魔術紋章が無いと追放された魔導貴族嫡男、ダークサイドで最強を目指す

三日月猫@剣聖メイド2巻6月25日発売!

第1話 過労死した社畜、魔導貴族の嫡男に転生する。グレイス―0歳


 俺、佐藤幹隆は、日夜業務に追われているどこにでもいる社畜だ。


 日々、終わらない業務に頭を悩まされ、栄養ドリンクを飲みながらパソコンの画面を睨み付ける毎日。


 俺は何のために生きているのだろう。俺は、このまま一人孤独に死んでいくのではないのか。


 高校でできた友人たちは皆家庭を持ってから疎遠になり、会社では、業務以外の会話を人としない。


 社会人になって九年目。親とは縁を切り、家族すらいない、二十七歳の孤独な独身男。


 毎日毎日、仕事して、メシ食って、風呂沸かして、洗濯して、歳を取るだけの作業の連続。


 本当に、つまらない人生だ。これから先、オレはこんな人生をずっと繰り返していくのだろうか。


 三十間近となった俺は、いつも、そんな漠然とした不安に苛まされていた。


「……はぁ、何か、頭痛いな……」


 ―――――そんなある日。


 毎度のように会社に一人残って残業を行っていると、突如、頭がズキズキと痛み始めた。


 最初は軽い偏頭痛だと思っていた。寝不足だと、頭痛が起こるのはいつものことだからだ。


 しかし……どんどん、頭の痛みが強烈なものへと変わっていく。


 その後、俺は頭の痛みに耐え切れず、倒れるようにキーボードの上に突っ伏してしまう。


 身体が思うように動かない。視界が、グワングワンと歪んでいるように見える。


 三日間、ろくに寝ていなかったから、疲労がピークに達したのだろうか。


 心臓の鼓動がドクンドクンと耳の中に鳴り響き、徐々に、呼吸が浅くなっていく。


「……嘘、だろ…………これ、って……」


 瞼が徐々に閉じていき……俺はそこでようやく、自分が過労によって倒れたことに気が付いた。


 身体の感覚が無くなり、明確に、これはやばいということを直感する。


 だが、今現在会社に残っているのは俺だけだ。誰もここに、助けなど来ない。


「は、ははは……孤独を埋めるために仕事に逃げていたから、自業自得といえば自業自得なのだろうが……何ともつまらない終わり方だな……」


 暗闇に浮かぶパソコンの白い画面を視界に映し、俺はそのまま目を完全に閉じて―――意識を失っていった。


 佐藤幹孝 享年27歳。


 俺は……過労死によって、あっけなくこの世を去ることになった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(……? ま、眩しい……ここは、どこだ……?)


 意識が覚醒する。すると、俺の目に、眩しい光が突き刺さった。


 どうやら自分は現在、ベッドの上にいるようだった。だが、何か違和感を感じる。


 身体が思うように動かせない。口を開いても「だぁだぁ」という赤ん坊のような声しか出ない。


 俺が横になっているこのベッドの周囲には、大きな木製の柵が取り付けられており、頭上には星や月などの模型が糸によって吊るされた赤ん坊をあやす知育玩具―――ベビーメリーがぶらさがっていた。


 俺はその光景を見て、わけもわからず混乱してしまう。


 何故、二十七歳にもなって俺は、ベビーベッドの上で寝ているのだろうか? と。


「おや? 起きたのかい、グレイス」


 状況を理解できずに目を瞬かせていると、突如視界に、ベビーベッドを覗き込む男が現れた。


 顎髭を伸ばし、豪奢な黒いスーツを着た、若い男だ。


 彼は大の大人である俺を軽々と抱くと……頬に、ジョリジョリとその髭を擦り付けてくる。


「おーよしよしよしよし、可愛いグレイスやー!! パパでちゅよー!! もう、本当にうちの息子は可愛くて仕方がないなーっ!! ちゅってしちゃう、ちゅって!!!!」


(う゛、うおぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!!!!!! やめろやめろやめろー!! 髭を擦りつけてくるな!! キスするな!! 気持ち悪ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!)


 見知らぬ男にもみくちゃにされた俺は、げっそりとして、力を失ってしまう。


 一頻りキスをし終えると、男はそんな俺を抱きながら、窓際へと近寄っていった。


「グレイス。お前はいずれこの家……六大魔道貴族の一角『レーテフォンベルグ』の当主になる男だ。だから父さんは、お前が当主になるその日までに、この地をより良いものへとするつもりさ」


 窓ガラスの外に映るのは、噴水やバラの庭園などが見える、広大な中庭の姿。


 中庭では、メイド服の女性たちが箒を手に持ち、せっせと庭掃除に奔走していた。


 その中世ヨーロッパのような美しい光景に呆然としていると……ふいに、窓ガラスが反射し、自分の姿がそこに移る。


「あ……あぅあッ!?」


 思わず、驚きの声を漏らしてしまう。


 何故なら、窓ガラスに反射して映っていたのは、生前のクマが深い社畜の姿などでは断じてなく。


 そこにいたのは、黒髪紅目の、顔立ちが整った赤ん坊の姿だったからだ――――。

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