【Proceedings.05】天舞う完全無欠の竜と地を這う暴れ馬.05
「では、デュエル受けると言うことでいいかな、天辰葵」
自信ありげで不敵な笑みを浮かべ、牛来亮は天辰葵を挑発するかのようにそう言った。
「かまわないよ、チュートリアル係さん」
その挑発を真っ向から受け、怯むどころか逆に挑発するように天辰葵もいい放つ。
それに対し丑久保修が何か言う前に、それを亮が手で制する。
これ以上の口での争いは無意味とばかりに。
修もそれに納得する。
これより先は決闘で、デュエルで、実力で、決めればいいことだ。
「もう、どうなっても知りませんよ」
その中で月子だけは、葵を心配して深く息を吐きだしてそう言った。
「月子はそのデュエルというの、したことあるの?」
葵にそう聞かれ、
「わたくしは……」
月子は押し黙った。
月子は未だデュエル、決闘に挑む決心がつかないでいる。
今まですべてのデュエル、そして、デュエルアソーシエイトも全て断って来ている。
それを知っている亮が月子を見下すように。
「ないだろう? そいつは消えた姉の代わりだからな」
と言った。
「消えた?」
と葵がそう言って、俯いた月子の顔を心配そうに覗き込む。
「その話は……」
そう言って月子は顔をこわばらせながらも無理に笑って見せる。
「月子が嫌なら言わなくていいし、私はなにも聞かないよ」
葵はそう言って優しく笑いかけ、二人だけの空気を創り出そうとするが、しびれを切らした亮が、
「では、デュエルだ。左手の薬指にはめたまえ!」
そう言って割り込んでくる。
それに対して、葵は指輪を月子に手渡す。
「はい?」
と、訳も分からずきょとんした顔を月子は見せながらも、葵からリングを受け取る。
「月子、つけてください」
葵はそう言って、頬を染めながら自らの左手を差し出す。
「あー、はいはい」
月子は葵の意図を理解して、めんどくさがりながらも、葵の左手の薬指にデュエルリングを装着させてやる。
葵はそれを、月子に着けてもらったリングを見てうっとりとほほ笑む。
だが、それを見た亮が含み笑いをする。
「では、デュエルのときだ! 牛来亮は天辰葵にデュエリストとして決闘を申し込む!」
亮が食堂の椅子から立ち上がり、高らかに叫び声でそう宣言をした。
だが、叫び終わっても特に何も起きない。
少しの間をおいて、
「天辰様も、自分と相手の名前を言ってデュエルと受ける旨を宣言してください」
と、小声で月子が葵に教えてやる。
葵はゆっくりと頷いた後、食堂の席から優雅に立ち上がり、高らかに宣言を受ける、前に、葵は月子に笑顔で顔を寄せて、耳打ちするように、
「葵と呼んでください!」
と言って来た。
月子も半ば自棄になり、
「あー、もう! 牛来様とのデュエルに勝てたら考えます!」
と、言って怒って見せる。
葵は満足そうにうなずき、今度こそ、亮の、牛来亮の宣言を受ける。
「わかった。ならば月子、キミに勝ちを捧げるよ! 私、天辰葵は牛来亮との決闘をデュエリストとして受ける!」
葵がそう言った瞬間だ。
辺りから地鳴りが始まる。
荘厳な雰囲気の漂う重々しくも静寂でいて神々しい、そんな部屋に黒い皮張りの椅子に深々と腰かけている男がいる。
その男は長髪であり、非常に目鼻立ちが整った男だ。
しかも、他の生徒とは違う白い特別な学生服を身に着けている。
そんな部屋にも地響きが伝わって来た時だ。
長髪の男がその手に持つ『絶対少女議事録』と書かれた本、その『議事』の部分の文字が急に様々な文字に変わり始める。
地響きとそれに長髪の男が気づく。
「はじまったか」
男はそう言って、絶対少女議事録を持ち生徒会執行団の部屋を急いで出る。
男の向かう場所は学園の中央部の大きな、湖のような池である。
その男がその場所へ着くころには、長髪の男の持つ本の表紙の題名が『絶対少女疑似録』へと変わっていた。
葵たちのいる、この大きな食堂からも見える、学園の中心にあるとても大きな、もう湖と言っていいほど大きな池が突如として二つに割れる。
そこから石造りの円形の闘技場のようなものが、観客席と共にせり上がってくる。
そして、どこからともなく円形闘技場少女合唱団が現れる。
彼女たちは皆、逆光となりその姿を確認することはできないが、まるで池よりせり上がってくる円形闘技場に初めからスタンバイでもしていたかのように、ただ悠然と円形闘技場に、その一部だったかのように既に存在している。
彼女たち、円形闘技場少女合唱団が歌い始める。
「決闘決闘決闘決闘! その時が来たー!」
「決闘決闘決闘決闘! 今こそたちあーがれー!」
「決闘決闘決闘決闘! 雌雄を決するときだー」
円形闘技場少女合唱団、彼女たちの歌詞はともかくとして、とても美麗なるコーラスが食堂にまで響き渡る。
