王様犬

@peacetohanage

第1話

町の一角に、変わった動物が居た。

頭にはぴかぴかの冠を乗せている、一匹の野犬だ。

この野犬は王様犬と呼ばれていて、町では知らない者は居なかった。

王様犬は王様ぶるのが日頃の日課で、町ですれ違う誰しもに、おふれを出すのが好きだった。

今朝は犬用の腕時計を持って来い!、昼には要らなくなった靴を持って来い!(それは暇潰しにくわえて遊ぶ為に)、おやつの時間には昼寝をする為のクッションを持って来い!とおふれを出す。

しかし町に住む人々は、誰も王様犬の言う事を聞こうとしなかった。

誰しも明後日を向いて、すたすたとやり過ごしてしまうのだ。


お腹の減った王様犬が道草のバッタを捕まえようとすると、バッタは想像もつかない跳躍で王様犬の冠に飛び込む。

バッタが自慢の冠に飛び込んだ事で王様犬はさぞや癇癪を起こしたのだが、冠の中じゃ振り落とす事が出来無かった。

そこで仕方無くまた通行人におふれを出す。

「今すぐに美味いドッグフードを持って来い!」

しかし通行人は全く相手にしない。

するとふいに心の優しいバッタが頭上から答えた。

「王様!僕が人ん家に行って、食べ物を取って来てあげます」

「何?それは本当か?」

「ええ、だって貴方は王様なんでしょ?」

そう言ってぴょんぴょんとバッタが慌てて居なくなると、しばらくしてチーズを背負って帰って来た。

なるほど!これはこれは便利だと思った王様犬は、バッタを冠で飼う事にしたのだ。


王様犬は一匹の家臣を持つ、ついに立派な王様となった。


おわり

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