ニート、ケモ耳美少女を拾う
<ミリィ=マクスウェル>
種族:獣人(狼)
ジョブ:バトルメイド
スキル:家事Lv.4、暗器術Lv.1、奉仕の心、治癒の素質、被虐体質
状態:隷属(愛)
スマホの画面を見ながら、俺の頭にはいくつものクエスチョンマークが浮かんでいた。
えっと、まずは何処から突っ込もうか。
「この、バトルメイドと言うのは?」
「まずそこから聞きますか。もっと他に突っ込むところがあるでしょう」
いや、手始めに……。
「まぁ良いです。ハヤトさんには最初から期待してませんでしたから」
盛大に溜息をつきながらも、リゼルは説明を始めてくれた。
「バトルメイドは、その名の通り戦うメイドさんですね。主の生活を守り、またある時には主の身を守る。ハヤトさんの居た世界で言う、家政婦とSPを足して二で割ったようなジョブです」
ふむ、なるほど。
「それじゃあ次に、なぜもう隷属しているんだ?」
しかも、すでに(愛)だ。
「そりゃあ、彼女がハヤトさんの事を主人と認めたからでしょう。隷属スキルの発動条件は色々ありますけど、今回はレアケースです」
つまり、ミリィ自身が奴隷になる事を望んだからって事か。
確認するようにミリィを眺めていると、なぜか頬を赤らめて目を逸らされた。
……最後の質問だ。
「被虐体質って、なんだ?」
むしろ、これが今回もっとも気になっていた事だ。
名称もさる事ながら、効果が全く分からない。
それどころか、マイナススキルなのかどうなのかも分からない。
「それは、パッシブスキルですね。私も見るのは初めてですけど、『相手から与えられる苦痛を軽減する』らしいです」
リゼルがどこからか取り出した冊子を見ながら解説してくれる。
つまり、マゾ気質って事で良いのか?
「まぁ、概ねそれで良いと思いますよ。夜の生活にも効果があるみたいですし」
……エロスキルじゃないか。
チラッとミリィを見ると、なぜか照れられてしまった。
この子の考えている事がイマイチ良く分からない。
「そもそも、童貞のハヤトさんに女の子の気持ちなんて分かりっこないでしょう」
まぁ、そうなんだけど……。
それにしても、あんまり女の子の前で童貞童貞言わないでくれないか?
「別に、ハヤトさんが童貞でも何の問題もないでしょう」
「そうそう。私には関係ないし」
「わ、私も経験ないから大丈夫ですっ。一緒です!」
口々にそう言われて、なんだか泣きそうになってくる。
ともかく、これ以上この話をしていても実りはないので話を戻そう。
「戻すったって、これ以上突っ込むところなんてないでしょう」
「別にここは、ミリィのステータスに突っ込もうの会じゃないだろ。他にも話す事はある」
たとえば、今後の方針とか。
正直、今回は被害が多すぎた。
「そうかしら? あれくらいなら想定の範囲内じゃない?」
「想定の中でも最悪寄りの、な」
ゴブリンの約半分が殺されて、残りの二割が負傷してしばらく使えない。
しかも、分断に使った降下天井は元に戻すのにもポイントを使ってしまった。
二回目に使った奴は放置しておいても良いだろうが、最初の奴は入り口付近で使ってしまったから戻さない訳にはいかない。
それだけで、殺した冒険者一人分くらいのポイントが飛んでいってしまった。
この戦闘によって得たものは苗床一人に、殺した事で得たポイントから必要経費を差っ引いた300ポイント。
これからダンジョンを経営していく上で、これじゃ心許ない。
「まぁ、苗床だって一人じゃ足りませんしね」
「そう言うものなの?」
「人間一人が一度に産めるのは、せいぜい三匹まで。それも、時間が掛かる」
って、書いてあった。
「そうですねぇ。ゴブリンの妊娠期間は短いですけど、それでも五日に一回程度でしょう」
それなら、もっと強いモンスターを召喚してそれをコツコツ増やした方がはるかに建設的だ。
「かと言って、強いモンスターを召喚するにはポイントが心許ないですし」
「これじゃあ、最悪は次の襲撃で負けてしまう」
しかも、帰ってこない冒険者を探す為にこの間より強い者が来る可能性が極めて高い。
準備期間が二、三日あるだろうけど、それではたぶん時間が足りない。
切り札のネールも、出来るだけ使いたくないのが本心だ。
「だけど、出し惜しみしてる場合じゃないわよ」
確かにその言葉にも一理あるけど、例えネールを使って撃退しても次はもっと強い奴が来るだろう。
そうすれば、いくらネールだってタダじゃ済まないだろう。
できる事なら、ネールを危ない目に遭わせたくないしな。
「甘いですねぇ。まっ、そこがハヤトさんの良い所なんでしょうけど」
やれやれと肩を竦めながらも、リゼルに文句はないらしい。
「だけど、それならどうするんです?」
話についてこれていなかったミリィも、何とか理解できたみたいで質問をしてくる。
そう、それなんだよな。
あれは嫌、これは駄目、では何も決まらない。
腕を組んで考え込んでいると、どこからかクゥーっと可愛らしいお腹の音が聞こえてきた。
顔をあげると、真っ赤な顔をしたミリィがお腹を押さえて怯えている。
その表情は、今にも怒られる事を恐れているみたいでなんとも可哀想だ。
一度ついてしまった習慣は、なかなか消えないんだろうな。
ここにはそんな事で怒る人間はいないと言う事を、少しずつ教えていくしかないな。
「……とりあえず、飯にしようか」
