容赦無き竜と雄々しく怒れる闘牛

【Proceedings.15】容赦無き竜と雄々しく怒れる闘牛.01

 ここは永遠の学園の園、神宮寺学園。

 絶対にして完全なる学園。

 桜舞う常春の学園。

 その学び舎から、姿はどこにも見えないのだが、どこからともなく少女達の噂話が聞こえてくる。


「ねえ、ミエコ、シャベルコ、知ってる? あのむさ苦しい男がとうとう我慢できずに動くみたいですよ」

「あー、あの女性用の下着をつけてらっしゃる彼ですか……」

「え? 良いじゃないですか、彼。私は好きですよ」

「ミエコはああいうのが趣味なんですか?」

「だって、彼、どう見ても、ねぇ? それだけで私は……」

「あー、ミエコちゃんはそういうの好きですもんね」

「えぇ…… 理解できません」

「は? キクコさんだって枯れ専じゃないですか!」

「あ、あの人は枯れてなんていませんよ!」

「まあまあ、キクコちゃんもミエコちゃんも落ち着いてください。もうすぐ…… 見飽きてしまったのとは違うデュエルが開かれるんですから」

「それもそうですね、あの組み合わせは飽きましたからね」

「楽しみですね」

「「「クスクスクスクス……」」」




 丑久保修。

 寅の威を借る寅の団の副団長にして、生徒会執行団体育部長。

 牡牛座で四月二十一日生まれ。

 O型。

 友情と筋肉、そして、何よりも愛に生きる男だ。


「天辰葵、我とデュエルをしろ」

 天辰葵と申渡月子、それと戊亥巧観が食堂で昼食を取っていると丑久保修が彼女らの前の席に座り開口一番にそう言って来た。

「なぜ?」

 と、カルボナーラを食べる手を止めて葵は聞き返す。

 月子と巧観は顔を見合わせた後、葵の顔を二人で無言で見る。


「我が朋友にして、最愛の友であり、親友でもある亮をデュエルに復帰させるためだ。絶対少女は亮にこそふさわしい」

 修は腕組みをし、そう断言した。

「あなたと牛来が友人ということだけはわかったよ。でも、それなら、なおさら私がデュエルを受ける理由はないよね?」

「葵、おまえは恭子さんを月子のために探すのではないのか?」

 葵の言葉にそう突っ込んだのは、油揚げの入った蕎麦を食べる戌亥巧観だ。

 葵がそう言ったから、巧観は一歩引く勇気を得たのだが、紆余曲折あった結果、それは実は尻枕だったということがわかった。

 そして、訳の分からないうちに負かされ、巧観は月子を追うことをやめることとなった。

 巧観も葵に言いたいことはたくさんある。

「それはそうなんだけど、誰かさんが毎日仕掛けてくるから」

 葵は少しうんざりした顔を見せた。

 巧観と顔を合わせればデュエル、デュエル、デュエルと言われる。

 なんだかんだで、デュエルは勝っても負けても体力と気力を使う。

 昨日など、円形闘技場少女合唱団が少し喉を枯らしていたくらいだし、なんなら円形闘技場も水底から上がってくるとき若干勢いがなくなって来ていた。

 絶対少女議事録など、議事録から直接、疑似録へと変化していた。

 生徒会長の戌亥道明もめんどくさがり見に来ることもなくなっていた。

「そうだ、お前のせいで私の足はふやけてしまうかと思ったぞ」

 巧観が自慢げにそう言うので、月子が驚いたように、巧観と葵の顔を交互に見る。


「巧観よ。口をはさむな」

 そでこ修が巧観に釘をさす。

「すいません」

 筋肉の化身のような男に睨まれ、巧観も肩をすくめてすぐに謝る。


「理由…… 理由だったな。それは明確だ。愛だ。愛のためだ。それ以外に何があるというのだ。愛だ! 愛故に愛だ!」

 修は上を向き。少し考えこみ、導き出したその答えを口にした。

 その表情に嘘偽りはないし、確信に満ちている。

「いや、あなたの理由ではなく私が受ける理由ですよ」

 葵は話が噛み合ってないのを修正しようと試みる。

「そんなものは知らん。だが、我にはあるという話だ」

 だが、修はそれを真っ向から否定する。

「では、なんであなたは牛来さんをそんなに?」

 そこで葵は話しの趣向を変える。

 面倒だからデュエルを受けてもいいが、この男にやり込められるのは葵もなんだか気に喰わない。

「雄っぱいだ!」

 修はきっぱりとそう言い切った。

「おっぱ…… 胸?」

 そう言われた葵の頭には疑問符が浮かぶ。

 牛来亮は男だ。それだけにおっぱい、乳房はない。そのはずだ。


「そうだ!」

