《1万PV感謝記念》とある配信者
今宵、精神魔法の不思議だった部分が明かされる……!!
あと時系列的にはメルヘスが街を破壊しまくった動画が公開された頃。
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「あー!!!やってらんねぇ!!!!!」
ああ、始まった………。
地下迷宮、あるいはダンジョンと呼ばれる場所のマスタールーム部屋にいる魔物は、目の前にいる発狂する主を見てそう思った。
ここ最近、主はよく発狂する。
原因は明白だ。このダンジョンに仕掛けている罠やギミックを悉く解除し、宝箱を全て回収していく攻略者が現れた事だ。あぁ後、配信が上手く行ってない事もあった。
「主」
「ストップ。分かってるよ。落ち着けって話だろ?けどさぁ!!」
「分かってないじゃないですか………」
こうなった主は面倒臭い。
周りに当たるような理不尽な真似はしないのだが、奇行に走るケースが多いのだ。
前はマスタールームにスライムを大量召喚したと思ったら
「スライムプールだ!フハハ!
そらそらぁ!!俺の服を溶かせぇ!!ヒャハハ!!」
と叫んでいた。
見た目は花も恥じらう美少女なのだからやめて欲しい。いやほんとに。
その前は無駄に装飾の凝った大鎌と特に意味のない魔法陣の描かれた両目を隠す眼帯。
さらには鎖のついた手枷と足枷、奴隷が着るようなボロい貫頭衣を購入、身につけて
「私は封印された少女……誰か助けて……」
と言っていた。
特に反応せずにスルーしていたら無言で蹴られた。
いや、あなた特に封印なんてされてないでしょ。
が、こういう場合、余計なツッコミをすると余計に面倒なので適当に流した。
………これなら理不尽でもいいから八つ当たりの方がいいかもしれない。
八つ当たりなら被害は私だけだし。
しかし前者は私以外にも矛先が向く可能性がある。
本当にやめてほしい。
ダンジョンの中には、まだ主を尊敬の眼差しで見ている者もいるのだ。
毎回毎回、誤魔化す私の立場にもなってみて欲しい。
おかげで今では言い訳が考えずとも出てくるようになってしまった。
まぁ、こうして主を諌めている私だが、正直私自身もあの攻略者には思う所がある。これでも世界最大で最高難度のダンジョンの主の側近なのだ。
ちっぽけでもプライドというものがある。
「今は足止め出来てるのでしょう?今のうちに新しい案を出しましょうよ」
「新しい案?はっ!そんなのねぇよ!資金もないしな!!」
「まぁまぁ。ではこんなのは如何でしょう?
無色無臭の毒ガスの階層です。足を踏み入れれば最後、死因も分からず死んでいく。前の階層に対策アイテムを宝箱に入れておけば、主のポリシーにも反しません」
「いやいや、お前あの攻略者の事ちゃんと見てる?
それでくたばってくれればいいけど、俺には分かるぞ。
アイツがまた『何となく、この先は危ない!』とか言って、前の階層で大量に宝箱を開けられて悠々と突破されるに決まってる」
「いや、いくら何でもそれは…………ありそうですね……」
冷静に考えれば、そんな事はあり得ないと一笑に付すところだが、これまでの事を鑑みると笑えない。
そのくらい、あの攻略者はふざけた性能の勘を持っている。
「それどこか、対策アイテムを乱獲されて地上で売り捌いてそうだ。
そうなりゃ俺たちは赤字も赤字の大赤字だ。
ただでさえ支出が増え、収入が減ってきてるってのに」
「……申し訳ございません」
「いや、これはお前の責任では無い。そして俺の責任でも無い!!
と言いたい所だが、収入が減ってるのは俺のせいなんだよなぁ。
まぁ資金難の原因は確実にアイツだから、こんなに苦しいのは俺のせいじゃ無い!!」
「まぁ支出の方はまた後で対策を考えるとして。
収入の方は何故減ったのですか?
主が散々配信で自慢してた罠やギミックが悉く解除されてるのですから、むしろ収入は増えてそうですが?」
「自慢いうな。まぁ確かに、それを狙ってメスガキ演じてたとこはあるけどな。
俺も不思議だったんだよ。けどほんとに最近原因が分かった」
そう言うと主は私にウィンドウを掲げる。
そこには一つのチャンネルが表示されていた。
「それは?」
「俺の後輩だ。こいつが神界で大バズりしてやがる。
だから単純にウチを見にくる神様が減ったって話だ」
「ふむ……戦えない配信者、ですか。
中々攻めたタイトルですね?」
「実際にほとんど戦えないんだとよ。
転生特典魔法は精神魔法で、アイテムは神癒のイヤリングって名前の回復アイテム。
どれも戦闘にほとんどと言っていいほど役に立たない。あるのは天使としての身体能力だけだ」
「なるほど。しかし確か精神魔法は相手の精神を支配できる代物だったのでは?
それを駆使すれば………」
「何でも精神魔法は人間相手……多分しっかりとした理性を持った相手だと効果がないみたいだ。
配信で本人がそう言ってる。でなきゃ、次の転生者にどんな魔法を取って欲しいのかアンケートで一位に輝けねーよ」
ふむ。思った以上に制約があるようですね。
主の転生特典魔法も中々クセのあるものでしたが、件の配信者のそれは頭一つ抜けています。
「では、魔物ではどうですか?魔物はその大部分が大した理性を持ちません」
「…………」
「どうしました?」
「いや、まるで自分は魔物ではない様な言い草だと思ってな?」
「半分くらい違うでしょう。それより」
「ああ、精神魔法は魔物には有効かどうかだろ?