優しく微笑みながらミリィの頭を撫でると、ビクッと身体を震わせた後に俺の手に身を任せてきた。
「じゃあっ、じゃあっ! 私が作るです!」
ひとしきり撫でて満足していると、ミリィがぴょんぴょんと跳ねながら手を上げる。
そう言えば、ミリィは家事のスキルを持っていたっけ。
「同じカジでも、ネールっちの持ってるのは鍛冶ですからね」
「五月蝿いわね。いつか役に立つ時だって来るわよ」
隅の方で小競り合いが始まった気がするが、関わらない方が利口だ。
二人を無視して、ミリィに向き直る。
「作るって言っても、ここにはイモモドキくらいしかないぞ」
あとは、ポイントでも買えるけどちょっと高い。
「大丈夫なのです。あっ、でも少しだけ調味料が欲しいです」
グッと胸の前で握り拳を握ったミリィだったが、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべる。
こうやって見ていると、コロコロと表情が変わってとても可愛い。
どうして、こんな子が虐められなくちゃいけないんだ……。
「ご主人様?」
「え……? ああ、ごめん。調味料くらいなら大丈夫だぞ」
「わぁ、ありがとうです!」
どす黒い感情に沈みそうになっていた俺は、ミリィの声で引き戻された。
……きっとこういう事は、あまり真剣に考えちゃいけないんだな。
平常心を保てば、大丈夫だ。
ミリィが欲しがった調味料をポイントで購入して渡すと、まるで子供がおもちゃを貰ったようにはしゃぎながらキッチンへと向かう。
ちなみにキッチンも、どうしても肉が焼きたかったリゼルの自腹なのは言うまでもない。
この調子で、家財道具一式を出してはくれないだろうか。
冷蔵庫と洗濯機が欲しい。
まぁ、己の欲望は隅に置いておこう。
そうこうしているうちにも、部屋の中には美味しそうな匂いが漂ってきた。
あまり食にこだわりのない俺でも、思わずお腹が空いてきてしまう。
それは他の二人も同じのようで、さっきまで言い争っていたのが嘘のように静かに料理の完成を待っている。
待つ事10分、俺たちの前に運ばれてきたのは美味そうに湯気を立てる料理たちだった。
イモモドキだけじゃなく残っていた肉も使ったみたいで、可愛い女の子が作ったと言う贔屓目を抜きにしても美味そうだった。
……そう、女の子の手料理である。
これまでの人生で一度も縁のなかった、これからも俺には縁のない物だと思っていた手料理。
しかも、これを作ったのは目の前に居る獣耳美少女だ。
まだ食べてもいないのに、涙が出てきそうになる。
「ご、ご主人様。どうしたんですか?」
「ああ、放っておいて大丈夫ですよ。ただの感涙ですから」
「手料理くらいで大袈裟ね」
五月蝿い。
お前たちには、モテない男の悲しみなど分からないんだ。
「ええ、分かりませんよ」
「と言うか、分かりたくもないわね」
カウンターが見事に決まって、俺はその場に突っ伏してしまう。
それでも料理を零さなかったのは、きっと執念のなせる技だろう。
そんな俺を、ミリィだけは優しく介抱してくれた。
「大丈夫です、ご主人様。私はご主人様が大好きなのです」
そんな事を言いながら笑顔で見つめられると、どうしたら良いか分からない。
「笑えば、良いと思うよ」
どこぞの中学生みたいな事を言ったリゼルの皿には、もう料理がほとんど残っていなかった。
……食べるの早すぎるだろ。
いったいその小さな身体のどこにそれだけの食べ物が入っているんだ?
だけど、それは触れてはいけないと俺の中の何かが告げている。
「ねぇ、主様。遊ぶのは良いんだけど、早く食べないと料理が冷めるわよ」
「そうですよ。いらないなら、私が食べてあげましょうか?」
食べるから、今にも横取りしそうな体勢を止めてくれ。
慌てて箸を手に取ると、料理を口に運ぶ。
……美味い。
生で食べた時の猛烈なエグミが嘘のようになくなったイモモドキは、掛けられているソースと絡まり合って最高に美味い。
他の料理も口に入れると、それぞれに違った美味さがあって箸が止まらなくなってしまう。
「と言うか、ハヤトさんの語彙の少なさに驚きですよ。もっとちゃんとしたグルメコメントはできないんですか?」
「一般人には、これが限界だ」
だいたい、毎回のようにグルメリポートをする奴なんか鬱陶しいだろう。
「それもそうですね」
美味しい料理を食べたからだろうか、リゼルの毒舌も鳴りを潜めているような気がする。
「お口に、合いましたか?」
そうやって料理を楽しんでいると、隣でミリィが不安そうに尋ねてきた。
「最高に、美味い」
「ええ、こんなにおいしい料理を食べたのは久しぶりだわ」
「ですです。今日の朝なんか、ただ肉を焼いただけでしたから」
料理ができない三人が口々に褒めると、ミリィは照れたように頬を赤らめていた。
「可愛いなぁ。こりゃあ、食後のデザートはミリィで決まりだな」
俺の言葉みたいに話すのはやめろ。
「うわ。主様って最低ね」
だから、俺じゃないって。
「ご主人様にだったら、良いですよ」
……はい?
突然のミリィの言葉に、俺たちは言葉を失ってしまった。
ダンジョン・リライフ ~陰キャニートはダンジョンで人並みの幸せを望む~ 樋川カイト @mozu241
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