ぶきっちょおっさんのTS悪魔転生記

ひよこ幕府

第1話 ぶきっちょおっさん、転生の間へ

「どうすれば良いか教えてください……って、もういい加減にしろよ! ここは職場だ! 仕事する所だろ!? 教えて貰う場所じゃ無い! 学校じゃないんだよ! 未だ学生気分なんて歳じゃないだろうが!」


 職場で仕事に行き詰まり、同僚(年下)に相談をするも、このように言われて言葉を無くす。

 だが、彼の言葉は厳しくてキツイなとは思うけど、酷いとは思っていない。私が仕事が出来なくて毎度毎度迷惑をかけているからだ。悪いのは私の方なのだ。

 勿論、仕事をちゃんとこなしたい……とは思うものの、今抱えて行き詰まってる問題にどう対処すればいいのか、自分ではいくら考えても見当もつかない。


「……それで? 今日出来ないのなら明日なら出来るの? それとも三日後? それとも一週間掛かるのか?」

「……そ、それは……」


 私が現在抱えてる仕事は単純な作業という訳では無い。時間を掛ければ出来るという類の問題では無いから、解決法が見いだせない現状では答えようが無い。

 言葉が出てこないまま黙り込んでしまった私に、同僚は心底呆れた様子で言う。


「明日までに出来ないようなら俺がやっとくわ」

「……ご迷惑をおかけします」


 せめて『明日までに出来る様に頑張ります』とでも言うべきなのだろうが、今まで同じ様な事を言いながら何度も何度も期待を裏切り続けてしまっているので、こうしか言葉が出なかった。

 同僚はこちらに顔を向けることなく無言だった。『お前にはもう何も期待しちゃいねぇよ』と言ったところだろうか。

 その後、インターネット上に自分が抱えている問題と同じような事例が無いか探してみたりして足掻いてみたが、結局どうにもならなかった。


 深夜の日付が変わる頃、自分の机を整理して帰る準備をする。全く有効に活用出来ていない本や資料は多いが、概ね綺麗に整理整頓しているつもりである。

 帰宅準備が終わり帰る前に、ふと隣の、先に帰った同僚の机を見る。

『○○○を明日まで頼む』『△△△の対応をよろしくお願いします』等と書かれたメモ書きや付箋が沢山張られていたり、やりかけの仕事の物でゴチャゴチャしている。さっぱりした私の机とは大違いである。

 これは同僚がだらしない訳でも、私がしっかりしてる訳でもない。

 逆だ。

 私の無能っぷりは他の部署の人達も知ってる為、私が出来ない分、同僚ばかりに負担が掛かっているという状態だからなのだ。

 本当に……本当に申し訳ない限りだ。


 重い足取りで会社を出て、よろよろと夜道を力なく歩きながら思いふける。


 ……今回の同僚の言い様は流石にきつかったなぁ

 彼は普段から仕事に厳しい人ではあるが、クドクドと言いなじる様なタイプでは無い。

 そんな彼が……とかく合理的で無駄な事を嫌う彼が……あんな答えようが無い事で私を問い詰めてきた。なにかしらそういう事をした意味が有るはずだ。

 その意味とは何だろう?


「……もう……辞めろって意味しか無いよなぁ……」


 私自身がそう思ってしまってる。もう今の会社に勤め続けるのも限界だよなぁ……と。


 四十五歳で独身。彼女居ない歴=年齢。

 子供の頃から不器用で、要領が悪く、引っ込み思案な私は学生時代は苛められっ子だった。

 社会に出てからも、まともに仕事が出来なくて同じ仕事が続かず、職場を転々としてきた。

 前の会社を辞めた後、職業訓練校で頑張って勉強して資格を取り、資格者として今の会社に採用してもらったが、資格があればすぐ仕事が出来るわけでもなく、年齢的にも即戦力を求められてるというのに全く期待に応えれていない。


「……頑張ろうにも、何をどう頑張りゃ良いんだ?」


 そう呟きが出た。

 資格を取る事と、仕事が出来る事は別問題だ。

 資格教本の内容を丸暗記し、過去問をやり込めば資格は取れた。資格を取る為の頑張り方は分かる。

 だけど、資格やその過程で得た知識を活用して、仕事が出来るようになるにはどう頑張れば良いのかが分からないのだ。

 普通の人には当たり前に出来ている事が私には出来ない。どうして私には無理が来るのか……。

 不器用過ぎて、要領が悪過ぎて、自分が一体何が分からないのかも分からない。

 何をどう頑張れば良いのか……分からない。


 自分の情けなさにモヤモヤと考え事をしていて、車の走行音に気が回らなかった。

 深夜だと滅多に人も車も通らない点滅信号の交差点。

 それ故にスピードを落とさずに走って来た車に撥ねられ――私は死んだ。



 ◇



「……うぅん……ん?」


 意識が戻り目を開ける。

 目に入ってきたのは白い世界。

 白い地面? 白い空……なのか天井なのか?

 とにかく一面白い。

 光源となるものが見当たらないのに妙に明るい。

 白い世界の中に居るのは私だけではなかった。

 周りに人が何人か居る。

 前後左右にある程度の間隔で、数十人の人達が困惑した表情で辺りを見回してる。

 老若男女様々だ。

 服装は皆、普段着だったりビジネススーツだったり。

 私は死んだ時と同じ背広姿だ。


 ……そうだ……死んだのか?

 死んだんだな……私は。

 猛スピードの車に撥ねられた瞬間の事は覚えている。

 つまり、私は死んで……この空間に来たと言う事だろうか。

 ここはあの世?

 ハハハ……そうか……。

 ……あの時、死のうとして死にきれなかったのに……死ぬ時はアッサリだったな……。

  

「なん……だこれ?」

「何が起きてる?」

「え、え? 私、死んだの?」

「ここは……天国?」

「やっぱり死んだのか……俺」


 周りの人達が騒ぎだす。

 出て来る言葉からすると周りの人達も死んだ人っぽいし、やはりここはあの世なのか?


 その時、妙に頭に響く声が聞こえた。


「静まりなさい」


 声が聞こえたと思える方に、その場の全員が振り向く。

 自分を含めた人達の集団から少し離れた場所に、豊かな髭を蓄えた老人が何時の間にか立っていた。ギリシャ神話に出て来る登場人物の様な、現代人とは思えない白いローブを着ている。

 その老人を見た時、神か、それに近しい存在だと思った――いや、そう

 その存在は語る。

 

「不運な死を遂げた者達よ。諸君には今から地球とは違う異世界に転生してもらう」


 転生?

 マジで?



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 初めて小説を投稿します。

 よろしくお願い致します。

 筆者が就職超氷河期時代と呼ばれた時期に社会に出た世代なので、作中の状況は現在の時代に合っていないかもしれません。ですが何時までも仕事が出来なければ職場での立場が無くなるのは何時の時代も同じのはず。

 不器用なおっさんが異世界で頑張る物語です。頑張って執筆していきますので応援お願い致します。

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