さぁ覚悟を決めようぜ

「ジェリア、さっきのって…」


「あの古株の言ってることなんて気にしなくていいの!!

それにしても、あんたらも対象ってのが…

まさかね…」


右手で顎を撫でながらそうつぶやくジェリア。

何か嫌な予感がした。


拝竜祭、成人、ジェリアの齢、僕たちも対象…


そこから考えられることは…


「「決闘への参加!?」」


僕とジェリアの声が見事に重なった。

まさか、そんな事があるはずない。

だって…

聞けば拝竜祭は竜人族の祭り。


そして竜人族は排他的な種族、

そのプライドの高さから考えて異物を自分たちの祭りに参加させるはずがない。


ジェリアも同じことを考えているのか、

右手で顎のあたりを撫でまわしている。


「ジェリア、どう思う?」


わずかに顔を上げてジェリアの様子を伺ってみる。

僕だけじゃどうにもならない、

竜人族の考えは僕には分からない。


「完全に罠よね。」


ジェリアは短く言い捨てる。

きっぱりと、一つの迷いもなく。


「大方、あんたら部外者をボロボロにして

無様な目に遭わせるのが目的ってところでしょ。

あの古株、汚い手を…」


ジェリアは歯噛みする。

まさかそこまで考えられてたなんて…


でも…


「誘いには乗らない方がいいのかな?」


「いや、それは違うわね。」


なんでだ?

リスクがあるのなら回避する、当然では?


「考えてもみなさい。

理由も知らない周りから見れば、あんたは逃げただけの弱虫。

どのみちここに来た時点で術中にはまってたのよ。」


唖然とした。

どこから仕組まれていたのか?

どこまでが計画されていたのか分からない。


それでも1つだけ分かるのは、

そこに悪意があるということだけ。


ジェリアはそこでニヤリと笑う。


「どのみち既にはまってんなら、利用してやるのよ。

あんたら2人のどっちか私が決闘で優勝するの。」


優勝するって…

でもそうしたらさ。


「でも、そうしたら、ジェリア…

ジェリアも、出るんだよね…」


「もちろんよ。」


そうだよ。なに質問してるんだよ、僕…

ホントに聞きたいの、そこじゃないだろ。


「あんたがしてる心配なんて気にする必要ないわ。

どうせ、私を倒さなきゃいけないなんて考えてるんでしょ?」


ジェリアはキッパリと言い放つ


「でもそれじゃ…ジェリアが…」


ジェリアはこの竜人族領で不遇な扱いを受けている。

そんなジェリアが部外者に負けたら…


「心配することはないわ。

私が勝てばあんたらを守ってやれる。

あんたが勝てばちょっとくらい扱いもマシにはなるでしょ。」


「僕が勝ったらジェリアは?」


僕が聞くとジェリアはにやりと笑う。


「そん時はあんたが守ってくれるんでしょ?」


それは、そうだけどさ…

それは、友達だからいざとなったらなんだけど…


「僕が優勝したとして、

それは受け入れられるのかな?」


そう、懸念材料は1つだけ。

仮に勝てたとしても、その事実を竜人族たちが受け入れるかどうか。


しかも今の話はジェリアと僕の空想上の話。

現実がどうなるかはやってみないと分からない。


ジェリアの顔を恐る恐る見上げると

彼女は不敵に笑っていた。


「あの古株が認めないってのなら

その時こそ戦争よ、全面戦争で叩き潰すの。」


そういえば言ってたな。

力を示す、でも相手は竜人族…


「今のあんたじゃ厳しいわ。だからねぇ…」


ジェリアの金の目がギラリと輝いた。

これは、まさか…


不敵に笑うジェリア、この感覚は昔にも感じたことがあった。

たしかあの時って…


「私の運動も兼ねて明日から特訓よ。

そこのガキはさておき、あんたはまだまだね。」


思い出した。

孤児院にいた時、ジェリアに魔法の練習と言われて

何度も何度も庭でボロボロにされかけたんだった。


まさか、ジェリアさん…


僕が理解した時には遅かった。

竜人族に腕力で敵うはずもない。

気付けばつかまれていた腕を振り払おうとするも、まぁ無力。

僕が彼女に敵うわけがない。


「さぁ、あんたお得意の逃げ足も封じたわ。

覚悟決めなさい、あんたに選択肢なんてないわ。」


◇◇◇


とはいえ特訓は明日からとのことで、

ジェリア曰く「とっとと寝なさい」だとさ。


言いたいことは言うくせに

他人には発言を許さない…


変わってないな…

そういうところだよ。


ジェリアのそんなところにももう慣れた。

僕もジェリアにならって目を閉じる。


◇◇◇


空気が冷たい。

さっきまでジェリアの家にいたはずなのに、

まるでどこか違う場所に来てしまったかのようだ。


<<今回は我が呼んでやったのだ。

感謝するがよいぞ、小娘。>>


頭の中に響く声に、半ばあきらめを感じて目を開ける。

目の前には少し前に見た竜(ゼルキア)がいた。


「何ですか?明日からジェリアと特訓があるんですけど。」


この竜の自分勝手さには、つくづく呆れかえる。

こちらの事情を知ってか知らずか、

こうして関係なく呼び出すんだから困ったもんんだ。


<<お主、祭りに参加するそうではないか。

友と同じ天使に無様な真似をさせたとあらば、我も顔向けができん。

どれ、我が直々に稽古をつけてやろうぞ。>>


竜人族が竜を祀るための祭り、それが拝竜祭(だったはず)。

その中心となる奴が贔屓なんかしてどうするんだよ…


(こんなのに関わっても碌なこと無いだろうなぁ)


それにそもそも

僕はゼルキアを信じきってはいない。


その目の奥に光る怪しげな光は

常に僕を捕らえ続けているようにさえ思えてしまう。


そしてなにより、なぜそのようなことをするのかすら分からない。


自分が崇められるのなら

わざわざ理由をつけてまで部外者に肩入れしようなどと思うはずもない。


結論…

「結構です、帰らせていただきますね。」


としたかったのだが相手は覇王竜ゼルキア、

そううまくいくはずもない。


背中を向けて一歩踏み出そうとした瞬間に体が動かなくなってしまう。


<<言ったであろう、我が目は全能眼。

森羅万象の全てを見抜く全能眼の前にお主の考えなど手を取るように分かる。

我からそう簡単に逃げらえると思うなよ?>>


ゼルキアには背を向けたままだ。

それでも分かる。

今、僕の後ろでこの竜は笑っている。


そもそも全能眼を使って始めから僕の深層心理を読んで

拘束することだって可能だったはずなんだ。

それをわざわざこのタイミングで動けなくしたということは

確実に意図的にやっているということ。


大方、僕に力の差を見せつけようとしてるんだろう。


「ゼルキア、あなたも性格が悪いなぁ。

どういうつもりですか?僕に選択権を与えないつもりですか?」


<<ここは人間の価値基準など意味を持たない。

弱肉強食、あの小娘から聞いたであろう。>>


弱肉強食か…

たしかに僕は人間の価値基準に染まりすぎているのかもしれないな。


<<ここでは力が全て。

その力の使い方に表と裏が存在する、それだけじゃ。>>


「つまりは何が言いたいんですか…」


ゼルキアは僕が興味を持ったように思えたのだろう。

わずかに呼吸が荒くなった気がする。


<<お主がこの竜人族領を変えてみせよ。

それだけじゃ。>>


僕はこの竜ゼルキアの言った

この言葉を一生忘れないだろう。

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