天辰葵はそんな光景にもまるで動じない。
むしろ、何度もこの光景を見て来たことがある申渡月子の方が、まるで動じない葵にたじろいでいるくらいだ。
なぜこの光景を見て葵はそんなに平然としていられるのかと。
円形闘技場少女合唱団のコーラスにいざなわれるように、葵は月子の手を自然と取り食堂を出てエスコートするように、せり上がってくる円形闘技場へと向かう。
牛来亮も丑久保修と腕を組み、行進するように、まるで兵隊が大勢で行進するかのように規律正しく二人で、円形闘技場へと向かう。
円形闘技場は一つの巨大な円柱状のステージの周りに円環状の客席がついた物だ。
それ自体が巨大な建造物であり、白い大理石のような建材で作られている。
先ほどまで池の底にあったはずの円形闘技場は既に水に濡れた形跡すらない。
さらに言うならば、既に円形闘技場の客席には、この神宮寺学園の生徒達が既に席に着き満席となっている。
それらすべてのことは不思議な事ではない。
なぜならば、円形闘技場、正式名称『絶対決別決闘場』はとはそういう場所であるからだ。
円形闘技場は両階段になっており、左側を牛来亮と丑久保修が腕を組んで進み、右側の階段を天辰葵が申渡月子を手を引き階段を登る。
そして、互いが円形闘技場の上で、両者は相対する。
満席の客席から歓声が上がる。
その歓声の中、おもむろに、牛来亮が、丑久保修の上の制服を強引に開く。
丑久保修は頬を真っ赤に染め、抵抗せずにそれを真っ向から受け入れる。
丑久保修の制服の金色のボタンが周囲に舞い落ちる。
その下に来ているワイシャツも強引に、力任せに荒々しく強引にボタンごと引き裂く。
そこには鍛えられた肉体と黒色でレースとラメがあしらわれたブラジャーを付けた丑久保修の姿があった。
丑久保修は頬を染め少し照れながら、牛来亮に抱えられ、その鍛えられた肉体を任せる。
そして、牛来亮がその鍛えられ黒色の男の色香漂うブラジャーに守られた厚い胸板にキスをする。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
丑久保修の猛々しい雄たけびが辺りに響き渡り、牛来亮がキスをした熱く厚い筋肉の胸板が光出す。
そこから刀の柄が現れる。
それを牛来亮が掴み、丑久保修の肉体からゆっくりと引き抜く。
丑久保修の雄たけびは絶叫となり、大太刀と言って良いほどの刀が引き抜かれる。
その刀を手に取った牛来亮が宣言する。
「その一撃は岩をも穿つ! 剛健一實!」
刀を天に掲げ、そして、その剣先を天辰葵に向ける。
「さあ、天辰葵! 貴様の番だ! 申渡月子から刀を抜くがいい!」
亮は、牛来亮は、隠しもしない残忍な笑みを浮かべ天辰葵を睨む。
だが、天辰葵はそんな牛来亮を見てもいない。天辰葵の視線は申渡月子に釘付けだ。
全身をくまなく舐めるように見ている。
まるで獲物を狙う猛禽類のように、どこに、申渡月子のどこに接吻をするべきか、狙いを定める様に、天辰葵は申渡月子をくまなく見る。
「なるほど、そのためのデュエルアソーシエイトか」
天辰葵は納得する。
そして、完全無欠である天辰葵は既に、それがどういうものかを完璧に理解している。
だが、そんな葵に月子は不安そうに、
「天辰様…… 私の中にどんな刀が眠いっているか、まだ不明です……」
と、告げる。
「どんな刀でも平気だよ。私は負けないさ。君に私を名で呼び捨ててもらうためにね」
そう言って葵は、天辰葵は申渡月子の前に恭しく跪く。
天辰葵は淀みない可憐な動作で月子の靴と靴下を丁寧に、そして、優雅にあくまで優しく脱がす。
その動作は至極自然であり、申渡月子が拒む隙を与えはしない。
そして、その白く美しい申渡月子の御足を大事そうに手に取る。
その爪先に深々と、味わうように口付けをする。
「くっ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
必死に声を我慢する月子から、その固く閉ざされた口から甘い吐息があふれ出る。
月子から悩ましい声が漏れ出ると共に月子の足が光出し、刀の柄が現れる。
葵はそれを手に取り、じっくりとじらすように刀を月子の足から、その美しい月光のような刀を抜き放つ。
「月の下では何事も仔細なし! 月下万象!」
葵がその刀を天に向かって掲げ、刀の名を高らかに宣言する。
━【次回議事録予告-Proceedings.06-】━━━━━━━
互いに刀を抜き放ち、雌雄を決する時が来た!
謎の長髪の男が持つ完全少女議事録。
そして、葵のデュエリストとしての運命が激しく蠢動し回り始める!
━次回、天舞う完全無欠の竜と地を這う暴れ馬.06━━
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