内に客は私一人なので中年の髭親父店員に話しかけられた。

 まあ、店員さんに相談する方が早くて確実だよね。余計な買い物をする余裕は無いんだ。


「冒険者を始めようと思いまして。武器や旅の道具を探しに来ました」

「女の子だったのか。ふむ、ここは冒険者を始めるには向かない場所なんだけどな。この村には新人が出来るような雑用仕事が少ないからな」


 そ、そうなんだ。うーん、そう言われてもなぁ。

 神様にインストールされた常識は、あくまで一般人の常識であり、冒険者の事は詳しくは分からない。

 その一般人から見た冒険者の認識は、上を見ればドラゴンを倒す英雄、下を見れば荷運びドブさらい等の雑用をする何でも屋である。

 安定は無いが伝手も無く縁者なんて居ない転生者が出来る仕事は冒険者くらいしかないのだ。少なくとも最初は。

 店員の話だと、この村の主な産業は林業。木を伐採して木材にして、近くの街に運んでるらしい。冒険者初心者は、その近くの街に行った方が良いらしいが、街への定期馬車は二週間に一回程度らしい。

 それ以外だと木材を運ぶ商人に交渉して荷馬車に便乗させてもらうか、といったところ。

 まあ、一旦ここのギルドで仕事を探してみてから判断かな。


 ナイフに背負い袋と布袋、布切れ、木製のコップ、そして初心者にも使い易いであろう中古のショートソードを購入。


「水筒、火打石、ランタンは良いのか?」

「え? 生活魔法でなんとかなるかと……」


 生活魔法は、『火適性』等の適性が無くても、この世界の人間なら誰でも使える魔法だ。

 水を出したり、火を付けたり、辺りを照らしたり。

 ただ、適性を持つ人の火や水の属性魔法とは別物で、精々、枯葉に着火したり、コップや鍋にチョロチョロ水を入れる程度で、攻撃にはとても使えない。

 ともかく、生活魔法があれば水筒とか、そういった物は必要ないはず。


「長時間、生活魔法を使った事が無いのか? 相当レベルの高い者でもない限り、全部を生活魔法で賄おうとしたら魔力切れを起こすぞ。それとも周りに生活魔法を使えない奴が居なかったのか?」

「え? ……あ、えっと……魔力には多少自信が有りまして……たぶん」


 INTやMNDと言った、魔法系ステータスにも全振りだし、回復力が高まる『活性』という特性も取っている。あながち嘘では無い……と思う。

 というか、生活魔法を使えない人が居るの?

 異世界常識によると、生活魔法はこの世界の人間なら誰でも使えるはずなのだが。


「……微妙な言い方だな。必要になったらまた来いよ。魔力節約の為にも水筒くらいはあった方が良いと思うがな」

「は、はい」


 その後、店員さんから軽く生活魔法のレクチャーを受ける。完全に適当に答えた事がバレバレである。

 話によると生活魔法は誰でも使える……と言いながら、意外と使える人と使えない人で別れるらしい。


 例として生活魔法『コールウォーター』で水を出す場合と属性魔法『ウォーターボール』で水を出す場合の違い……。


 生活魔法コールウォーター


 適性は必要なし。

 水を発生させるイメージが重要。イメージが上手くいかなければ消費魔力が増える。もしくは使えない。この店員さんは、水の精霊を指先に集めるイメージで成功しているらしい。イメージの仕方は人によって違う。

 魔法の使用を止めても発生した水は残る為、出した水は主に飲用水として使える。

 使いこなせない人は多く、使えても魔力消費が大きい為、基本的に生活魔法だけで生活用水を賄うことは出来ない。


 属性魔法ウォーターボール


 水適性が必要。

 魔法を発動すれば、魔力が水へと変換されて放出される。

 使用者の魔力やスキルレベルによって上下するが、同じ消費魔力でも生活魔法とは比べ物にならない高い威力と放出量である。

 魔法の使用を止めると、発生した水は消えるので、飲用水としては使えない。

 適性さえあれば水魔法レベル1程度ならすぐ習得出来るし、使うだけなら簡単。

 

 生活魔法で出した水は消えなくて、適性による属性魔法で出した水は消える。

 属性魔法で出した水は魔力で出来ている為、魔力供給を止めると元の魔素――魔力の元となる物に戻ってしまうからだそうだ。

 

「水の属性魔法の使い手なのに生活魔法では水を出せない……なんてのは実は珍しくない話だ。属性魔法で簡単に水が出せてしまうが為に、却って水の精霊を集めるイメージが出来ないみたいだな」


 そ、そうなんだ。結構別物なんだな……。

 生活魔法は誰でも使えるのだけど、実際は誰でも使いこなせている訳では無いという事か。生活魔法は誰でも使えるという、インストールされた異世界常識だけでは分からなかった事だ。

 神様にインストールして貰った異世界常識は、厳密には”異世界常識的知識”であって、”異世界常識的感覚”は無いみたいだ。

 うん、失敗。

 自分がどれくらい生活魔法が使えるか、村に来る前に試すべきだったなぁ。

 普通、魔法が使える世界に来たら、一番最初に魔法を試すよなぁ。

 フィメイル&デビルショックで完全に失念してたよ。

 少し不審に思われたかもしれないけど、悪魔とバレるのとは関係ないし、次から気を付けよう。


 店員にお礼を言って店を出た。

 何だかんだで、色々説明してくれて親切な人だったなぁ。


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「冒険者ギルドへ」と言いながら、冒険者ギルドへ行くのは次回になります。


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