 だが、修は断言する。

 葵の聞き間違いではないようだ。

 そこで葵はおっぱいについて少し考える。

「うーん、私はあんまり胸には興味が惹かれないんですよね、嫌いではないですが」

 確かに暖かく触り心地の良い物であるが、葵の、天辰葵の求めているものではない。

 葵は脚線美こそ至高の美と考えている。

 葵にとっておっぱいはそれを彩る飾りの一つに過ぎない。

「雄っぱいの魅力がわからないとは、なんと哀れな……」

 そう言って修は目頭を手で押さえて見せる。

 そうしてから、憐れみの目を葵に向ける。

「えぇ、胸なんてただの脂肪じゃないですか」

 葵が平然とそう言うと、月子と巧観が白い目で葵を見た。

 ただの脂肪と言ってはいるが、自分達が持っているものより立派なものを葵が持っているからだ。

「何を言っている。筋肉だろう!」

 それに対して、修は怒れるように反論する。


「この二人は何を言い合っているんだ?」

 この二人の話を聞いていると頭が悪くなりそうだったので巧観は月子に話をふる。

「知りませんよ…… あなたもあなたで、なんで自然にここにいるんですか」

 巧観がデュエルに負けて以来、巧観は確かに月子を追う事をやめ、月子に突っかかる様な事もなくなった。

 まるで昔の、まだ普通の幼馴染だったころのように巧観は月子に接してくる。

 それだけに月子の方が少し戸惑うくらいだ。

 ただその関係性は月子にとっても嬉しくはあることではあるが。

「今日も決闘を申し込みに来たのだが、飽きたからとご飯に誘われて……」

「そ、そうですか…… ま、まあ、いいんですけども。それより昔みたくスカートをはく様になったんですね」

 確かに一度負けて以来、巧観とのデュエルはうんざりするほど、月子もデュエルアソーシエイトとして立ち会った。

 最初こそ、葵も楽しんでいたようだが、何度もしていると葵も飽きてきているようで、最近は開始早々速攻で終わらせるようになった。

 昨日など数試合分合わせても秒殺だった。

 その度に観客が出入りや円形闘技場の浮き沈みが発生している。

 余りにも開催されるせいか、もう既に巧観と葵のデュエルは観客の入りも悪い。


「ああ、もう月子を追うことをやめたからね。ただ心残りがないわけじゃないよ。だから上はまだ…… でも、そのうち上も女子の制服にすると思うよ」

 と、巧観はそう言ってはいるが、言ってはいるのだが、その割には葵にデュエルを申し込む回数が異常に多い。

 ただ、それも行き場のない気持ちをただ単に葵にぶつけているだけなのだろう。

 恋とはそういうものだ。

 理屈でわかっていても気持ちはそう簡単に割り切れるものではない。

「そうですか。葵様も巧観くらい聞き訳が良ければよかったのですが」

 そう言って月子は少し困った顔をした。

「と、言うこと?」

「あのデュエルの後、葵様にも巧観に言ったようなことを告げたのですが、『私は諦めないよ』の一言で終わってしまって」

 月子はそう言ってため息をついた。

 たしかに葵がいてくれれば、巳之口が月子の前に出てくることは減る。

 だが、それは月子自身の問題であり、葵は関係ないことだ。葵のその気持ちを利用する気も月子にはない。

 相手への気持ちがないことを早く伝えてやるのが、月子ができるやさしさだと思っていたが葵には無駄だったようだ。

「そう。でも、ボクは…… 葵なら恭子さんを見つけ出してくれる気がするよ」

 巧観のその言葉に月子が驚いた顔を見せる。

 この前は、随分と巧観は葵のことを嫌っていたようなのに今は、ある種の信頼関係にあるようにすら思える。

「そうですか?」

「うん、あれで、ああ見えて葵は淑女だよ。ボクの足を舐める時ですら、美しく優雅で気高い……」

 巧観はそう言って頬を染め、恍惚とした表情を見せる。

「足を舐めるのに気高いとかあるんですか?」

 月子は疑問に思いつつも、なんなら自分抜きで二人で盛り上がっていてくれないか、と本気でそう思った。




━【次回議事録予告-Proceedings.16-】━━━━━━━



 愛故に戦いを決意する漢、丑久保修。

 愛故に絶対少女を目指すことにした、天辰葵。

 二人の愛故の戦いが始まる、のか?



━次回、容赦無き竜と雄々しく怒れる闘牛.02━━━━

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