第4話 ありのままの君が好き!

彼女に振られた。

しかも浮気されて。

相手は大手企業のイケメン、キラッキラのエリート。

そりゃ仕方ないかなとも思う。



そんな俺を慰めるために、東海林が飲みに誘ってくれた。

東海林は新卒入社の同期。

端正な顔立ちで、仕事もできる。

一方、俺はまあまあ鈍臭い。

周りに疎まれるほどではないが、近くに東海林がいると見劣りする。

まあ、仕方ないことだ。

東海林はそんな状況を鼻にかけることもなく爽やかで、お互い助け合いながら仕事をしてきた。




一軒目は居酒屋で彼女と浮気相手への愚痴を吐き、二軒目はバーでモテない自分と将来への不安を吐露し、三軒目…として、東海林のアパートで宅飲みになった。



そして気づいたら、東海林とキスをしていた。



東海林に抱きしめられ、頭を押さえられて動けない。

俺は、東海林に噛みついて、怯んだところでバッグと上着を掴んでアパートから逃げた。



なんでそんなことになったのか、全然記憶にない。

俺がその気にさせるようなことを言ったのだろうか?

だとしてキスはしないだろう。

東海林が俺を好きだってことか?


東海林のことは友人として好きなだけで、まさか恋愛対象ではない。

明日……どんな顔をして会社で会えばいいのだろう……。



♢♢♢



彼女に振られたくらいで、将来まで悲観する北村はとても可愛かった。

将来なんて、俺と一緒に暮らせばどうにでもなるのに。

こうやって毎日一緒に飲んで過ごせたらどんなに楽しいか。

そう考えてたら、気持ちが昂って手を出してしまった。



翌日会社に行き、北村に挨拶するが目を合わせてくれない。

仕事で話しかけても、なんだかつれない。

わかる、わかるよ。

情事があった翌日は緊張するよな。

でも、キスしかしてないのにそうなるっていうのは、なかなかに奥手だ。

逆に周りから、二人に何かあったんじゃないか、って思われてしまう。



帰りも、いつもなら雑談をしていくのにそそくさと帰ってしまった。

まあ、会社内で雑談したところでたかがしれてるからな。

二人の時間を多くしたいということだろう。



彼女とは別れて正解だと思うよ。

いつもブランド物をねだってたし。

北村の給料じゃ分不相応だ。

デートだって、自然が好きな北村が湖に連れて行ったら、あからさまに彼女はテンション下がってたよね。

見た目も、整形か!ってくらいバキバキにメイクしてるし。

レストランも、いつもちょっと高いとこを指定してる。

クレジットの明細が大変なことになってたじゃないか。

俺とラーメン屋に行く方が幸せだって。



彼女とは出会って3回目のデートで付き合い始めてたけど、それはちょっと早かったと思うよ。

やっぱり、価値観や生活が合わないと長くないなって。



北村は、朝ごはんは和食だし、朝シャワーだよね。

これで彼女が、朝はパン派だったらもう破綻だ。

忙しい朝に二人とも朝シャワーじゃ大変だろう。



お昼はいつもコンビニで、夜はうどんが多いよね。

野菜が足りないのが心配だよ。



夜の過ごし方は専ら動画視聴。

アプリゲームはやらない。

テレビ見るなら、意外と硬派なNHK。

本はあまり読まなくて、入社1年目に買ったビジネス本が積読してある。



洗濯は1週間に一度、掃除はゴミの日の前日。

彼女がいたときは、奮発してデパ地下のお惣菜もよく買ってたよね。

俺だったら体のことを考えて、手料理を作ってあげるけど。

彼女がよく家に来てたのに、生ごみが少ないのは、家庭的じゃなくて良くないよ。



ちょっと言い訳するとね、もちろん、初めて会ったときから北村のことは好きだったよ。

働き始めてまもなく、アパートに高校の友達が来てたよね?

その時、俺のことベタ褒めしてくれたじゃん。

カッコイイとか、シュッとしてるとか、優しいとか、頭がいいとか。

その時、俺たちもう両想いなんだって確信したんだ。



それでも、こうして5年間も手を出さなかったのはさ、やっぱり価値観や生活がどこまで合うか知ってからじゃないと、って思ってたからね。

今のところ何一つ問題はないよ。


あとは体の相性くらいかな?

でもそれは俺の努力次第でもあるから大丈夫!



今日はいつもより1時間も早くベッドに入ったね。

昨日の余韻を噛み締めてくれているなら嬉しいよ。

スマホのライトが消えたから、そろそろ寝たかな?

さて、そろそろ行くから。

断りなく合鍵を作ったのは申し訳ないけど、どうせ今から恋人同士になるんだから、構わないよね。



――おわり――

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