第28話 4人で、壁の上で

 4人で壁の上に座り、沈みゆく夕焼けを見ている。施設で働いているときも同じように日は沈んでいっていたのだろうが、こんな風にのんびり観察する余裕は当時はなかったな。


 他の3人も同じことを思いながら空を眺めているのかもしれない。


 そんなロマンティックな雰囲気の中、まず言葉を発したのはサフランだ。


 「いい景色ですね。これを見れるのも全てフール様のおかげですね」


 「いや、俺だけじゃなくてみんなもよく頑張ったよ。サフランの回復魔法にナッカの錬成魔法。あとリーメルも騎士を倒してたしな」


 「リーメルって騎士を倒したんだ。その… 大丈夫なの?精神的に」


 「別に。あそこで殺さなければ、自分が殺されてたし」


 他の奴隷たちも頑張ったが、特にこの3人の功績が大きかった。彼女たちがいなければ、奴隷側にもっと被害が出ていたことだろう。


 「それでも一番の功労者は満場一致でフール様ですよ。あなたがいなければ私たちは領主に皆殺しにされていました」


 サフランのこの言葉を契機に他の二人にも改めて礼を言われた。

 改めて俺は数百人の奴隷を解放したんだなと実感する。


 振り向くと施設の内側では、元奴隷たちがまだ宴に興じている。昨日まで想像もつかなかった光景だ。


 ここに落ちてきてから急激にパワーアップした俺の付与術。もしかしたらこの力は、苦しむ人々を救うために得た力だったのかもしれないな。



 「ところで解放した他の奴隷たちってこれからどうなるんだ?逃げるあてはあるのか?」


 ふと気になったので3人に聞いてみた。3人共少し険しい顔をする。


 「帰る場所がある人もいるでしょうけど、何割かはここから南にあるスラム街に行くことになるでしょうね。あそこは国でも下手に手を出せない巨大な無法地帯ですから」


 「ああ、そうなっちゃうのか…」


 奴隷を解放しただけで全て解決という簡単な話でもないのか。


 「奴隷から解放してくれただけでも感謝しきれないことなのよ。これ以上フールが気に掛けることじゃないわ」


 「それにここよりはスラムの方がまだいいと思う。奴隷生活はご飯が出てくるけど、命の方が大事だから」


 以前のリーメルは奴隷はただ飯食えるとやや肯定的な意見を言っていた気がするが、奴隷たちが殺処分されかけたことで考えが変わったのだろう。


 二人が奴隷たちのこれからのことは気にしないでいいと言ってくれるが、やはりモヤモヤする。

 反乱を成功させて命は救ったけど、あそこで死んだ方がよかったという人も中にはいるかもしれない。難しい問題だ。


 「奴隷を解放しても、まだ問題があるわけか。これは国ごと変わらないと良くならないな。いやいっそのこと世界ごとかもな」


 この中央王国だけでなく、帝国にも闇が深い問題がありそうだったしな。カーラの独裁に、魔族との戦争。あの国のせいで俺たちクラスメイトはこの世界に兵として召喚されて、俺は奴隷なんてする羽目になったわけだし。


 おそらく他の国にも問題がいっぱいあるだろう。とんでもない世界に来てしまったものだ。


 「「「世界…」」」


 3人がこちらを見て目を輝かせている。どうしたのだろうか。


 「まさかフール様はそんな広い視野を持っていたとは」


 「そりゃあこんな小さな施設の奴隷を解放するくらい朝飯前よね」


 「さすが私たちの救世主」


 なんか世界という言葉が思ったよりはまったみたいだ。まだ二つの国のことしか知らないんですけどね。


 「大それたことを言いすぎた」と訂正するのも恥ずかしいので、特に触れずにおこう。


 「そういえばサフランとリーメルはこれから俺と一緒に行動するんだったよな。俺この国の一般常識とか知らないから頼りにしてるんだけど、まずはどこへ向かえばいいかな」


 「二人とはそんな話してたの?私だけ仲間外れってこと?」


 ナッカが突っかかってきた。

 

 「今朝はナッカに脱獄の話をするタイミングがなくて… それにナッカにはゴッダさんがいるから俺と来なくてもいいと思って」


 「そういうこと。私も一緒に行きたいけど、パパがまだ本調子じゃないし仕方ないわね」


 納得してくれたようだ。


 「それで二人の意見は?」


 俺は再度サフランとリーメルに問う。

 

 「少しリーメルと話し合ってから決めさせてください」


 「?そうか、じっくり考えてくれ」


 逃亡先を考えるとなる、そんな簡単には答えが出せないのだろう。命がかかってりうわけだしな。俺はこの世界の素人なので特に意見を出さずに任せっきりにすることにする。


 明日以降の話もとりあえずこれで済んだな。

 これで明日からようやく奴隷じゃない生活が始まるのだ。


 バタッ!


 突然音がした。何だろうか。人が倒れたような。


 3人の俺を見て驚き心配する反応で倒れたのが自分だと気づいた。痛みとかは特にない。ただすごく眠い。

 

 おそらく人狩り戦で少し無茶をした”魔力付与”の反動が、緊張が解けたこのタイミングでどっと押し寄せてきたのだろう。


 「どうしたんですか!?」

 「人狩りのダメージ?」

 「サフランは早く回復魔法を…!」


 「ごめん眠い。ちょっと寝る」

 「「「へ?」」」


 俺は3人にそう言い残してそのまま眠りについた。

 

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