炎の魔術師
ム月 北斗
給るホヴィロン 1
突然だが、あなたたちは幼少期によく、『物を拾う癖』はなかっただろうか?
道端に落ちてるカラスの羽、よくわからないキャラクターのキーストラップ、どこかの鍵(これは拾ってはいけない、すぐに交番へ)、百円玉なんかの小銭・・・・・・
子供の目に映るそれらはまさに、何とも言えない魅力を醸した宝石やその類だったであろう。
この物語の主人公が、まさにそれだった。
幼少期、ふらっと外へ飛び出し町を外れて歩いていたならば、彼は見つけてしまった。
小川の岸辺にしぶとく残り続ける枯れ木の下、まるで火事でもあったかのような煤けた地面に、チカりとそれは瞬いた。
少年はまるで、明かりに向かう蛾の如く、ただその魅力に惑わされ、その小さな手を伸ばした。
それはメダルだった。真っ赤なちいさいメダル、これといって何の変哲もないメダル。
ただ・・・・・・しいて言うならばそれは、熱を帯びていた。火傷するほどではなく、人肌よりは熱いくらいのものだった。
しかし、その熱は少年が一瞬だけ感じ取れたものだった。少年が拾い上げてすぐ、熱は少年の掌に吸収されるかのように、消えていったのだ。
それから数年、少年は成長し、地元の高校に通っていた。
他愛もない学生生活、親しい友人たちとのバカ騒ぎ、平和的に暮らしていた彼だったが、それは起きた。
学校の端、あまり人の通らない階段の踊り場、そんな陰気臭いところでは、そこによく似合う者たちが集うのだ。自身よりも弱い者を選定し、無価値な優越感に浸る愚族、それらが行う蛮行、要は『いじめ』である。
彼はその現場を目撃してしまったのだ。胸倉をつかみ上げ、金銭をせびることしか出来ない愚鈍な者ども、それに怯える子羊、真っ当な正義感のある者がこれを見た時、黙っていられようものか?当然、彼の正義感がそれを許さなかった。
しかし・・・・・・言葉より早く、彼の内に眠る凶器が、愚か者共に襲い掛かった。
ある者は突然、髪が燃えた。赤々と燃え、中身のない頭を焼いた。ある者は服が燃えた。親に買ってもらったであろう制服を、無様な姿に変貌させた罰と言わんばかりに。子羊はそれらを目の当たりにし、今度は兎の如く何処かへ逃げていった。
階段の踊り場で、ピーピーと豚のように悲鳴を上げのた打ち回っているうちに、騒ぎを聞いてやってきた教師は、急いで消火器を豚どもに向かって使用した。その後、豚どもは、親切にも駆けつけてくれた救急隊により手当てを受け、すぐさま病院へと運ばれた。
現場にいた子羊は教師から事情を聞かれたが、子羊は「突然やつらから炎が出たんです!」と言い、全く話にならなかったらしい。
では肝心の彼はと言うと、そもそも教師からあれこれ聞かれることはなかったのだ。
なぜなら彼は、豚どもが焼き豚になった瞬間、突然の出来事に驚き逃げ出し、その場にいなかったのだ。ただ胸の内で、「あれはなんだ?!」と、繰り返すのみだった。
自問自答を繰り返すうちに、彼の脳裏に、幼少期に拾ったメダルのことがよぎった。
あれからずっと、そのメダルを肌身離さず持ち続けていた。なんどか家に置き忘れたことがあっても、気づけばズボンや上着のポケットに入っている、そんな奇妙なメダルを、だ。
彼は恐る恐る上着のポケットに手を差し伸べた。
あった。たしかにそこに、メダルがあった。真っ赤なメダル、光を反射し、怪しく光って見せた。
その日、彼は夢を見た。自身を取り囲むように、炎の海が広がっていた。
その炎の海の中、誰かがいた。
頭はまるで狼のようで、こちらをじっと見つめている。
それはやがて、ゆっくりと口を開きこう言った。
「お前は・・・・・・選ばれた・・・・・・」
そう言うと突如、炎の海はその激しさを増し、夢の中の彼は炎にまかれ、目を覚ました。
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