【Proceedings.16】容赦無き竜と雄々しく怒れる闘牛.02

「そうか、わかった。どうすれば我とのデュエルをしてくれる?」

 何が分かったのかまるでわからないが、修は腕を組みながら、頷いて葵にそう尋ねた。

「んー、別にしてもいいんだけどね」

 葵はカルボナーラを優雅に食べながら適当にそう答えた。

 葵も月子に姉を探すと言った手前、絶対少女というものを目指すつもりでいるが、願い事を叶えると言うことを本気で信じているわけではない。

 なのであまり積極的になれるわけでもない。

 だが、こうやって挑まれたのだ。

 相手の思惑に乗るのは好ましくはないが、葵にとってもいい機会ではある。

「そうか。なら、もう一つ頼みがある」

 修は左目を閉じ、右目だけで睨むように葵を見ながらも、少しだけ頭を下げてそう言った。


「なに?」

「我のデュエルアソーシエイトは亮以外にはない。あってはならない。亮をデュエルアソーシエイトとしての参加を許可してほしい」

 そう言って修は、今度は完全に頭を下げた。

「それって、私が許可すればいいことなの?」

「そうだ。とはいえ、例外はデュエルアソーシエイトとして参加するとき。あとは、今回は当てはまらないがデュエルを申し込まれたときなどだな。それらの時は例外となる。もちろん命令した者の許可は礼儀として必要だが」

 頭を下げたまま、修は答える。


「まあ、それはそうか。全員関わるなって言って言ったら、その時点でデュエル開催できなくなるしね」

 勝敗を分けるための刀。

 それもまたデュエリストから取り出さなけばならない。

 デュエル全てに勝ちすべてを拒絶していっても、最後は自分の刀すらなくなってしまう。

 言わば、これは救済処置とも言える。

 デュエルを申し込まれたときも例外と言うのも、詰み防止からなのだろう。

「そう言うことだ」

「それもいいよ。認めてあげる」

 葵はそれも何の気ないしに認める。

 結局は全員に勝つつもりでいるのだから。

 月子以外に勝ち、姉を探すためと言えば月子もデュエルを断る様な事はしないだろう、と葵は考えるが、その時の月子への命令を月子は了承してくれるだろうか、葵は考える。

 無論、月子が望まないならば無理に命令するつもりは葵には一切ない。

 だが、葵にとって尻枕はとても魅惑的なものなのだ。

 それが叶うかどうか。

 それで葵のモチベーションに大きくかかわってくる。


「では我が勝ったときの願いも先に言っておこう。おまえと牛来亮とのデュエルでの再戦許可だ。それ以外の取り消しは不要だ」

 それはつまりデュエルの再戦のみで良いと言っている。

 牛来亮は葵の私生活は関わらない、そう言っているのだ。

 葵にとってはほぼデメリットはない。なぜなら葵は牛来亮に再戦を申し込まれたところで断ればいいし、デュエルをしたところで負ける気はしない。

「ああ、うん。別にどうでもいいよ。私も負ける気はないからね」

 だが、それ以前に葵は、この修という男、丑久保修にも負けるつもりはない。

 負けたときのことなど考える必要もない。

「たしかにおまえは強い。だが、我もまた強い! ならば、筋肉と愛の多い我に分があると言うものだ」

 そう言って修は豪快に笑った。

 ただ巧観とデュエルをしまくったせいで、葵の実力も広く知れ渡っているはずだ。

 それに対してこの発言、そして、すぐにではなく時を置いてのデュエルの申し込み。

 修も葵に勝つ見込みが出来たからこそ、デュエルを申し込んできたのだろう。

 それをわかっていながら葵は優雅に微笑むだけだ。


「ねえ、この人強いの?」

 だが、葵には目の前の男の強さがまったくわからない。

 本人の前ではあるが、念のため巧観に話を聞いてみる。

「丑久保さんはあんまりデュエル自体に興味を持っていないから、ボクも実力はわからないですよ。いつも牛来さんのサポートばっかりで……」

 と、巧観は素直に感想を述べる。

 巧観の言う通り、修はほぼ亮のサポートだ。亮が負けてデュエルに参加できなくなれば、その相手にリベンジし、亮を再びデュエルに参加させるようにする。

 本人からそれ以外でデュエルを仕掛けることはない。

「安心せよ。我も本気だ。本気で行くぞ。愛が為に愛が故に!」

 修はそう言い切って、葵をじっと見つめる。

「丑久保さんは牛来さんのことが好きなの?」

 それに対して、葵は確認の言葉を掛ける。

 葵にとって、それだけ確認できればいい話だ。

「然り! もちろんだ! 当然の如く愛しているぞ!」

 恥じる間もなく修はそう言い切る。


「そう。わかった。じゃあ、私も本気で相手をするよ。私が戦う理由も愛故に…… だからね」

 ならば、葵も相手をしなければならない。

 葵も月子への愛の為に戦いに身を投じる覚悟はできている。

 相手が愛のために戦うと言うのであれば、葵もその戦いを真面目に受けなければ失礼にあたると言うものだ。

「では……」

 と、修が何かを宣言しようとしたとき、近くの柱の影から何者かが走り寄って来た。

「詳細の打ち合わせは私に任せてください! この猫屋に、猫屋茜に!」

 そして、メモを片手に茜がそう言って話に割り込んでくる。

「猫屋か、ふむ。いいだろう。一任しよう」

 一瞬、考える表情を修は見せるが、詳細の打ち合わせとやらが面倒そうだったので、修は茜に一任することにした。


「はい! お任せください! この猫屋! 精一杯調整させていただきます!」

 茜は喜び勇んで、鼻息を荒くして、メモ帳に何かを一心不乱に書きだした。

「どこから湧いて出たの? 茜」

「お二人が話し合っている間、そこの柱に隠れて様子をうかがってました! 巧観さんとのデュエルが続いていたのでマンネリになっていたんですが、これでまたデュエルが盛り上がりますよ!」

 その言葉に巧観がショックを受けたように茜を見る。

 茜は巧観のその視線にまるで気づいていない。

 ただ月子は心配そうに葵を見る。

「どうしたの月子?」

 その視線に気づいた葵は月子に話をかける。

「まあ、良いんですけども。葵様が強いことは十分承知していますし。ただそんなに安請け合いしているとそのうち痛い目を見ますよ」

「確かに。葵は強いけど、それだけでデュエルは勝てないよ」

 月子の言葉に巧観も同意見だ。

 本人が強いだけではデュエルには勝てない。

 刀との相性がある。

 そういう意味では完全無欠の能力を有する月下万象は万能にも思える。

「ふふ、大丈夫。私は月子がいてくれたら誰にも負けないよ」

 そのことを葵も分かっているのか、月子に微笑みかける。




━【次回議事録予告-Proceedings.17-】━━━━━━━



 丑久保修には天辰葵に勝てる絶対の自信がある。

 その理由とは?



━次回、容赦無き竜と雄々しく怒れる闘牛.03━━━━

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