もちろん効果覿面だ。俺らには及ばないが、相当数の魔物を支配下に置いてる」
「では………」
「いや、そんな甘くない。そいつは気づいていないが、どうやら長期間に渡って魔物を支配するには定期的に支配の術を施すか、自分の魔力をやらないといけないみたいだ。
その証拠に………ほら、末端の魔物はもう支配が解けてる」
主がひとつの動画を見せてくれた。
そこに映る魔物の4割ほどは、確かに支配が解けている。
「なら何故魔物たちは配信者に従っておるのだ?
普通は逃げ出すなり、襲いかかるなりするだろう?」
精神魔法が特別なのか?
転生特典魔法だから、あり得ない話ではない。
それとも我らでも知らない技術でも?
いや、主は「俺の後輩」と言っておった。
最初の動画の投稿日を見ても、転生したのはつい最近。
そう簡単に新しい技術は………。
いや、そう考える事こそ早計か?
配信者と言うのは何かと優秀な人物が多い。
特に神界で頭角を表す人物は漏れなく、特定の分野の天才と言っていい。
主も普段の態度やここ最近の行動からは想像もつかないが、天才と言える人物だ。
その配信者も特定の分野………例えば魔力の性質変換における天才であるとか………。
「はい、落ち着いてー。クールダウン、クールダウン。本性でかかってる。
そんなに難しく考える事じゃないよ。単純な話だ。
群れのリーダー格……そいつが特級戦力と呼んでいる魔物たちが統率してるんだろうな」
おっと、つい思考に集中してしまった。
いつも、他の何かに集中すると容易く仮面が剥がれる。気を付けねば。
しかし、主の言う事が本当だとすると、その特級戦力とやらは本当に恐ろしいな。
「……道理で神界で頭角を表すはずです。
私もどんな人物なのか気になりますから」
「あー俺も、そいつみたいな才能があればなぁ!!
てか、なんで俺はそいつを庇ってたんだ?
むしろ憎むべき所じゃね?視聴者取られてるわけだし。
でもなぁ普通に面白いんだよなぁ……」
「はいはい。文句は後にしましょう。
収入がどうにもならないことは分かりました。
では支出の方をどうにかしましょう」
「どうにかしましょう(キリッ
じゃないんだよ。どうしようもないじゃなん、あんなの。
無理無理むーりー」
「………主?」
「ピエッ!………そんな怒んなくてもいいじゃん……グスッ」
はぁ、始まった……。
主がとる面倒な行動ランキング堂々の一位である嘘泣き。
こうなるとちょっとやそっとでは元には戻らない。
と言うより、私ではもうどうしようもない。
こう言う時は“彼女“に出てきてもらうしか………。
「あるじ!あるじー!!」
少し幼い声と共にマスタールームの扉が叩かれる。
その声を聞いた途端、主はそれまでの嘘泣きが嘘のようにキリッとした表情と体勢になる。
「どうしたの?入っておいで」
「はい!しつれいします!」
マスタールームに入ってきたのは人間の8歳くらいの少女。
少し頭の足りない所はあるが、元気いっぱいで、とても素直。見ているこちらも元気になる。
人間と違うのは、その頭からネコミミが生えている事。
そんなどこからどう見ても可愛い幼女は、私たちのダンジョンの最終ボス。
要するにラスボスだ。見た目からは想像できないが、ダンジョンの中で一番強い。
私を除いて、だが。まぁ、私は半分くらい魔物ではないから、選考されないか。
「よく来たね。どうしたの?」
「んとね、369階層でね、他のダンジョンのね、魔物が暴れてるの。
にゃーちゃんたち戦ってるけど………うぅ〜〜………」
「そっか。ありがとね?教えてくれて」
「あるじ……にゃーちゃんたちを助けてあげて?」
「もちろん。にゃーちゃんたちも大事な仲間だもんね」
「ありがと、あるじ!!」
「主」
「いや、いく必要はないよ。ここで俺が潰す」
そう宣言した主は宙にいくつもの画面を浮かべていた。
その画面には369階層が映っていて、私たちのダンジョンでは見かけない魔物が暴れていた。
「あーあ……派手に暴れてくれちゃって……
修繕するのにも資金がいるんだぞ?お前らが払うのかっての」
「あるじぃ……」
「あ、ごめんね。不安にさせちゃったね。
大丈夫。ほら、ここ押してみて」
「これ?」
「うん、それ。一緒に押そうか?せーの」
画面に表示されたボタンが押される。
すると画面に映る暴れる魔物がどんどん死んでいく。
ある画面では部屋いっぱいに水が満ちており、溺死した。
ある画面では部屋の床が全て無くなり、床の下にあった強力な酸によって溶かされて死んだ。
ある画面では青紫の炎が部屋を包んでおり、焼死。
斬死、圧迫死、出血死、病死、壊死、惨死、呪死。ありとあらゆる方法で敵が死ぬ。
そして最後の画面に映る敵は部屋の隅に追い詰められていた。
敵の目の前には剣を持った骸。
その骸はつい先ほどまで仲間だったものだ。
敵は思わずと言った様子で呟く。
「神謀の、魔王」
骸は大きく剣を振りかぶり、首を刎ねた。
それを最後まで見ていた主は。
神謀の魔王と呼ばれるに相応しい冷笑を浮かべていた。
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はい。そう言うことです。
不思議に思わなくても違和感を覚えていた人もいたのではないでしょうか?
魔物を支配できるなら戦えないは大袈裟ではないかと。
その理由が本文のアレです。
まぁちゃんとペットの面倒は見ないといけないよねって地雷です。
説明に載っていないのがイヤらしいですよねぇ。
メルヘスは無事地雷を回避しましたけど。
ちなみにこの配信者はめっちゃ後ですが、登場します。
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